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srhb
SRPくんの名前がVTAの時のものになっています。
ご本人様とは関係ありません。
ねえ、○○。
君がいなくなっても俺は君のことを愛し続けるから。
たとえ、この背中から羽がなくなっても。
いつか誰の記憶からも消え去っても。
だから、どうか。
もう一度、出会えたなら。
―――――――――――――
「いってきまーす!」
家を出てカフェに向かう彼は渡会雲雀という青年だ。
雲雀はカフェで正社員として働いており、幼馴染である風楽奏斗がオーナーをしていた。
「やっべー‼結構遅刻ギリか??」
ちょくちょく道をショートカットしつつ、カフェへ走って向かう。
「セーフ‼」
「いやアウトだね。14秒。」
「えー、そんくらい見逃してくれよぉ。」
先に来ていた奏斗があきれた視線を雲雀に向ける。
「そんなこと言ってたら、いつまでたっても遅刻するよ?」
「うぐ、そうかもやけどさぁ…。」
「はいはい。ほら、仕込みとかするよ。」
「おう。」
こうしてバイトの子と力を合わせながら準備を進めていく。
「よっし。そろそろか。」
時間になってカフェがオープンした。
「いらっしゃいませー!」
SNSで有名となってそこそこ人気なこのカフェは開店して早々たくさんのお客さんがやってきた。
スマホを持ってだべっている学生。
杖を突いてあるっている老人。
小さい子供を連れた家族。
通勤前なのかスーツを着ている若者。
それぞれが席に座り、オーダーをする。
なかなかに忙しいこの時間はバタバタと動いている。
「はい、お待たせしました。コーヒーブレンドです。」
にっこり笑って。
こぼさないように。
さりげなく利き手に持ち手を向けて。
そういうささやかな気遣いが大事だと教えられた。
最初にいたお客さんが帰って、新しいお客さんが来て。
うん。忙しい。
雲雀はそう思って働いていた。
ようやく忙しい時間が過ぎてお客さんがまばらになる。
いる人も常連さんで顔見知りばかりだ。
扉についていつベルが鳴った。
「いらっしゃいませ、」
案内しようと振り返って言葉を失った。
俺はこの人を知っている。
そう確信した。
ピンクブロンドの髪に赤いメッシュを持ち、まるで夕日のような瞳を持った男性。
「…あの、」
男性に声をかけられて我に返り、席に案内する。
「どうぞ、ごゆっくり。」
そう言葉をかけ、雲雀はバックヤードに戻った。
心臓が痛いくらいにはねていた。
「ひば、どしたん?大丈夫?」
見かねた奏斗が声をかけてくる。
「わかん、ない。でも、あの人見た途端心臓が痛くなって。」
「…。そう。無理しないでね。」
奏斗は雲雀の肩に手を置いた後、その手を振って「なら僕が対応するからひばは休んでて。」と言って出ていった。
息を吸ってはいてを切り返し、心臓の音を聞く。
先ほどよりもだいぶ落ち着いてきたようだった。
でも急になんであんな…。
雲雀は自問自答する。
いくら考えようと答えは出てこなかった。
「ひば、」
いくらか時間がたった後、奏斗に呼ばれた。
「なに?」
「その、あのお客さんがひばに会いたいって。」
あのお客さんというのはおそらくあの人で間違えないだろう。
「なんで?」
「わかんないけど…。とりあえず行ってもらってもいい?」
「わかった。」
バックヤードから出てあの人がすわっている席に向かう。
「あの」
声をかけると振り返った。
「何かご不満でも…?」
恐る恐るそう尋ねる。
彼はふわりと笑った。
「いや、すいません。俺がお兄さんのことどうしても気になっちゃって。」
「え?」
「あ、いや。深い意味はないんですけど、その…。」
お名前、教えていただけませんか?
そういわれて雲雀は固まる。
初めてあった人に名前を教えていいものか。
「あの。」
雲雀の体が後ろにひかれる。
「うちの店員に手を出さないでもらってもいいですか?」
奏斗がにらみを利かせていた。
「奏斗」
「失礼しました。不快にさせてしまったようですね。」
彼はすぐに謝り頭を下げる。
「でも」
言葉をつづけた。
「俺の言葉に嘘はないので。俺は、美園です。もしよかったら覚えてください。」
「え、あ、どうもご丁寧に…?」
「では。あ、コーヒーとてもおいしかったです。」
代金を置いて彼は店を出た。
「なんだったんだ?」
「ひば?気を付けてね?お前いろんな人にナンパされるんだから。」
「あれってナンパやったん?」
「だろうね。」
「でも」
「ほら、まだ仕事あるから行くよ。」
あの人のセリフはナンパよりもずっと重かったなんて、雲雀はいえなかった。
――――――――――
それからちょくちょくあの人はカフェにやってくるようになった。
奏斗は警戒しているようだったけど。
雲雀は普通に彼と話していた。
いつしか心を許すようになって、日常の話もするようになった。
「美園さん、今日もいらしてくれたんですか?」
「まぁ。」
「ありがとうございます。あ、クッキーサービスでつけちゃいますね。」
「やった。ありがとうございます」
いまだに雲雀は名前を教えなかったけれど、そろそろ教えてもいいかななんて。
いつの間にかほだされていた。
おいしそうにコーヒーを飲んでくれる姿がうれしくって。
おいしいと素直に告げてくれるのがうれしくて。
いつしか雲雀の視線にいとおしさが混ざった。
「俺の名前、渡会雲雀って言うんです。」
そう明かした時に彼は笑っていった。
「ごめんなさい。実は知ってたんです。」
「なんで?」
「だってほら、名札付けてるじゃないですか。」
胸に付けたプラスチックには確かに『渡会』と書かれていた。
「じゃあ、なんで名前呼んでくれなかったんですか?」
「教えられていないのに名前を呼ぶのは失礼かなって。でも、これからは雲雀さんって呼びます。」
「…美園さんの下の名前は何て言うんですか?」
「聡です。美園聡。」
「きれいな名前ですね。」
雲雀は優しく笑った。
その笑顔を見て聡は顔を赤らめた。
それに気づかないまま時間は過ぎていった。
―――――――――――――
聡がカフェに通い始めてから一年が経とうとしていた。
「雲雀さん。」
プライベートでも会うようになったある日、聡が意を決したように言った。
「俺と付き合ってください。」
その告白を受けて雲雀は目に涙をためる。
自分も彼を愛していたから。
「っはい!」
喜んでその告白を受け聡にだきつく。
それを受け止めて聡も雲雀をきつく抱きしめた。
「キス、してもいいですか?」
「よろこんで。」
唇が重なり、二人は結ばれる。
晴れ渡った空は二人を祝福しているようで。
何度もくちづけを交わしながら愛を確かめていく。
ふと、白い羽根と黒い羽根が落ちたように見えた。
見間違えかと思って口を放して確認するとそこには確かに羽根が落ちていた。
その羽根に見覚えがある気がしたのは気のせいか。
「ねえ、雲雀さん。俺はいつまでもあなたを愛し続けるから」
だから、そばにいてください。
そうつぶやく聡に雲雀は優しくキスを落とす。
「俺もあなたを離す気はないですよ」
――――――――――
ねえ、○○○。
俺がいなくなってずいぶん苦労を掛けてしまったな。
でも俺の愛が途切れたことは一度もないぜ。
俺はお前といれて幸せだった。
また会いたいと願ってしまうけれど、思い出も大切にしたい。
だけど、もう一度会えるなら。
その時はまた結ばれたらいいな。