コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あの夏が飽和する。
「昨日人を殺したんだ。」
突然、そう言われた。
六月、梅雨時に。
僕の部屋の前でずぶ濡れで座っていた。
夏が始まったばかりというのに君はひどく震えていた。
そんな話で始まる。
あの夏の日の記憶だ。
中学生になってからだった。
僕は生まれて初めて、好きな人が出来た。
二回目の席替えの時。
その人と隣の席になった。
僕が窓側の席でその人が右の席。
班も同じで話もした。
そして、夏休み前の終業式の日。
僕は階段前にその人を呼んだ。
「どうしたの?用事?」
明るい声はいつもの様に僕の脳に響き渡る。
でも、今日は少し違った感じに聞こえた。
…今しかない。
「…好きです。」
途端に顔が熱くなる。
相手の顔は…見えなかった。
恥ずかしくて僕はずっと俯いたままだったのだ。
少し沈黙が訪れた。
そして次に聞こえた言葉は。
「私も。」
だった。
彼女の名前は紅葉。
自己紹介の時からずっと耳に残る名前だった…。
六月。
もうすぐで紅葉と付き合って一年が経つ。
僕は雨の日に傘を忘れて濡れて帰ったのが原因か、風邪をひいて休んでいた。
ようやく体調も良くなってきた頃、祖父が学校は休みだと言った。
理由は…答えてくれなかった。
僕の両親はいない。
いや、正確には何処かには居るのだけれど僕の近くには居ない。
まだ幼かった僕を捨てたのだ。
だから今は祖父母の家で暮らしている。
でもあまり良い関係とは言えなかった。
仕方がないから布団でゴロゴロする。
この前買ったゲーム、クリアしようかな。
そんなこと考えながら部屋中をウロウロしていた。
ふと、窓から音がする事に気づく。
何だろうと思い窓をみてみる。
するとそこには雨に濡れた前髪で顔を隠した紅葉がいた。
僕は窓を開けて近づこうとする。
しかし紅葉は離れようとする。
思わず立ち止まりそのまま沈黙が訪れる。
しばらくして紅葉は口を開いた。
「昨日人を殺したんだ。だからもうここには居られない。どこか遠いところで死んでくる。」
そんな紅葉に言えることは一つだった。
「それじゃ、僕も連れてって。」
財布を持って、ナイフを持って、ゲーム機もカバンに詰めて。
いらないものは全部、壊していこう。
写真だって、日記だって今となっちゃどうでもいいさ。
だって誰もいないところで溶けて消えてしまうんだろう?
何もいらない。何も残らない。誰も悲しまない。
人殺しとダメ人間の君と僕の旅だ。