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しばらくビクターを睨んでいたギデオンだが、諦めたように息を吐く。そして静かに話し始める。
「進みながら話そう。…ケリーは頭もよく剣の腕も立ち、気が利く。だから重宝していたのだが、本性は違ったようだ」
「へぇ。俺は最初から|胡散《うさん》臭そうだと思ってたがな」
「だったら教えろよ」
「俺が忠告したところで、おまえは聞かないだろうが」
「…まあ」
あれ?やっぱり二人は仲が良い?お互いぶっきらぼうだけど、会話が弾んでるように思うのは、気のせい?
リオは熱い息を吐いて、目を閉じる。発熱のせいか揺られているせいか、目眩がする。そういえば、ギデオンに運ばれるの、これで何回目だろ?狼領主に背負われた人間って、俺くらいじゃない?えへへ、なんか優越感…。
リオが浮かれている間も、二人の会話が続く。
「それで?ケリーは何をやらかしたんだ?」
|尋《たず》ねるビクターの声が、どこか楽しそうに感じるのは気のせいか。
「ケリーは、リオのことを気にかけていた。リオは誰からも好かれる性格だ。だから弟のようにかわいがっているのかと思っていたのだが、違ったようだ。ケリーは、リオを崖から落とした」
「はあ?それでなんで死罪になってないんだよ」
「ビクター、おまえは物騒だな。まあ聞け。実際はアンを崖下へ放り投げたんだ。それを助けようとしてリオが落ちた。ケリーはアンに腹が立っていたからとしか言ってない。それに運の良い事にリオも軽傷だった。だから重い罪に問えない」
「狼領主ともあろうお方が優しいことだねぇ。ケリーは、こいつが犬を助けることをわかって放り投げたんだろ。悪質だな」
「そうだな」
「犬じゃない、アンは家族だ」と呟いた声が聞こえたらしく、ビクターがリオに近づき「悪い」と頭を撫でた。
ギデオンと同じくらい大きな手だ。だけどギデオンに撫でられた時のように気持ちよくない。むしろ少し不快に感じる。
リオは震える手を上げて、ビクターの手を|避《よ》ける。
「勝手に触らないで…」
「なんでだよ。ギデオンはいいのに俺はダメなのか?」
「そう…です」
「面白くない」
拗ねた口調で言って、ビクターがリオから離れる。そして川を挟んだ向こう岸の木々が立ち並ぶ場所を指し示す。
「ギデオン、あそこ。俺は、あの木々を縫って移動するケリーを見た」
「なんだと?」
ギデオンが低い声を出す。
リオも驚いて首を伸ばし、ビクターが示した場所を見る。思わずギデオンに回していた手に力が入る。その手の上に、ギデオンの手がそっと重なった。大丈夫だと言ってるように感じて、リオは力を抜く。
ビクターが、木々を見つめて続ける。
「俺は、リオが一人でギデオンを捜しに行ってしまったから、草を踏んだ跡や小枝が折れた場所を辿って、リオの後を追いかけた。途中、斜面をずり落ちた跡があったが、おまえ、怪我してないか?」
「…してる」
「なに?なぜ早く言わないっ」
「ごめん…」
ギデオンに、また怒られた。
でもそれは、心配だから怒ってるってわかってる。それに怪我は、ギデオンを見つけて走って転んだ時の怪我だから、擦り傷だけだから大丈夫だよ。
「宿に着いたら全身調べるからな」
「うん…」
ギデオンに心配されることが嬉しい。
今まで色んな人から心配されたけど、こんな気持ちになったことはない。
どうしてこんな風に思うんだろう。
リオは目を閉じて、続くビクターの話を聞いた。