『食卓を。』ー黄青ー
⚠黄青 薔薇
俺の彼氏は料理が上手い。
彼とは同じ家に住んでいるが、毎日レストランのようなご飯が食卓に並ぶ。
仕事の時も、豪華どころの騒ぎじゃない弁当を作ってくれる。
そのせいで、俺は全く料理ができない。
全く、出来ない。
…ところで今日は何の日か分かるだろうか。
そう。彼の帰りが遅い日だ。
俺は今日がチャンスだと思っている。
今日こそ俺は料理をして、彼を喜ばせたい。
……あと褒められたい。
という訳で、彼の好物を作ろうと思う。
彼が好きなのは肉だ。
俺が好きなのはハンバーグ。
「…ハンバーグにするかぁ…」
椅子を離れて 始めるのは、材料を準備するところから。
俺は一旦冷蔵庫を漁ってみることにした。
…普段料理をしない弊害だ、何がどこに入っているのか分からない。
まぁ材料なんて肉と…玉ねぎくらいだろう。
そんな舐めたことを考えていたら、脳内で彼の言葉が蘇る。
『材料間違ったら違うもん出来るからな、せめてそれ位は調べろよ。…あとレシピも見ろ。お前は。』
これは俺がドリアを作ろうとしてキノコの炊き込みご飯が出来た時の話だ。
こいつはアホかと思っただろう。
違うじゃん。できたから仕方なく無い?
キノコ嫌いのアニキには、バチくそ怒られた記憶がある。
怒られるのはやだ。本当に。いやマジマジ。
まぁせめて材料くらいは調べてやってもいい。
ほっぽり出した携帯を手に取り検索をかける。
…肉、玉ねぎ、油…牛乳?パン粉??
はぁ”ん?何に使うん?
こうなってしまってはレシピを見るしかない。
「…よしっ、」
材料は用意できた。
始めてみるレシピ内の言葉に不安を覚えながら、手を動かし始める。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「で、出来たッ…」
やっと人に見せられそうなものが出来たことに喜びを隠せない。
と、同時に辺りを見回したその惨状に目を瞑りたくなる。
驚く元気もない。
包丁を持てば指を切り、両手が血まみれ絆創膏まみれ。
火を使えば火傷して、水で冷やしたから辺りはびしょびしょ。
使うものが分からず、無駄に増えた洗い物。
落とした布で滑って転び、頭上からは鍋の蓋が落ちてきて。
しまいには、自分の分のハンバーグを焦がしてしまった。
何でこうなる。
「まぁ、アニキ帰ってくるまで後1時間あるしぃ、…?」
次は片付けだ。
重い足を持ち上げ、痛む手を動かした。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「…いやなんでなん、?」
片付けを初めて早30分。
先程濡らした床で滑り、膝に出来た赤い痕。
水仕事で絆創膏は剥がれ、指は痛々しい状態。
片付け中にも火傷するとは思いもしなかった。
自分の不器用さを改めて突きつけられ、少し凹んだ今日この頃。
何とか片付けは終わり、机の準備もできた。
彼が帰ってくるまであと少し。
早くなる鼓動に緊張で溢れる汗。
出来たばかりの傷達がじんじん痛む。
外から足音が聞こえて、いっそう鼓動が早くなる。
がちゃりとドアの音が聞こえる。
同時に耳に入る彼の声。
『ただいま〜。』
「おかッ、えり、!」
いつもの挨拶なはずなのに、喉の奥で突っかえて上手く言葉が出てこない。
『ただいま♪…お、ぇ?』
「……どう、かな…。」
リビングはすぐそこだから、すぐに料理が目に入ったんだろう。
驚いた顔をして固まる彼に、絞り出した声で問いかける。
『まッ、まろッ…これッ…?!』
「作ッ、た…!」
『……天才やああああッ✨✨』
「わぶぁッッ…」
思いっきり抱き締められて、少しバランスを崩してしまう。
『めっちゃ美味そうッッ…はよ食べよッッ!!✨』
「ッうんっ、!」
『いただきますッ!!』
「いただきます…」
ドキドキしながら彼の顔を見つめる。
美味しいかな。大丈夫かな。
『…✨✨』
「ど、どうすか…?」
『美味い!!天才やなまろ?!✨✨』
「っほんまっ…?」
『ほんまほんま!!よぉ出来たなぁ!』
「ッ、良かったぁッ…」
一気に緊張がほぐれて、背もたれに寄り掛かる。
『ほんまにありがとな!愛してんで♪』
「ッ、急になんやねん、…///」
『いーやぁ?お礼言っとかんとなぁ思て♪ 』
「…アニキってほんとに…はぁ…///」
本当に格好良くて嫌になる。
俺が言えないことを簡単に言ってくる。
『…ところで、まろのそれは…?』
俺の皿を指さして彼は言う。
そうだった。俺の焦げてるんだわ。
「あッ、いやぁ…?」
『…失敗したんやな…笑』
「うぐぅ…」
返す言葉もない。
『…まろもこれ食べればええやん!』
「、へ?」
『はい、あ〜ん♪』
「ぁッ、あえッ、?!///」
『ん?ほら、口開けぇや♪ 』
「あ、ぅ、あ〜…ッ、///」
本当にこいつは恥ずかしげもなくッッ…
「あむッ…ぅん……✨」
「美味しくね?!まろ天才ちゃう?!✨✨」
思ったより美味しくて、つい自画自賛に熱が入ってしまった。
『さっきから言っとるやん!!天才やって!!』
「良かった~…頑張った甲斐があったわ…!」
「…ッ…ぁ…」
勢いがあり過ぎただろうか。
声をあげた矢先、手に鋭い痛みが走る。
さっき出来たばかりの傷達は、赤い液体を零して机を汚す。
『…?!まろ!手見せろ!!』
珍しく声を荒らげる彼に抵抗なんて出来るわけが無い。
大人しく手を差し出すと、彼は眉を下げて優しく俺の手を包む。
『こんな無理して…ごめんな、ありがとう…』
「なんでッ、アニキが謝るのッ…?」
『…そうやな。ほんまにありがとう。』
『手当し直そか。おいで。』
「…うん。」
怒ってる?呆れられた?嫌いになった?
そんな言葉はひとつも出てこなくて。
彼はこんな事で嫌いにならないと分かっていながら、冷や汗は止まらなかった。
『…まろ。』
「ッ、は、い…へッ、?」
急に視界から彼が消えて、暖かいものが身体を包む。
背中を優しく撫でられたときに、やっと抱きしめられていると気付いた。
「あ、にきッ…?」
『怒ってない。呆れてない。嫌ってない。』
「、へッ…」
『なんなら愛してる。』
「ぅえッ…?!///」
俺の心配を、一瞬で取り除くその言葉。
俺の背中を撫でながら、彼は優しい声色で言う。
『嫌いになんてなる訳ないやろ。』
「ぁ、でもッ、めいわくかけてッ、…」
『迷惑じゃない。むしろ嬉しい。』
「いっぱいッ、けがしてッ、…」
『それは気をつけて欲しいとこやな。』
『まぁ嫌いにはならないけど。』
「ぁ、ぅ…」
『もう言うことないやろ?』
「、で、も…」
『まろ。』
「、あ ̄」
優しく口を塞がれる。
見開いた目が乾くことはなく、視界は潤んでぼやけていた。
『泣き虫やなぁ、お前は。』
彼は優しい、優しい顔をしていて。
彼に撫でられる間にも零れる涙は、頬を伝って手に落ちる。
『…まろ。愛してる。』
『嫌いになんてならない。絶対。』
「ッ、まろもッ、愛してるッ、!///」
『さ、晩御飯の続きや!』
「うんっ!」
彼の隣なら、俺はいつだって笑顔になれる。
夕食が並ぶ食卓には、俺と彼の笑い声だけが優しく響いていた。
『今日は手使わないようにしろよ?』
「うッ…頑張ります。へへ…」
『…よし!今日は風呂一緒に入るか!』
「へッ…?!///」
『あ、勿論頭も身体も俺が洗ってやるから♡』
「ぇッ、ぁ、ッ…?!///」
『食卓を。』🕊 𝕖𝕟𝕕 𓂃 𓈒𓏸 💗
久々の小説…申し訳ないです…。
また頑張ります🔥
閲覧𝑻𝒉𝒂𝒏𝒌 𝒚𝒐𝒖✨
コメント
2件
これはカップルなのか...? 夫婦すぎるだろ!!(( 黒優しい...✨️