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X(Twitter)始めました。今日ポストの仕方とフォローの上限があることを知りました。時間がとける。アヒルって可愛い事もしりました。ネップリ厨なので沢山します。
最近pixivやらXやら未知に足を踏み込む事が多く、覚えることが多く楽しいです。
受験生の皆さん頑張って下さい。
久しぶりの投稿。一万字弱です。
ピピピ、とうざったらしく鳴きはじめる目覚まし時計。
先ほどまで夢の中に漂っていたと言うのに、今は寒いという嘆息とした感情しか湧かない。少しでも暖を冷たい大気に奪われぬようにダンゴムシみたいに体を丸めた。瞼を閉じても眩しいと感じるのは今もきっと雪が降っているからだろう。昨日見た十年に一度の記録的な大雪と言っていた天気予報は合っていたようだ。十年に一度かは知らないが、毎年この言葉を聞いているような気がする。
煩いと思いながらも止めようと手を伸ばそうとしない。アラームを停止させるためのスイッチは目覚まし時計を九十度回転させないといけない、温い布団から手を出してアラームを止めるほど、そこまで寒さに鈍感ではない。体温を奪われるくらいなら、数分後自然とアラームが止まってくれるのを待つしかない。
デジタル時計を眺める。部屋に似つかわしくない薄ピンクの目覚まし時計。モノクロな家具達ではコイツは浮いていた。仲間外れをするより早々と新調した方が時計にとっても言いのだが、いざネットショッピングをしようにも機能を比べてみると格段に優れている。温度、湿度、日付、曜日、表示のモード設定、アラームの音量設定、アラーム音の変更、ヘッドライト。無駄なものがない機能美を追求したコンパクトな形。今日は前回の絶対早く起きなければならない日と同じように間違えて音量をマックスに設定してただけ、変えようと思えばいくらでも変えられる。ただピンクは頂けない。
同じ企業の色違いを買えば解決なのだが、少し前の忘年会で行われたビンゴ大会の景品を伊波に押し付けられた物。包装の箱にはブラックの目覚まし時計が映っていた。残り物とは言えラッキーと思いながら箱を開封し、箱を古紙に出した。カラーランダム、中身はピンク色とは知らぬまま。
回し見たところ企業のマークは記されていない。伊波にどうにかならないかと聞いたところ、俺がピンクの目覚まし時計を枕元に置いているところが見たいと大爆笑されながら言われてしまった。なら塗装して黒色にしてくれないかと頼んだが嫌だの一点張り。ちなみに企業も特定したらしいがどうお願いしても、中々口を割ろうとしない。更には星導に可愛いじゃんと言われてしまう始末。そして現在、渋々ピンクの目覚まし時計を使い続けている。
やっとアラームが止まった。さて現在、午前八時五十九分。九時からを想定していたディティカの潜入任務の作戦会議(重要)。開始するのは大幅に遅れそうだ。
閑話休題。
ビービービー、と喧騒に満ちた警報がなった。
そのすぐ後を追うようにF地区にディティカの出動要請という放送が流れた。相変わらず感情がなくただの捨て駒と言われているような電子声に思わず耳を塞ぎたくなった。まあ人外は一般人にとっては恐怖、ヒーローという立ち位置がなければ周囲から疎まれ変な目で見られ生きずらくなるだけ。東に行けば更にだ。西にいて、更には讃えられる存在になる。結局は上の連中の駒だ。
機械を好まない、腐った上の連中は言っていることとしていることが矛盾していて嫌いだ。詳細はデバイスが教えてくれる、と付け足して放送が流れるとしゃらんと可愛らしい鈴の音と肩への重みが追加された。オトモの足に無理矢理巻かれたであろう紙。こういうところ。オトモが苦しげに唸るので取ってあげ、頭を撫でてやるともう懲り懲りだという風にどこかに消えてしまった。
不機嫌且、面倒臭い任務に貧乏揺すりをしてオトモが届けてくれた紙を開く気にもなれないでいると星導に手を引っ張られ連れていかれた。
俺達四人にはそれぞれ座標が渡された。ひし形の配置、俺と星導が離れた場所にいてライとカゲツが俺達の中点。山の中、人が寄り付かない荒れ果てた雑木林。
乾ききっていない墨汁が手にベッタリと張り付いた。殲滅させろ、一言そう書かれていた。相当焦っていたのかぐちゃぐちゃでゲシュタルト崩壊していた。辛うじてギリ読めたぐらい。
「ねぇ、小柳くん。場所交代しよ」
「なんで」
「小柳くんが指定されたとこ、近くに洞窟あるじゃん。幽霊が出るって噂だよ」
「まじ?最悪じゃん。良いよ変わってやる。」
「やりーじゃあ交換こ」
紙をトレードする。じゃ、と星導は俺が向かっていた方面に進んでいった。へまをするとは思えないが、変身もせず無防備な姿で向かっていく星導に一言掛けようと口を開いた。気抜くな、と。珍しく俺が大きな声を出したことを驚いたのか、どわっと奇声を上げながらつんのめりよろけていた。
星導は体制を持ち直して、振り返った。顔を真っ赤にしながら大きく手を振って、そっちもね!と叫んだ。軽く手を振り返してやると、星導はトランクを地べたに置き両手で更に大きく手を振る。
「はよいけ」
「あはははっ」
豪快な笑いを聞きながらお互い背を向けて目的地まで。
明らかにおかしい。コザカシー達の連携も、攻撃の威力も。こんなに連携が取れているのに指導者やダラクが現れないのも。
円形に俺を囲んで飛び道具を使って中距離攻撃。1ヶ所切り開いても開いた穴は直ぐに塞がって俺を取り囲む。更には小型ナイフを持った近距離攻撃の部隊も円形に囲む奴らの間から現れる。きっとまだ見えていないだけで沢山の奴らが俺の回りにいる。完全な俺を潰すための陣形が出来ている。
いつもは馬鹿の一つ覚えみたいに襲いかかってくる癖に、もし何かしら小賢しい技を持っていても応用を学ばずに一級品の食材をただ鍋に入れて火に掛けるみたいな勿体無い使い方しかしないくせに。今日は我武者羅に切っても切ってもそこを尽きることはなく、次々と立ち向かってくる。
舌打ちを漏らして、デバイスで俺以外の三人に応戦して貰うように頼む。すると了解、直ぐ向かうと声が聞こえてきて一先ず安心した。
「いたいた」
「コイツらどうしたんかな、おおかみばっか狙って」
「早く終わらせよ!」
そして二人の追加され、瞬く間に数は減っていった。自分があんなにも悪戦苦闘していたというのにあっさりと。やはり応援を呼んで良かった。呼んでいなかったら体力が底を尽きて倒れていたと思う。
殲滅させ一息付いた。違和感。ぞわぞわする。どこか落ち着かない。
今の状況を整理させてみる。まず星導がいない、それはひし形の配置だから。ライとカゲツに聞いてみたのだが、二人の元には一切コザカシーが現れなかったらしい。そして一人の時は山ほどいたコザカシーが二人が来た途端消えていった、人手が増えたから諦めた?徹底的に狙った俺潰し?
ただそんな単純な理由じゃない気がする。もっと違う目的。星導の到着が遅い。確かライとカゲツは四、五分程度で到着した。なら星導は十分弱で付く筈だ。星導ー?とデバイスで話掛けても返答なし。
「星導遅くね?」
「そう?歩いてんじゃない?」
「ふぅん」
「どした気になるん?」
「一応向かってみても良いかもな」
各々コザカシーを殲滅させた後、決めた集合場所で。と話したからそこにいるのかもしれない。又は連絡用デバイスを戦いの中で壊し連絡が取れない状況にいるのかもしれない。戦いで怪我や気絶しているのかもしれない。乱戦が行われているのかも。
「なんか臭ない?」
「あー言われてみれば」
「ほんと?全然分かんないや」
次第に生臭い匂いが強まっていく。任務に向かった時は太陽は真上に居たのに今は沈み掛けている。オレンジ色の煌々とした光が木を掻き分けて主張している。今日は一段と寒い。雪は降っていないものの指先の感覚が段々となくなってジンジンとした痛み。指同士を擦り合わせて息を掛けた。
地面に青い液体が散っている。半円を描くように不規則に。オレンジとブルー。真反対。補色。
青色の液体。こんな険しい山奥に絵の具を持った人が来るわけが無いし、俺には一つしか思い浮かばなかった。
ドクドクドク。と鼓動が嫌なくらいに早まるのが分かった。進む度、木や地面に飛び散る液体の量が増えている。一歩、足を前に進めるとパキンっと薄い硝子が砕けた音がした。
足元を見た。それは煌めく宇宙の様子と人間の眼球を映していた。
三人ほぼ同時に走り出す。ビチャバシャと血溜まりを踏み。
走りながらライはカゲツに山道を探してくるように言った。ライは救急隊を呼ぶと言い、俺は星導の出来る限り全ての治療を。
少し走り続けた後、直ぐに星導を見つけた。横たわっていた。仰向けにさせるために星導に触るとぬるりと指が滑った。横向きだったから見えなかったが腹部は酷く損傷していた。それに右手右足がない。服を掴んでも固い感触はなく空回るだけだった。服を脱がそうにも体制を変えてやろうとしても生温い不規則な大きさの臓器がぐちゃりと音を立てた。致死量の出血。死んでてもおかしくない。でも心臓は微かに動き続けている。流石人外。ライは少し離れた所でデバイスに向かって剣幕に状況を伝える声が聞こえてくる。
いつもなら右目だけ割れているのに目の両方ともが散っている、顔面損傷。脇腹から臍までに掛けて深い腹部損傷。白いヒーローコスチュームに滲む青い斑模様。服を剥げば更に傷が出てくるだろう。
「こやなぎくん」
辛うじて残っている口が覚束ない動きで、俺の名前を呼んだ。滑舌もあやふや、ほぼ母音の音で聞き取れたもので。きっと目は見えていない。なぜ俺だと分かったのかは分からない。喋ればその分血液が動く。腹から更にだらだらと青い液体が溢れ出す。
止血、圧迫にしては傷が広すぎる。腕と脚は布で縛れば止血できる。だが腹の傷を閉じる、どうやって?顔は?これはどうやったら治るんだ?傷を焼く?火は?清潔な道具は?ぐるぐると頭の中でひたすら考える。俺のように妖力の回復によって変化するものだったら?妖力を注ぎ込めばイケるか?だが星導の力は宇宙に似た何か。無闇矢鱈にやっては傷を更に悪化させる心配がある。どうしようも出来ない。
そうだ妖術の応用。小賢しいアイツらがやっていたように妖力で糸を具現化させる。そうすれば妖術の力によって影響を受けることは無いし、必要がなくなったら噴霧させれば良い。イメージする。固く細く。するとほのかに光を放つ針金のような糸になる。腕一本ぐらいまで伸ばした後、自身の服を大まかに破き星導の口元に持っていく。
「今から縫う。痛くなる、噛んどけ」
だが星導は頑なに口に布を含もうとしない。こんなに損傷しているなら縫う程度の痛みは造作もないと言うことか?だが縫っている間暴れられては困る、無理矢理な感じだが口に布を詰めた。そして直ぐ伊波が俺達の元に来た。救急隊が来るのは二十分後、俺達での最低限の処置が必然的になった。
縫うのは手先が器用な伊波に変わって貰った。俺よりかはずっと綺麗な縫い目になるだろう。
俺は星導を抑えることを任された。顔の上で四つん這いになって片腕と肩を抑えて、刻々と暮れていく太陽の変わりに妖術で照らしてみたり。伊波がパシャリと消毒用のアルコールを掛けて始まった。
星導は途中んぐ、うぐと悶える声を漏らす。傷口が半分程度縫い付けられた時、星導は口から詰めた布を吐き出した。その布は灰色だったが青色に染まっていた。
「こやなぎくん、すき」
さっきみたいにほぼ母音で構成された声。
でも違う。
喘ぐみたいに嗚咽を漏らし、呼吸も浅く十分に呼吸が出来ないようだった。強がるみたいに時々下唇を噛んで、ひび割れた唇に血が滲む。からからに喉が乾いた時みたいに掠れたガラガラの声で、好きと言われたって。冷たくなっていく体で言われたって。心臓が今にも止まりそうな奴に言われたって。
「死ぬな、死ぬな星導!」
痛い。頭も心臓も腹も、全身が痛い。
生温いものが頬に伝ったのがはっきりと分かった。それは顎まで伝い、星導の顔に大きい雫が落ちた。
「ぇへ…ないてるの?おれのためにっ?」
丁度、口の横だった。星導はちょっと舌を出して舐め取った。舌が通った後には雫の代わりに青い液体が残っていた。
「しょっぱい。…ね、こやなぎくん」
「喋るなこれ以上、喋らないで星導」
「…こやなぎくんっ、ちゅー」
一度、ごくりと喉仏を上下させた。水を拭って、目が腫れているところを見られなくて良かった。口を開こうとして、やっぱやめた。いつもならお前なに言ってんだとか言っていたはずなのに、今回は何も言えなかった。あまりにも最期を待っているような、最期なんだったら、という死を待つような寂寥な雰囲気だった。
かぶり付くみたいなキス。でも触れるのはちょっとだけ。尖らせた唇でガサガサの唇で。ささくれた唇の皮膚が重なり合って、ピリッと痛みが走った。咥内に鉄の味が広がった。最悪、こんなことならリップクリームでもつけてくれば良かった。でもまあファーストキスはムードもヘッタクレもない任務後、男しかも同僚だとは誰も想像出来ないだろう。口の端を脱ぐって見れば青色が滲んでいた。星導の唇は真っ赤になっていた。
にへらと口を綻ばせて笑った。そして呟いた、「やったあ」と。
「小柳!伊波!」
夜闇に光る真っ白な綿毛は救急隊を引き連れて、俺達の元に来た。最低限の処置は少し前に終わっていて、伊波は右手首を軽く触れ脈拍を図り続けていた。星導はいつの間にか寝ている?気絶している?ようで、呼吸はしているが声は一切聞こえてこなかった。眩しい懐中電灯が見えた時どっと疲れが襲ってきた。よろけた所をカゲツに見られ、悔しいことに肩を貸そうかと心配された。だが、カゲツも雑木林を駆け回ったからボロボロで断りを入れ、険しい森の山道を下っていく。星導は担架に乗せられていて、下りはじめてもう救急車に着く直前にしてパカと口を開いた。
「こやなぎくん」
「あぁ」
「もういっかい」
「…もう一回が欲しかったら、もっかい俺にネダることだな」
目はバキバキに割れて見えないはずなのに、真っ黒の中に薄暗く光る気配はいれどただ一人だけ真っ白な眩い輪郭が見えた。何でか分かんないけど小柳くんだと思った。小柳くんの気配が遠ざかっていくのが分かった。
「こやなぎくん」
言えばタッタッタと白い光がこっちに駆けて来た。担架のすぐ横にぴったりと着くと、あぁと答えた。
「もういっかい」
先ほどから残っている左腕、脚の指先の感覚が無くなってきていた。140億年以上生きてきてこんなにも死を恐れたことはなかった。死を実感したことなかった。どこか自分は死なないと決めつけていた。だからこそ、最期に何をしたいか決めていなかった。
腹を縫われている間、激しい痛みに襲われながらも考えて至った結論が小柳くんに好きって伝えたいだった。叶わぬ恋と知っているからこそ、振られて気まずい思いをさせるのではなく今の関係がずっと続くことを望んでいた。だがら呪いのようで悪いが、もし俺が死んでも小柳くんは意識し続けてくれる。そう思った。
欲を言えば「もういっかい」。
だけど「…もう一回が欲しかったら、もっかい俺にネダることだな」。
小柳くんなりの死ぬなというサインだと思った。ふに、と唇を撫でられる感触がして。バタンと車のドアが閉まる音がした。でも輪郭は残っている。そしてつぎばやに知らぬ人から名前を呼ばれ、意識を保つように言われた。じゃあ死んでらんないね、と心の中でつぶやいて、無い瞼を閉じた。
星導に対し、特別な感情を持っているかと言われたら曖昧な所。友達としての好き、人間としての好き。
病室に備え付けの椅子に腰を掛けて、唸りながらゆらゆらと揺れる。星導はきっと人間としての好き。じゃあ俺は?。
記憶を無くして2度目の初めましての時はちょっとショックだった、でも記憶が戻ってこないかなとか思うまでは引きずっていない。寂しくはあるが。ペアで任務を行う時も違和感は合ったものの、それも心地好かった。ほんと小さな小競り合い、煽り合い。記憶はなくても星導晶は星導ショウだった。これは友達として好き。
じゃあ、こうやって毎日星導の病室に来ているのはなぜだ。しかも面会時間の最初から終わりのギリギリまで。ディティカ共有のカレンダーアプリを眺めていれば無意識のうちに今日の予定に見舞いを入れ、アプリを見なくても気がつけば病院の受け付けにいる。義務感、か?。
まあ義務感なのかもしれない。星導が任務を始める前、交換した位置座標は全てを知っての意図か、偶然か。どっちかは本人にしか知り得ないが、任務が終わった後お偉いサンの部屋に三人が呼び出され俺を見るや否や溜息を吐いた。そして一部始終を報告すると再び溜息。きっと反抗的な態度、ヒーローと暗殺組織の兼業をしている曖昧な立ち位置だからこっそりと処分したかったのかも知れない。と全て自身の予測で証拠なんて一つとして残っていない。
もし位置を変えなければ伊波とカゲツの場所には一切コザカシーが出ず、まず最初に星導の位置に大量に現れさせて近場の二人の応援を呼び、最後一人遠くに残っている俺の場所に戦力を集中させた。きっとお偉いサン達はヒーローの戦力不足で呆気なく死んだ、とでも朗報させる事だろう。白狼の生き残りともあろう者が、と嘲りながら。勘が良い伊波なら気付いたんだろう。お偉いサンの部屋を出ると床に向けて舌打ちを一つ。
俺のオトモがテシテシと星導を舐める。顔は両目がなかった所、左目だけ戻ってきた。腹はどこもかしこも糸まみれ、だが命に関わらない程度回復しているらしい。千切れた右手右足。これは回復の順序を後回しにしているのかこれといった回復はしていない。
ふぅっと軽く息を吐きスマホを手に取った。恋心とは、調べてみると『恋心診断』というホームページを見つけて、開いて、暫くして伏せておいた。状況が飲み込めるように。
「………もう…いっかい。」
虚ろな左目がしかと開いていた。椅子にだらし無く座っていたがガバリとベッドに身をのりだし星導の目の前で腕をユラユラと揺らしてみればオパールが付いてくる。大して心配はしていなかったが、ちゃんと目は見えているようだ。安心してどっこいしょと座るとさっきの投げ掛けられた言葉はなんだったか考える。
「起きて一番最初マジか」
「こやなぎくん?」
「そうお前の好きな小柳くん。」
「おれ、どれくらい寝てた」
「六日だな」
「ねすぎぃ…でも待っててくれたの」
「そら、もう一回って言われちまったわけだからな」
「してくれるの?」
「してほしいんだろ」
「うんすっごくしてほしい」
「なんだ凄くって」
「え、エッチなやつ」
「帰るわ」
「待って!うそうそうそうそ!っ痛~っ!」
「バカタレ動くな」
「いたい~っ」
腹を抑えもがく星導の両肩を掴んで動きを制止しベッドに乗り出してちぅ、と可愛らしいリップ音が鳴った。むにゅりと唇が沈んだ。今日の日のために薬局に寄り、買ったリップクリームを塗り続けていたからプルプルだ。ひびわれ、ささくれ一つ無い。
星導は暫く口を隠して固まり天井を見詰める。そして数分くらいした後耳まで真っ赤にさせてはひぇ?なんて間抜けな声が上がって、思わずははっと笑った。
「しあわせ…」
「よぉござんしたねえ」
ゴトンっと病室に似つかわしい鈍器が落ちた音が背後からした。それは山盛りのフルーツとお菓子とプロテインとハイボールの素。そして、は、は、は?と段々怒りが篭っていく声とワ、ワ、ワァと某小さくて可愛いやつみたいな動揺の声が。早歩きで星導のベッドの手すりに手を掛けて、二人して顔を覗き込む。一人は半泣き、もう一人は般若だった。
「おはようございます、死に急ぎの星導ショウサン」
「起きたんかァ!タコォ!」
星導は目を固く閉じ、動きが止まった。綺麗な顔。ついさっきまで顔を真っ赤にさせてたくせに。虚言癖は包帯だらけでも今も健全だ。まぁ隠し切れてないのだが。心拍数を図る機械を着けているせいで動揺はまるわかり、意図せず嘘発見機の完成。一定に鳴っていた電子音はビビビビ…ッと警報のように早まっていた。さっきのキスでもこんなに早くはならなかった。めちゃつえーの長男でも末っ子達の怒り怖い。カオス過ぎる状況に椅子から転げ落ちて俺は笑っていた。
「ちょ、待っ、早過ぎ!ナースコール!ナースコール早く!!!」
カゲツがナースコールのボタンを連打する。さすがゲーマー連打の速度が違う。早すぎて、指が見えない。あわあわと典型的な慌て方をするものだから、星導も吹き出し笑い始めた。
「一回で良い!一回一回!」
やっと星導が口を開いたと思ったら末っ子二人に「タコは黙ってろ!!!」と一喝。ひぇと布団の中に潜る。取りあえずカゲツの手からナースコールのボタンを取り上げた、だが落ち着きがなくひたすらベッドの周りを歩き回る。伊波も動揺しまくって、まだナースコールを押して十秒経ったくらいなのに遅い!と叫んだ。
「カゲツ、誰でもいい看護師さん呼んできて!!!小柳はアホタコ見張ってろ!俺は医者呼んで来る!!!」
ドタドタと病室を飛び出して行った。病院で公務員なる者が騒ぎ立て、走り回るなんて言語道断。これは説教は間違いない。病院の院長、医師、看護師からも、ヒーロー協会のお偉いサン達からも。良い歳した大人(平均年齢推定約五十億歳)四人が。オリエンスが聞いたら絶対に笑い話にされる。避けたい、それは。
「どうすんだよ」
「…アホタコだってアボカドに似てるよね」
「話の逸らし方下手か一旦」
「もう一回、ちゅーしてよ」
「退院してからな」
その後、コテンパンに叱られ反省文という名の始末書を宿題にされた。星導の体調は血が回復すると共に腕も治りはじめ、多少グロッキーだが服で隠せば問題なしという。安静にしてれば二週間程で完治する予定だ。どういう訳か人外って凄い。まあ自身もその人外の分類に入るのだが、とりま宇宙の力って凄い。
星導はご飯が味気なく食べても食べた気にならないから早く帰りたいと退院をねだり、遂にはクトゥルフの事情で退院の要求を出した。医師も良く分からないクトゥルフ関係の事情を出されてはあまり追求してはいけないのかな、なんて思ったのか、暫く安静にして欲しい俺ら三人を横目に要求は通ってしまったらしい。
ピコンと軽快な通知が自身のスマホから鳴った。ベッドに入る直前だった。電源を着けてみると、ディティカ共有カレンダーを星導ショウが編集しました。という事務的な文字。でも星導という名前で反応してしまう自分がいた。確認するのは明日の朝でも良かったが、何を書き込んだのか興味があった。だけど、既読機能が付いているせいですぐに見るのは星導にバレてしまう。高ぶる自分を押さえ込んで五分待つことにした。ソワソワ、キョロキョロ。そわついて、足をバタバタさせて、寒さなんて忘れて。
五分弱経って一番上に表示される項目をタップして、パスワードという壁が現れたが瞬でブチ破ってドキドキしながらカレンダーアプリが開かれるのを待った。
NEWという絵文字が付いた日付。退院と藤色のフォントで書かれていた。
退院まであと四日。俺達がまた唇を合わせるまであと四日。
こっそりとリマインダーされるように設定してスマホを目覚まし時計も置いているサイドテーブルに置いた。
通知が来るのは日付が変わる時。現在、午後二十三時五十九分。布団に潜って刻々と流れるピンクのデジタル目覚まし時計を眺める。今は時計を止めるのは苦痛じゃない。