神覚者。それは魔法界の平和の象徴である。
その事から神覚者は崇め称えられ、尊敬される。
もちろん神覚者側も神覚者に最適な人間を選ぶ。
最適な人間というのが、俺のダチであり好きな人、ランス・クラウンだ。
文武両道、眉目秀麗、門地門閥。しかも最年少で選抜された天才。
そんなあいつが世間から愛されるのに時間はかからなかった。
「あーあ、あいつは今頃モテにモテて引く手数多なんだろうよォ…」
ランスが仕事のため俺一人となった部屋に情けない嘆きが放たれる。
あいつは入学当初からモテてた。今は更に神覚者という肩書きもあり学校中の女の子の目が鋭く光っている。
俺だって頑張ったんだぜ?
なんであいつばっかり。
…なんて、
そんな事俺が言えた立場ではないのである。だって、俺もその女の子達と変わらない感情を抱いているのだ。
三男との戦い…否、オーターさんの修行あたりからだんだん気持ちが色濃くなっていったんだ。
好き。お前が居なくなったら寂しい。ずっと俺の隣で紅茶を飲んでいて欲しい。
そんな願いを常に秘めてあいつと接している。あいつはそんな事露知らず。このままバレないで隠し通すんだ。あいつは神覚者で俺はただの学生。しかも男同士なんてまだ偏見の強いこの魔法界では冷たい目で見られるに決まっている。その目がランスの今後にどのような影響を与えるのか。そんな事がわからないほど俺も馬鹿ではない。
もしも、この想いを捨てることができるならば捨ててしまいたい。
あいつの透き通った睫毛を見る度に、深く碧い瞳に刺される度に、低く掠れ気味な声に名を呼ばれる度に。気持ちが溢れてくる。 その気持ちがいつかポロッと零れてしまいそうで。
そんな悩みを抱えていると、雑貨屋である物を見つけたんだ。
『想いを捨てる紙飛行機』
を。
紙に自分の捨てたい想いを書き、魔力を込め遠くへ飛ばす。そうするとだんだん紙が塵となり想いと共に消える。らしい。
眉唾物だが値段も手頃なので試してみる事にした。
ランスが不在の今、これを試す絶好のチャンスではないか。
もう冷めきってしまった紅茶を喉に流し込みティーカップを魔法で洗う。
ペンを取りテーブルに向き合う。
紙は薄い空色をしていて、ランスの色だなぁ、なんて考えてしまった俺はもうかなり重症だろう。
紙が大きい訳ではないので短く簡潔に、
“ランスの事が好きだ”
とだけ書き飛行機を折っていく。
そこに魔力を込めていく。多くもなく、少なくもなく。儚く散っていく紙飛行機をイメージしながら。
これを飛ばせばいいんだな…!
窓を開け空を見上げる。
真珠を砕いて散りばめたかのようにキラキラと輝く星たち。
一際大きく輝く星へ向けて紙飛行機を飛ばす。
「結構飛ぶなぁ…!!」
「そうだな。」
独り言が漏れてしまった。なんて思う前に言葉が返ってきてしまった。その声の主は一番忘れたい男で。
その男の手には遠くまで飛んでいくはずだった紙飛行機があった。
「はっ!?それっ…」
「魔力が込められている。ただの紙飛行機ではないな?」
うぐっ…図星だ。
どうしよう。もし中身を見られてしまったら。今まで隠してきた努力が全部水の泡になっちまう…
「やだっ…!見ないでっ、、」
ダメ元で懇願してみる。すると思っていた以上に声を詰まらせ必死な俺に驚いたのかランスが目を見開く。
「…なんで、」
「…え?」
「なんで俺への想いを捨てるんだ…?」
その声はたしかに震えていた。
ランスは普段表情が動かない。だから今、目の前で苦しそうに、悲しそうにしているランスに驚きを隠せない。
なんで俺への想いを捨てるんだ…?
全部わかってたのか?
そんな質問に質問で返すような事は出来なかった。そんな事したら、こいつは大粒の涙が零れてしまうだろう。…それは勿体ない。
「…ら、ランスに迷惑がかかると思って、せっかく、神覚者になれたの…に、」
なんで俺まで泣きそうになってんだよ。
これ以上言葉を紡ごうとしても喉の奥でつっかえて音が出ない。
すき。すき。傍にいたいの。
また溢れそうになる気持ちを、押さえ込もうと両手を出しても、手を伝いどんどん外へ出ていく。
カシャリ、そんな音が鳴ったところに視線を合わせる。
ランスが紙を開いていた。
ランスがしばらく紙を見つめて、紙を丁寧に折りたたんだ。
「俺が、この言葉をどれだけ待ってたと思う…?」
ああ、こぼれちゃった。
星のように光る大粒の涙。それが頬を伝い二本のアザをなぞって首筋を流れる。
「勝手に捨てるなよっ、馬鹿っ…」
表情も、声も、仕草も何もかもが美しく、芸術作品のようで目が離せない。
綺麗だな。
それが率直な感想だった。
誰も見た事のない、ランス・クラウンの涙ぐむ姿。それを、独り占めしたい。そう思った。
やっぱり、捨てることなんてできないや。きっと捨てても、キリがないのでしょう?
「ランス、好きだ。」
ふと頬に冷たい何かを感じる。あれ…?
俺もお前の涙につられちまったじゃねぇか。
「ランス、いつまで泣いてんだ。お前が泣いてると俺も泣きやめねぇんだよ、」
「ふは、なんだそれ。お前、泣いてるのか?」
少しずついつもの砕けた感じに戻ってきている。そこにはもう、諦めなきゃ。とかの苦しさはなくて、ただ幸せで。ずっと続いて欲しくて。
やっぱり好きなんだぁ…
コメント
2件
好き×無限大数 公式でも付き合えーーー‼️
もうランドトは、公式だから!!結ばれるのは決まってるんだよなぁ!こういうパターン好きだわ(๑♡∀♡๑)