ザアザアと雨が降り続く中、
僕は今日発売の『セーラー大全集』を求め、少々寂れた商店街に来ていた。
「うぅ…やっぱりここにもないや」
本屋のきしむドアを開け、そして閉める。
店の隅々まで探し回ったが、やはり『セーラー大全集』などというマニアックな本は置いていない。
ため息を押し殺し、また別の本屋の行こうと
小さな手でスマホを取り出し、ナビを起動する。
雨粒が傘を叩く音が耳にこびりつく中、俯きがちに歩いていた晴明の目に、
ふと…
意識していなかったはずなのに、なぜか視線が一点の場所に吸い寄せられた。
湿った空気をまとう廃ビルと廃ビルの隙間に、その薄暗い通路をのぞきこむと、
まるで忘れられた場所かのように、古ぼけた井戸があるのが見えた。
「あれは…井戸? なんでこんな所に」
奥に見える井戸が気になってそちらへ歩いて行くと、通路は思っていた以上に暗く、
そして、子供の自分にしか通れないほど狭い。
惹きつけられるように、一歩、また一歩と足を運ぶ。
気がつけば、井戸に手の届くほど近くまで来ていた。
「わ~、あたりまえだけど、真っ暗だなぁ…」
好奇心に駆られて、身を乗り出すように井戸の底を覗き込んだ。
ひやりとした空気が下から吹き上げてきて、雨に濡れた頬を撫でていく。
「もし、こんな所に落ちたら……」
「……なーんて、そんなことないよね!」
独り言をこぼし、安堵の笑みが漏れた。
特別な何かを期待した焦燥が抜けて、力が抜けたのだろう。
(つるッ…
「えっ」
……………そう、力が抜けてしまったのだ。
苔むした石に置いた手が、バランスを崩してつるりと滑った。
――しまった。
そう思った瞬間には遅く、子供の体など軽々と宙に投げ出され、
頭上から差し込む雨粒が、まるで追いかけるように落ちてくるのが見えた。
変なフラグを立ててしまったばかりに………井戸に落ちるなんて。
自分の不幸体質は、もはや困るというより、笑い話にするしかない。
そう自嘲しながら、意識は沈んでいった。
「……あれ、ここどこ」
ぼんやりとした意識の中で、まず鼻を突いたのは、
伽羅(きゃら)のような、落ち着いた香木の香りだった。
恐る恐る目を開け、周囲を見渡す。
そこは、広大な屋敷の一室のようで、戸惑いながら外に目をやると、
手入れの行き届いた庭に、先ほどまで降っていたはずの激しい雨が、
まるで嘘のように、ぽつり、ぽつりと静かに降り注いでいた。
「確か…『セーラー大全集』を買いに来て、それで…井戸に落ちたはず、なのに…」
とりあえず退魔の力でなんとかならないかな、なんて安直な考えで力を振り絞ってみる。
だが、思うように力が満ちてこない。それでも諦めきれずに、切羽詰まった声で叫んだ。
「何処か分からないけど、夢なら覚めて!」
その言葉は、幼い声のまま、虚しく響く。
力を発動させようとした瞬間、頭上から、「だめだよ」と優しくも厳格な声が、頭上から降ってきた。。
「ギャー! ドッペルゲンガー!!」
「もう僕のことを忘れてしまったの?悲しいなあ」
「むむ、ちょっと待ってください! ……思い出した」
「その顔は……僕のご先祖さま?」
「正解」
そう言って、ご先祖様は
ほんの少し困ったように微笑んだ。
「それにしても…、ずいぶん可愛らしい姿になったものだね」
彼の声を聞き、顔を上げると、
ちょうど彼がしゃがみ込んでいるところだった。
目線が合い、腰が抜けている僕の体を軽々と抱き上げ、そのまま自分の膝に乗せてくれた。
「えーと、その……」
(どうしよう……子供の姿を治すには
『いろんな人とセッ〇スをして、精〇を中に注いでもらう事です!』なんてとても言えない……!)
言葉に詰まる僕の様子に、やがて、
差し出された手のひらが、僕の頭にふわりと触れる。
「大丈夫だよ、事情は知ってるから」
その瞬間、肩から力が抜ける。
彼は僕の頭に手を置き、子供をあやすように優しく撫でてくれた。
「ねえ晴明、教師としての生活はどうだい?もう慣れたかな」
「え? はい! もう毎日楽しいのなんの!」
「クラスの皆もいい子達ばかりだし凛太郎くんや飯綱くんとも友達になれたし、」
「良いことだらけで幸せです!」
「…そっか、それは良かった」
何故だろう、あんまり良いと思われていない気がする。もしかして、
自慢に聞こえてしまったのだろうか。どうしよう、
なにか気の利いた言葉が口をついて出ればいいのに、言葉が出てこない。
「ああ、違うよ。晴明がみんなと仲良く暮らしていることはとても喜ばしいことだよ」
「元気そうな君を見ると僕も嬉しくなるからね」
「………え⁉」
「問題なのは晴明が他の妖怪に好かれすぎていることかな」
「な、なんか……ご先祖様、怒ってますか?」
穏やかで優しい声なのに、なぜかぞっとする。
まるで凍りついた湖の底から響いてくるような、深くて冷たい声に、
全身の毛が逆立つような、得体の知れない恐怖に襲われた。
「怒ってるんじゃないよ、これは嫉妬かな」
「ご先祖様が嫉妬? 一体誰に…」
「さあ? 対象が多すぎて一人に絞れないよ。まったく…晴明は僕のものなのに」
「はい?」
今のは聞き間違いだろうか。
そう思っていると、
唐突に、背後から痛いほどに強く抱きしめた。
顎を肩に乗せられ、耳元で冷たい声が響く。
「晴明、愛しているよ。かわいいかわいい僕の晴明」
「え、えっ!? ななな、なに言ってるんですかご先祖さま⁉///」
突然の告白に頬を紅く染める。恋愛経験皆無の晴明には刺激が強すぎる。
「もしかして、からかってます?!そうですよね!あはは……ってか、顔が近いです!!」
なんとか冗談でしたという雰囲気に持っていこうと、
乾いた笑みを向けるがちっとも効果がない。
むしろ――。
「……ひゃう⁉////」
これ以上口を開くのは逆効果かもしれない。
首筋に『ちゅっ』とやわらかい音が響き、それに釣られるように情けない声が喉から漏れた。
同時に、無意識に肩がビクッと跳ね、身体全体が固まる。
予期せぬ出来事に、鼓動が早くなるのを感じる。
「ま、待ってください!///」
「うん? ああ、もっと触ってほしいのかな?」
愉しげに歪んだ彼の唇から、甘く意地悪な言葉がこぼれ落ちる。それと同時に、
ひやりと冷たい指先がシャツの裾から忍び込み、腹の柔らかい部分を撫で回す。
恐怖と快感、どちらともつかない震えが、背筋を這い上がった。
「ひ…ッ、ちがいます!///」
「なんでこんなこと…っ!///」
「なんで…? だって、他の妖怪たちとはシているのに、僕だけ出来ないなんて…」
「晴明はそんなの不公平だと思わない?」
「思わない! 思わないです!」
「まぁ、拒否権はもうないけどね」
「ひぇ…」
彼の言葉に、息をのむ。
どうしてだろう。どうしてこうも毎度のこと、誰かに捕まってしまうのだろう。
もう、出会う人全員にフラグが立ってしまう。
これは呪いなのだろうか。それとも、避けられない運命とでも呼ぶべきか。
今はそんなことをんきに考えている暇もない。
僕は奮える唇で必死に叫んだ。
「え、えっちなことはいけないと思います!!///」
コメント
6件
祖晴終わったら平安時代の道晴・失晴が見たいです!書いていただけたら嬉しいです‼️🙇♀️
いや、ね?晴明様×ショタ晴くんは神すぎるだろ!!!😍︎💕︎ もうダメだ、尊すぎる...冷静さを取り戻すためにもちょっくら東京湾沈んでくるわ!!
夕飯終わりにこれは感謝感激雨あられですね。( ^-^) マシで上手すぎて発狂したら親に怒られましたよ。(o^-')👍 まぁまぁ……晴明君の腰には気遣い無用だからさ???晴明さん!全力でおなしゃす!((土下座