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「恭美は自分を誰かに見て欲しい。そのための手段にミーチューブを使おうって考えたんじゃないかなって、今話してて思ったんだけど違うかな?」
そう尋ねると図星だったのか、恭美はうつ向いてしまう。下を向いた額を私は指で押して顔を起こすと、不安の色を浮かべた表情を見せる恭美に手を差し伸べる。
「それじゃあ行こうか?」
「え? ど、どこに?」
「恭美は麻琴に相談してくれたんでしょ。じゃあ麻琴は答えなきゃ」
手を握って立たせると、手を繋いだまま目的の場所へと連れて行く。
***
洋服売り場で棒立ちになっている恭美に服を当てると、持つように指示して後ろに下がって全体を見る。
「う~ん、恭美はスカートはあまり穿かないんだよね」
「は、はい。制服以外だとあまり……うわっ!?」
「もう! 敬語は使わない。麻琴のことは麻琴って呼ぶ」
私が恭美の頬を突っつくと、顔を赤くして必死に謝ってくる。
「え、えっと。麻琴は普段スカート穿くんです……あ、穿くの?」
「半々かなぁ。偏ったら新しい服と出会えないから満遍なく着る感じ。こだわりは大事だけど、新しい出会いを逃したくない欲張りさんだからねぇ。
恭美の好みを考えてっと……あっ、これがいいかも。ちょっと試着してみようよ」
店員さんに許可をもらって、恭美の背中を押して試着室に押し込み着替えるよう促す。
布が擦れる音がして、カーテンが揺れると恭美がそっと顔を出してくる。
「着替え終わった?」
恥ずかしそうに小さく頷く恭美が、ゆっくりとカーテンを開くがそのカーテンの影に隠れてモジモジしている。
トップにふんわりとしたベージュの甘ブラウス。細いサスペンダー付きの黒いパンツを穿いて恥ずかしがる姿に、グッとくるものがある。
「うん、似合ってる。派手な色じゃなくても、下を黒くしてメリハリ付けるだけでも印象は変わるから、ほらっ」
試着室に設置されている鏡へ振り向かせ、全体を見せる。
「ねっ全然違うでしょ? 洋服は一番簡単に出来るイメチェンだと思うんだ」
「か、形からとかって……その、おかしくないかな?」
「何でもそうだけど、初めはみんな真似から入るでしょ? 形から入ることは普通だと思うよ。それを笑う人は麻琴は嫌いだなぁ」
私の言葉に納得したのか、こくこくと頷く恭美は自分自身を見ながら、まだ恥ずかしそうにしている。
背中に視線を感じ、後ろを見ると店員さんと目が合ったので手を上げ声を掛ける。
***
「あのぉ、本当に買ってもらって良いのでしょうか?」
「いいのいいの、それよりまた敬語に戻ってるよ」
さっき試着した服を着た恭美が、申しわけなさそうに謝ってくる。私が敬語を注意すると口を押えハッとした表情をした後でまた謝ってくる。
相変わらずオドオドしているが、初めにあったときよりも表情は明るい。
「恭美は人に見てもらう前に、まずは自分のことを見てあげた方が良いかもね。そうだ、ちょっと麻琴の撮影場所があるんだけど寄っていかない?」
大きく頷く恭美を見て、私の気持ちも大きく弾む。