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あの夏が飽和する。




「昨日人を殺したんだ。」


突然、そう言われた。

六月、梅雨時に。

僕の部屋の前でずぶ濡れで座っていた。

夏が始まったばかりというのに君はひどく震えていた。

そんな話で始まる。

あの夏の日の記憶だ。




中学生になってからだった。

僕は生まれて初めて、好きな人が出来た。

二回目の席替えの時。

その人と隣の席になった。

僕が窓側の席でその人が右の席。

班も同じで話もした。

そして、夏休み前の終業式の日。

僕は階段前にその人を呼んだ。

「どうしたの?用事?」

明るい声はいつもの様に僕の脳に響き渡る。

でも、今日は少し違った感じに聞こえた。

…今しかない。

「…好きです。」

途端に顔が熱くなる。

相手の顔は…見えなかった。

恥ずかしくて僕はずっと俯いたままだったのだ。

少し沈黙が訪れた。

そして次に聞こえた言葉は。

「私も。」

だった。

彼女の名前は紅葉。

自己紹介の時からずっと耳に残る名前だった…。




六月。

もうすぐで紅葉と付き合って一年が経つ。

僕は雨の日に傘を忘れて濡れて帰ったのが原因か、風邪をひいて休んでいた。

ようやく体調も良くなってきた頃、祖父が学校は休みだと言った。

理由は…答えてくれなかった。

僕の両親はいない。

いや、正確には何処かには居るのだけれど僕の近くには居ない。

まだ幼かった僕を捨てたのだ。

だから今は祖父母の家で暮らしている。

でもあまり良い関係とは言えなかった。

仕方がないから布団でゴロゴロする。

この前買ったゲーム、クリアしようかな。

そんなこと考えながら部屋中をウロウロしていた。

ふと、窓から音がする事に気づく。

何だろうと思い窓をみてみる。

するとそこには雨に濡れた前髪で顔を隠した紅葉がいた。

僕は窓を開けて近づこうとする。

しかし紅葉は離れようとする。

思わず立ち止まりそのまま沈黙が訪れる。

しばらくして紅葉は口を開いた。

「昨日人を殺したんだ。だからもうここには居られない。どこか遠いところで死んでくる。」

そんな紅葉に言えることは一つだった。

「それじゃ、僕も連れてって。」

財布を持って、ナイフを持って、ゲーム機もカバンに詰めて。

いらないものは全部、壊していこう。

写真だって、日記だって今となっちゃどうでもいいさ。

だって誰もいないところで溶けて消えてしまうんだろう?

何もいらない。何も残らない。誰も悲しまない。

人殺しとダメ人間の君と僕の旅だ。

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