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ある夏の昼下がり。
俺たちは扇風機も付けずに部屋にいた。 今日はつかさの機嫌がいいから長くなるだろう。
動く度に手首に巻かれた縄が軋み、血が滲む。
爪で皮膚を抉られ、頬にキスを落とされた。
触れるだけのキス。小さなリップ音がひぐらしの鳴き声にかき消された。
「あまね、スキだよ」
つかさの手が首元に伸びてくる。
だんだん音が聞こえにくくなってきて、視界がぼやけてきた。
あと少しで意識が途切れそう、というとき。 手が離され、激しくむせこんだ。
ぼやけた視界がクリアになった時、涙がこぼれたのだと悟った。
それと同時に、つかさが何かを探していることに気がついた。
「今日は切ろっか!おとなしくしててね?あまね」
そう言うつかさの右手には錆びたカッターナイフが握られていた。
新品よりも痛いんだよな、と思いながらこれから来るであろう痛みに身構える。
二の腕に鋭い痛みが走った。
視線だけ動かすとかなり深く突き刺さったカッターナイフが見えた。
つかさは刺さったままのそれを躊躇なく傷を抉るように動かした。
自然と涙が零れ、呻き声をあげる。
つかさは俺を見て満足気に笑った。
何時間経ったのだろう。 本当は数分なのかもしれない。
でも、俺にとっては何十時間にも感じられた。
つかさは痛めつけるのに飽きたようで、先程から何度もキスをしてくる。
ひぐらしの鳴き声はもう小さくなっており、今度ははっきりとリップ音が聞こえた。
「俺お腹すいてきちゃったかも、 今日は終わりにしよっか!」
つかさは笑顔でそう言い、手際よく手首の縄を血に濡れたカッターナイフで切った。
明日も土籠先生に怒られちゃうなぁ、などと考えながらゆっくり目を閉じた。
「…サマ、七番サマ」
「ったく、いつまで寝てるんですか、もう生徒達帰りましたよ 」
目を開けると呆れた表情で俺を見下ろす土籠がいた。
そうか、俺寝てたんだっけ。
当たり前だが二の腕に触れても痛みはなく、どこか安堵している自分がいた。
「んー、なんか変な夢見ちゃった」
伸びをして、いつもどおりのおちゃらけた笑顔を作った。
土籠は多分俺が嫌な夢を見たことくらいわかっている。
自分でも脈打つ心臓の音がはっきりと聞こえる。
血が巡る感覚なんてとうの昔に捨てたはずなのに、怪異というのは不思議なものだ。
ずっと俺はつかさに囚われたまま。
今はもうない傷を背負って罪を償うと決めたのだ。
俺はあの日の痛みを絶対に忘れない。