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朝。季節としては夏である。しかし、家の中はムツキの魔力を消費して温度と湿度を程よく管理しているので、快適な生活そのものである。
「魔王城でもこれほどまでに上手に調整することはできなかったな」
「エルフの里でもそうよ。ムッちゃんさまさまね。快適~♪」
ナジュミネとリゥパの2人はリビングにいる。ナジュミネは朝練後にシャワーを浴びたようで、少し火照ったような姿をして、湯上りのラフな格好になってソファで座っている。リゥパは寝起き姿のままにナジュミネの隣で足をパタパタさせながら、ソファで寝そべっている。
「リゥパ……さすがに、はしたなすぎないか、その格好は」
「あー、やっぱり? でも、ムッちゃんの視線を感じちゃうから、つい嬉しくなってやっちゃうのよね」
ナジュミネがバッとムツキの方を見ると、ムツキは少し離れたところでロッキングチェアに揺られながら手に持っている本に目を落としている。
「…………」
「…………」
しばしの沈黙。その後、ナジュミネが自身のノースリーブの胸元を指で引っ張ると、彼女の胸の曲線が先ほどよりもほんの少しだけ露わになる。すると、彼女はムツキの視線を感じるようになる。
「……旦那様のスケベ」
「ぐっ……ずるいぞ。俺を試すような真似をするなんて……。それに、仕方ないだろ。目が勝手にそっちを向くんだ」
「ムッちゃんはムッツリよね。自分の伴侶たちにもそういう態度が取れるのは面白いけど。ガッツリ見てくれても構わないのよ? ナジュミネは嫌みたいだからやめてあげてね」
「い、嫌とは……嫌とは言っていないぞ……。でも、朝からはちょっと」
「朝なんて夜の延長みたいなものじゃない? むしろ、寝て元気になっちゃうし」
3人が他愛もない話に興じていると、ケットが突然やってきた。
「みんニャ、聞いてほしいニャ。家をおっきくするニャ」
ケットがそう言うと、ムツキは本を閉じつつ不思議そうな顔をして彼の方を見る。
「あれ? まだ部屋が余ってなかったか?」
「それは間違いニャいニャ。小さい部屋があるニャ。でも、みんニャの部屋もそれぞれおっきくしたいニャ。あと、この仔たちのスペースも増やしたいニャ。プレイルームがあると最高ニャ」
妖精の中には生まれたばかりでよちよち歩きするものもいる。小さくてとても可愛らしい姿に誰もが目を奪われる。
「にゃー?」
「わん?」
何も分からないといった感じでよちよち歩きの仔猫や仔犬たちが、たどたどしくムツキの膝の上に乗ろうとしながら、彼の方をまじまじとつぶらな瞳で見つめている。
「っ! 異論はない、すぐにでも。こんな可愛らしい天使たちの住環境は最優先事項だ。正直、俺なんかは4畳半でいい」
このような時のムツキの力強い発言には誰も否定することはない。否定しても無駄だからである。彼はモフモフのことになると、交渉も何もなく、ただただごり押ししかしなくなるのだった。
「脱線するけど、4畳半ってどういうものニャ?」
「あー、そうだな。これくらいだな」
ムツキは歩き回り、4畳半の広さを周りにイメージさせる。
「却下ニャ。一緒に寝ると手狭ニャ。それにご主人が狭い部屋とか、誰も許さニャいニャ」
周りにいた全員が首を縦に振った。
「そうか? まあ、それはともかく、どう手伝えばいいんだ?」
「樹海で木を切りたいニャ。木を切る話と、家をおっきくしたい話を世界樹に許可をもらいたいから、ご主人はオイラと一緒に行ってほしいニャ」
「分かった」
ケットはメモを見ながら読み上げるように話し始める。
「妾は何か手伝えることがあるか?」
「助かるニャ。ニャジュミネさんには、クーにお願いしたおっきくする部分の整地を一緒にお願いするニャ。基礎にニャりそうニャ大きニャ石を持ってきてほしいニャ」
「承知した」
ナジュミネは大きく伸びをしながら、大きな石はどれくらいになるのか、頭でイメージしていた。魔人族の中でも鬼族である彼女は女性であっても膂力が常人と比べ物にならないほど強い。
「ケット様、しれっと頼んでいるけど、女の子に頼む内容じゃないわよ……」
「仕方ニャいニャ、適材適所ニャ。リゥパは樹海から力持ちの妖精を連れてきてほしいニャ。クマあたりが理想ニャ」
「はーい」
リゥパはパタパタさせていた足を止めて、ゆっくりと起き上がる。
「クマか。あのギュッと抱きしめられた時の包容力がたまらないんだよな」
「普通の人族ニャら抱きしめられるとひとたまりもニャいニャ……」
ムツキは嬉しそうにクマとの熱い抱擁を思い出していたが、それはクマが最初敵意をむき出しにしていた時のことであり、割とシャレにならない力で締め上げられていた。
しかし、彼はただただ最強のため、クマの本気の抱擁でさえもビクともしない。
「決めたぞ。クマさんに絶対に抱きしめてもらおう。菓子折りが必要かな?」
「ニャんか変ニャ火を点けちゃったニャ……。それと、菓子折りは要らニャいと思うニャ……」
ケットは少し困ったような顔と声色をしながら、ムツキの方を見ていた。