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ばたばたと、大粒の雨が地面を叩く。
もう冬なのに、こんなにも長く強い雨は、かなかな珍しいものだ。
しかも、こんな時に限って。
「…..っ!」
ズキズキと、腹に鋭い痛みが走る。
(……しくじった……)
ちっと小さく舌打ちをし、ズルズルとその場に座り込んだ。
ふと、空を見上げると、透明な粒たちが重力に逆らえず落ちてきた。
はぁ、と乾燥した唇から、か細い白い息が漏れる。
「血の匂いが近くなったぞ!」「ここら辺にいるはずだ!」「抜かりなく探せ!!」
バタバタと、慌ただしい足音が近づいてきた。
(見つかるのも、時間の問題か……)
腹の傷口に手を当て、ゆっくりと瞼を閉じる。
そうすると、あの日の暖かい陽気が蘇ってきた。
陽気によって誘われた眠気に従い、うとうとする中、愛おしい顔を見つめていた、あの日。
「………..」
もう、良いんだ。
唯一の家族であった彼ももう、いない。
どんなに彼の名前を呼ぼうと、愛してると叫ぼうと、もう二度と会えない。
なら、もう……。
指先から冷えていく体に身を任せ、私はもう二度と起きようとは思わなかった。
頬や体に、容赦なく打ち付ける雨粒の感覚がなくなり始めた。
(…….今から、会いに行くよ……)
そう思った、その時だった。
「___ちょっと!こんな所にいたら、風邪ひくわよ、風邪! 」
突然、はつらつとした声と共に、体を激しく揺さぶられた。
(…..ようやく自由になれると思ったのに…..)
その行為を疎ましく思いつつ、重たい瞼を上げる。
すると目の前には、人間離れした白銀の髪に、青と紫という、オッドアイの瞳を持つ、美しい女が、こちらを覗いていた。
その稲妻のような眼差しに、思わず見入ってしまう。
まるで、魔女のように、魅力的な瞳だ。
「良かった、意識はあるみたいね」
「……….」
ほっとしたように、微笑む彼女の柔らかそうな声に、疑問を抱く。
(……どうしてコイツは、私の心配を……?)
女は私の腹にある傷口を見ると、まるで自分のもののように、顔をしかめた。
「……ひどい傷…..」
っとその時、男たちの慌ただしい足音が、一際近くに聞こえてきた。
「おい!今、声が聞こえたぞ!!」「すぐ近くに黒薔薇はいるぞ!油断するな!」
(しまった、この女がここにいたら、巻き添えを食らわせてしまう…!)
「…..っお前、早く…..っ、消えろ…..!」
「え」
「早く!死にたいのか!」
「…..」
厳しい口調で急かすと、女は驚いたように瞳を大きくさせた後。
___ふるふると、優しく首を振った。
そして、次の瞬間、驚くべき言葉を口にする。
「…..帰りましょう、一緒に」
「は」
その衝撃発言に、思わず固まる。
(….何言ってんだ、この女….)
すると女は、ひょい、っと軽々しく私を持ち上げると、二カッとお日様のように笑った。
(って待って、持ち上げ….?)
「おっ、おい!?」
「?なあに?」
女子高生を、同じくらいの背丈の女が、持ち上げるって…。
しかもなんともなさそうに飄々としてる。
まるで、魔女が箒に乗って空を飛ぶように。
「さっ、行きましょ!」
女は、走り出した。
「…..」
……でも、なぜか。
なぜかは、分からないが。
なんでか、その腕の温もりが。
____とても、優しくて、温かかった。
これは、捨て猫と魔法使いの話。