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**第2章 お入りになりますか?**
1202号室、寝室
ワインレッドのスリープドレスを着た女性が椅子で扉を押さえつけ、全身を震わせていた。普段は気品ある大家の紅葉千鶴が、今は髪を乱し冷汗でびしょ濡れになっている。
「ダメ…入ってこないで…お願い…」
彼女の瞳は虚ろで、崩壊寸前の精神状態だった。
トン…トン…トン…
扉を叩く音と共に、寝室の照明がジジジと悲鳴を上げて暗転。再び点灯した時、千鶴は息を呑んだ。
寝室の扉が5cmほど開き、青白い指が隙間から這い入ってきている。狂気を帯びた女の声が響く。
「開けてよ、中にいるんでしょ? どうして助けてくれなかったの?」
トン…トン…トン…
再び暗闇が訪れ、明かりが戻ると今度は扉が20cmも開いていた。半分剥がれた顔の女がニヤリと笑いかける。
「見つけたわ」
千鶴の心臓が止まりかけたその瞬間──
バタン!
隣のトイレに人影が駆け込む音がした。亡霊の首がギギッと不自然に回転、浴室の扉へ向き直る。
トン…トン…トン…
「ご用件は?」
江島龍の低い声に、亡霊の動作が一瞬止まった。
「あのさ…トイレ一緒にどう?」
《扉を叩く亡霊が当惑。鬼オーラ+5》
亡霊が呆然とする隙に、江島は突然扉を叩き返した。
「ねぇ、入る?」
《鬼オーラ+10》
扉を10cm開けた江島は、真剣な眼差しで続けた。
「臭くないから安心して。それに女子とは初めての共同作業だし」
腐乱した顔の亡霊が目を丸くする。舌のない口がもごもご動いた。
(この男…まさか悪魔?)
《鬼オーラ+7》《鬼オーラ+8》
江島のスマホに表示される鬼オーラ計測アプリが+30を記録した瞬間、亡霊の体から血の雫が落ち始める。胸にはナイフの刺し傷が浮かび上がり、顔の皮膚がめくれた。
「痛いわよ…ねぇ、助けてくれる?」
冷気が浴室を包み込む。便座に座っていた江島が突然跳ね上がり、鏡に向かって絶叫した。
「ぎゃああ! 幽霊だ!!」
《亡霊が混乱。鬼オーラ+5》
亡霊が嘲笑う。「怖くなった?」
だが江島は亡霊など無視するように、鏡を指さして叫び続ける。
「そこにいる! この美人さん、見えないの!? 鏡に化け物が映ってるぞ!」