テラーノベル
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第1話「名前のない場所」
何もない。
本当に、何もない。
暗いわけでも、明るいわけでもない。ただ「無」としか言いようのない場所に、それはあった。
時間の感覚もない。上下もない。音もない。
――なのに。
「……ねぇ」
声がした。
どこからかも分からない。でも確かに“誰か”の声だった。
「……君も、いるの?」
少し間があく。
「……いる」
短く、ぶっきらぼうな声。
そして、もう一つ。
「いるいる。めっちゃいる。アンタらもか?」
軽い調子の声が、無の中に広がった。
それぞれ、姿はまだ曖昧だった。輪郭もぼやけていて、形すら定まっていない。
けれど、不思議と“そこにいる”と分かる。
そして、もっと不思議なことに。
――懐かしい。
初めて会ったはずなのに、どこかで知っているような感覚が、3人の間にあった。
「……変な感じだね」
最初に話した声が、ゆっくりと続ける。
「初めてのはずなのに、なんだか……知ってる気がする」
「気のせいだろ」
ぶっきらぼうな声がすぐに返す。
「記憶があるわけでもない。根拠がない感覚に意味はない」
「いやいや、そういうの大事じゃね?」
軽い声が笑う。
「こう、“なんとなく仲良くなれそう”みたいなやつ」
「非効率だ」
「うわ出た、効率マン」
「事実を言っているだけだ」
「はいはい」
軽い言葉の応酬。
だけど、空気は少しだけギシッと軋んだ。
ぶつかっている。
価値観が、最初から。
「……やめようよ」
最初の声が、やわらかく割って入る。
「せっかく会えたんだし、さ。仲良くしたいな」
少しの沈黙。
「……好きにしろ」
「お、許可出た」
「許可ではない」
「似たようなもんだろ」
軽い声がくすっと笑った。
その時だった。
――空間が、歪んだ。
無の中に、何かが“現れた”。
「おっ、来た来た〜」
明るい声。
場違いなくらい軽い調子。
「やっと揃った感じ?ウケるんだけど︎🌟」
「……誰だ」
ぶっきらぼうな声が、警戒を強める。
「え、自己紹介いる?いるか。まあ神です」
「軽っ」
即座にツッコミが入る。
「いや軽くないとやってらんないでしょこれ。世界管理とかめんどいし」
「……神?」
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「そ。で、君たち作ったのもボク」
さらっと、とんでもないことを言う。
「おいおいおい、創造主ってやつ?マジ?」
「マジマジ。ガチのやつ」
「へぇ〜……」
軽い声の存在が、興味津々で近づく気配を見せる。
「ちょっと触っていい?」
「やめて」
「なんでだよ」
「なんでってなんででもだよ。普通に嫌でしょ」
「神なのに?」
「神でも嫌なもんは嫌!」
「ウケる」
「ウケない!」
「……コゲ」
やわらかい声が呼ぶ。
「やめよう。失礼だよ」
「え、名前それ?」
「え?」
「今の呼び方」
「……なんとなく、そう思った」
少しの沈黙。
ぶっきらぼうな声が言う。
「……じゃあ、自分は“ごマしオ”だ」
「え、急に?」
「理由はない。ただ、そう思った」
「適当すぎるだろ」
「お前が言うな」
「じゃあ僕は……」
やわらかい声が少し考えて、
「しらたま、かな」
「甘そうな名前だな」
「お前も大概だろ、“ごマしオ”」
「……コゲもな」
「バランスいいじゃん、食べ物トリオ」
「トリオにするな」
少しだけ、空気がやわらぐ。
けれど。
「で、神サマ」
コゲがまた前に出る。
「俺ら、なんで作られたわけ?」
「あーそれね」
神はあっさり答える。
「世界がちょっとバグっててさ」
「お前のせいじゃね?」
「半分くらいはそう」
「自覚あんのかよ」
「あるよ?だから直してほしいな〜って」
「軽いなぁ!」
「で、君たちに能力あげるから」
「能力」
しらたまが反応する。
「それで、その“バグった存在”を」
神は笑う。
「直すか、消してくれ」
――空気が、変わった。
「……消す?」
「そう。選べるよ。優しい世界でしょ?」
「どこがだよ」
コゲが呆れる。
ごマしオは静かに言う。
「合理的ではある」
「お前、そっち寄りかよ」
「生かす価値がないなら消す。それだけだ」
「……違う」
しらたまが小さく言う。
「できるなら、直したい」
「だよな〜。主人公タイプ」
「コゲ」
「はいはい」
神は手を叩くような気配を出す。
「じゃ、話長くなるからこのへんで」
「雑だな!」
「細かいことはあとでいいでしょ。実地で学べばOK」
「教育放棄じゃねぇか」
「じゃ、がんばって〜」
「待てよ!」
コゲが叫ぶ。
しらたまも手を伸ばす。
ごマしオは、ただ静かに見ていた。
――その瞬間。
無が、崩れた。
世界が、始まる。
名前を持った3人の物語が、動き出す。
まだ誰も知らない。
この選択が、どれだけの“代償”を生むのかを。
ただ一つだけ確かなのは。
この時、確かにそこには――
“笑っている3人”がいた。
コメント
1件
初回からすごく鮮やかな出会いのシーンでしたね。何もない無の空間で、声だけで三人のキャラがくっきり立ち上がってくるのが気持ち良かったです。しらたまの柔らかさ、コゲの軽妙なツッコミ、ごマしオの理論的な距離感——このバランス、最初から絶妙です。名前をつける場面で食べ物トリオってまとめられたのには思わず笑いました。 「直すか、消してくれ」という選択肢の提示の軽さが、逆に不気味さになっていて。この先の展開がすごく気になります。続きを楽しみにしてます!