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距離を詰める事も無く、只々お互いに間合いを探り合う鬩(せめ)ぎ合いの中、ジローの中で声が静かに響いた、
『ジロー! すまん、代わってくれぬか?』
『え、うん、分かったよ』
一拍遅れて、ユイにも同じく声が届いた、
『ごめんねぇ、ユイちゃ、あたしがでるよおぉ、んね♪』
『え、あ、うん、分かったけど、ダイジョウブ?』
『ウン、ダイジョブダイジョブ! チット休んでてねん!』
了承した途端に二頭の体は元のエンジ色に戻り、代わりにオレンジ、ピンクのオーラが色濃くその身を包んだのであった。
軽くメタモルフォーゼを果たした二体の内、雄の方、ジローが徐(おもむろ)に口を開いた、
『ふふふふ、聖女か? 今はガタコロナと名乗っているようだな…… 我が名は『パズス』、『鉄壁(スクリラ)の(トウ)パズス』である』
『テラペイア トウ ラマシュトゥ、私は癒しの御手(みて)、『改癒(かいゆ)のラマシュトゥ』と申します。以後お見知りおきを…… クフフ』
最悪の超防御特化兄妹が正しく顕現した瞬間であった。
割かし丁寧目な自己紹介を受けたコユキは、戸惑いながらも礼には礼を持って返した。
「あ、どうも、えと、アタシはコユキ、御紹介の通り『聖女』みたいです…… それから? あ、そうだ、アタシは茶糖コユキ、『サトウケ(家族) ノゥ(の) コユキ(足手纏い)』です」
咄嗟(とっさ)に同じパターンで自分をアピール出来る辺り、コユキのあり余る贅肉、いや、才能の片鱗が見える。
パズスにもそれが分かったのか、次に話し掛けた口調は、先程ほど尊大では無かった。
『コユキ、いや、ガタコロナ殿か、会えて光栄に存ずる。 先程より、貴殿の中から我等の兄、『オルクス』と『モラクス』の気配を感じているのだが、それは? 既に貴殿の『聖核』に取り込まれてしまったと言う認識で間違い無いのであろうか?』
この問い掛けを聞いたコユキは内心でガッツポーズを決めていた。
――――あれれ、この子達全然『馬鹿』じゃ無いじゃん! これならちゃんと、オルモラは別の場所で無事だって事を伝えれば、戦い回避出来るっしょ! なるほど、運営さんて流石だネェ~、こう持ってくるかぁ~、良かったぁ~、そりゃそうか? ゴリゴリのバトル物じゃないんだからねぇ~、良し!!
「心配しなくて良いわ、『聖核』? ってのが何なのかは良く分かんないけど、オルクスとモラクスだったら、ちゃんと別の場所に――――」
『ガアァッハハハアァッ!! 別個の存在として残しているとは愚かな! ならば、その身を切り刻んで二人を取り戻すまでよ! グゥエヒャヒャヒャヒャっ!!』
「えっ?」
『取り込んでいなかった己の愚を噛み締めて、細(こま)切れになりなさい。 その汚らしい肉は私の力で、蛆(うじ)にでも改癒して差し上げるわ! クフフ、キュヒェヒェヒェヒェっ!!』
「…………」
残念な事に、揃って『馬鹿』、それどころか『大馬鹿』である事があっさりと証明されてしまった。
ガッカリと肩を落としたコユキではあったが、何故か運営さんに対する怒りだけは、湧いて来なかったのが摩訶不思議であった。
狙い通り話し合いでの解決は出来なかったが、当初の想定に戻っただけだと、瞬時に気持ちを切り替えると、小刻みなステップを踏み始めるコユキ。
「ススススススススス」
例によって全身の肉は激しく蠢きまくり、あっと言う間に戦闘準備が完了した。
目の前の二体のどちらから、更にはどういった種類の攻撃が繰り出されようとも、回避して見せる、そう自然に思える位には、コユキの実力は上がっていた。
やる事は分かっている、昨夜決めた方針通り、回避によって撹乱(かくらん)し、相手が隙を見せた時に、新たに手に入れた攻撃を叩きこんで、一体づつ祓(はら)ってやるだけだ。
茶糖家で毎年夏場に行われてきた恒例行事、『お盆にバーベキュー・罰当たりパーティー』で、数に限りがある、焼き上がったお肉を奪い合う醜い戦いに於(お)いて、無敗のチャンプとして君臨し続けたコユキ。
その戦いが、今ここで再現されたのかと見紛う程の、有り得ない集中力で悪魔達の行動を注視し続けるコユキの前で、二体は同時にのっそりと行動を開始した。
「ん? のっそり?」