テラーノベル
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月明かりが差し込む旧校舎の女子トイレ。
八尋寧々は、いつものように床を雑巾で拭いていました。
「ねえ、寧々」
背後から不意にかけられた声と、首筋に触れる冷たい指先。
振り返ると、地縛少年花子くんが宙に浮かんだまま、いたずらっぽく微笑んでいます。
「うわっ、びっくりした……! もう、驚かさないでよ、花子くん」
「あはは、ごめんごめん。でも、寧々が一生懸命で可愛いかったからさ」
花子くんはひらりと着地し、寧々の手から雑巾を奪い取りました。
「ほら、今日はもうおしまい。ちょっと付き合ってよ」
「え? どこに行くの?」
花子くんは答えず、寧々の手首を優しく掴みました。
屋上へと続く階段を上る彼の背中は、いつもより少し小さく、だけど不思議と大きく見えます。
屋上の扉を開けると、満天の星空が広がっていました。
心地よい夜風が、寧々の髪を揺らします。
「わあ……綺麗……!」
「でしょ? 寧々に見せたかったんだ」
花子くんはフェンスに腰掛け、夜景を見下ろしながら、少し寂しそうに目を細めました。
「……ねえ、寧々。もし俺が、ただの人間だったらさ」
「え?」
「君と、同じクラスで出会えてたのかな。一緒に授業を受けて、一緒に帰ったりできたのかなって」
いつもふざけてばかりの彼の、突然の真剣な横顔。
寧々の胸が、きゅっと締め付けられます。
怪異と人間。決して交わることのないはずの境界線。
それでも、今ここにいる愛おしさは本物でした。
寧々は一歩、花子くんに近づき、その冷たい手を両手でそっと包み込みました。
「花子くんが人間でも、怪異でも、私は花子くんに出会えてよかったよ」
「寧々……」
「だから、もしもなんて言わないで。今、こうして一緒にいる時間を大切にしたいの」
花子くんは目を見張り、それから、いつもの意地悪な笑みを浮かべました。
しかし、その瞳は優しく潤んでいます。
「……ずるいな、寧々は。そんなこと言われたら、手放したくなくなるじゃん」
花子くんは掴まれた手を引き寄せ、寧々の額に、羽毛が触れるような優しいキスを落としました。
「これからもずっと、俺の助手でいてね、寧々」
赤くなる顔を隠すように、寧々は花子くんの胸に顔を埋めました。
聞こえないはずの心音が、二人の間に確かに響いているような気がしました。
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🎡天神みねむ チャン
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