テラーノベル
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午後。
オフィスは昼食後の静けさに包まれていた。
キーボードの音だけが、一定のリズムで響いている。
私は午前中に頼まれた資料の続きを作っていた。
画面に集中しているつもりなのに、
先輩の「似て見えた」という言葉が、何度も胸の奥で反響する。
(……なんで、私に似て見えたんだろう)
そんなことを考えていたときだった。
ふと、視線を感じた。
顔を上げると、
少し離れた席で先輩がこちらを見ていた。
驚いたように、先輩の眉が小さく動く。
“見ていたことに気づかれた”ときの、あの癖。
「あ……ごめん」
先輩はすぐに視線をそらし、
資料に目を戻した。
そのとき、ほんの一瞬だけ
考えるときの癖で目を上に向けた。
まるで、自分でも理由が分からないように。
私は胸が熱くなるのを感じながら、
そっと画面に視線を戻した。
でも、手はすぐには動かなかった。
(……なんで、見てたんだろう)
理由なんて聞けない。
距離が近いわけじゃない。
ただ、先輩が“ふと”こちらを見た。
それだけなのに、
夢の中のきのこちゃんの仕草と重なって、
心臓が静かに跳ねた。
その後、先輩は何事もなかったように仕事を続けていた。
でも、私は知ってしまった。
先輩は、
今日、二度も私を見た。
夢の中と、現実で。
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