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──となりの塔の中──
緑あふれるこの塔の天井は、複雑に絡みあった茎によって形作られており、その隙間からやわらかい光がふり注ぎ、みどり溢れる教室を輝かせていた。
「こんにちは! メヒワ先生! ポピュアの子たちを連れてきました!」
「ありがとね、グオ」
先生は、ぱっちりとした大きな目をぼくらに向け、話し出した。
「どうも、『メヒワ』です。この学舎に通う子は、これから3年間わたしが教えることになります──みんな席について、リュックを出してください」
メヒワ先生は、すこし無愛想だが、身長が小さくてかわいらしいおばあちゃんといった感じだった。
葉っぱの机と植物の椅子が、縦5横6と30席。
きれいに並んでおり、オウエン、リヨク、ユウマは、真ん中の列にとなりどうし並んで座った。
「これ意外に丈夫だな」
ユウマは、葉っぱの机を触りながらリヨクに言った。
リヨクは、葉っぱの机に、おそるおそるリュックを置いた──「ほんとだ、ビクともしない」
「先生! このいろんな色の葉っぱはなに?」
ひつじのようなモコモコとした髪型の少女は、左のカベの前に並んで立っている6枚の葉っぱを指差し言った。
「それは、この学年の属性別ランキング表です。
入学後にどの植物と相性がいいか、みなさんの適性を見ますので、その時にお話しします」
──それぞれの葉っぱには、葉脈によって子どもたちの名前が浮き出ており、白い葉っぱの上部には
”風
1グオ•ティアランカ•ザード”
と葉脈が浮き出ていた。
「先生!」
──「質問ならあとにしてちょうだい」
メヒワ先生は、質問する子どもをかわし、呪文のような言葉を放った。
「《リベク》」
すると、地面から巨大な葉っぱが生えてきた。
──葉っぱは、生えると少し斜めに垂れ下り、先生の後ろに、みどりの壁ができた。
「《レンレ》」
メヒワ先生は、また呪文を唱えると、巨大な葉っぱの葉脈が動き出し、文字が浮かび上がってきた。
”
①緑の国エドーラの通貨《ランツ》
②太陽エネルギー《プロン》
③記憶植物《リンル》
”
巨大な葉っぱは、黒板のような働きをし、それを背に話し続けるメヒワ先生は、地球の学校でも見る授業風景を作り出していた。
「これから説明するこの3つは、あなたたちが生活していく上で必要となる物です。──そこ」
メヒワ先生は、はしゃぐ少年少女をみて話を止めた。
「ダヤン!! みてみて、チャールズ博士。──」
「アハハハ、ちょっと似てる」
──目が大きいくるくるパーマの少女は、人面植物を顔に当て、七三分けたらこ唇の少年を笑わしている。
2人とも眉間に赤い点がついており、歩き方がぎこちない。
「《はやく席に着いてリュックを出しなさい》」
メヒワ先生の冷気を帯びたつららのような声が、笑い合う少年少女に突き刺ささり、同時にガヤガヤとした教室を静まらせた。
リヨクは、怒らすと怖いタイプの人だと思い、背筋を伸ばした。
「──はい」
子どもたち全員の注意が集まると、先生は再び話しはじめた。
「──まずはこの①緑の国エドーラの通貨《ランツ》について説明します。リュックの中から、黄みどり色の小袋を取り出し、このタネを出してください」
──リヨクは、ランツと言う500円玉程の大きさのタネを取り出した。
「このランツは、いわばこの国で使われているお金のことです。タネ同士が合体し、密度が上がる事によって計算されます」
メヒワ先生は言いながら、ランツと言うタネを2つ手に取り、くっつけた。すると、タネの中にタネが入っていった。
「2つあったタネは、1つにまとまりました。次は取り出す方法です」
先生は、片方の手でタネを持ち、もう片方の人差し指の先をタネに当てた。
──そして、人差し指を徐々にタネから離していく。
──すると、タネの中からタネが、人差し指にくっついて出てきた。
「──はい、タネは2つに戻りました。
②で説明する”太陽エネルギー《プロン》”を習得すると、感覚で出来るようになります。
ではリュックの中から、『自然の生態と接し方』を出し、──3ページ目の『太陽エネルギー《プロン》について』を開いてください」
リヨクは、リュックの中から厚みのある本を机の上にドンと出し、ページをめくりはじめた。
リヨクは、3ページ目に手を挟みこみ、ペラペラとめくっていく──『ポムヒュースの歴史』と書かれたページで手が止まる。
(──〝『竜使いヨアブフ』は、硬いたてがみをもつ竜{ファフニール}を巻きつけて切り落とし〟──これって……ドラゴンじゃん!)
「オウエン、これみて」
リヨクは小声で言い、木に巻きつくドラゴンが描かれたページを見せた。
「え!! ドラゴン!?」オウエンは大きな声を出した。
「しーっ。声大きいよっ!」リヨクは小声で注意した。
「ごめん! …けど、そうだよな?」
「たぶん。しかも超大きいよ…だってほら、ポムヒュースを切り落としたって書いてる」
「ポムヒュースって、ここのことだよな?」
「そう。この木を切ったドラゴンがいるってこと」
「……デカすぎて、思いうかばないや。こいつ、どこにいるんだ?」
「えーっと…」
「リヨク」
ユウマがとなりの席から先生を指差し、注意してくれた。
ユウマが指差す先をみると、メヒワ先生は、ぼくらを見ていた。
「オウエン、前」
リヨクもオウエンに知らせる。
リヨクとオウエンが前を向くと、メヒワ先生は話し始めた。
「《リベク》」
メヒワ先生が呪文のような言葉を放つと、ポピュア村のリヨクの家もあった観葉植物が一瞬にしてブワッと現れた。
「この植物は《リンル》という記憶植物です。
君たちの家の中にも生えています。
匂いを覚えさせる事によって、迷った時に家まで案内してくれます」
──そして、先生は葉っぱをちぎり取ると、話を続けた。
「このちぎった葉は、元あった場所に戻ろうとするので、家の方向がわかると言うわけです。──」
メヒワ先生は、ちぎりとった葉っぱを、手のひらにのせた。すると葉っぱは、《リンル》本体にひらひらと吸い寄せられ、ペタッとくっつくと、やがてちぎった部分と繋がった。
「しかし、ただ持っているだけでは、方向を教えてくれません。《プロン》を使う必要があります。
えーっと、セイブくん。3ページ目を読んでいただけますか?」
──『セイブ』は、オールバックで、黄みどり色の大きな目。その上に目のようなタトゥーが入っており、青にみかん色の模様が入った民族服を着ている、変わった見た目の少年だった。
セイブは、「はい!」と言うと、スラスラと読みはじめた。
──「太陽エネルギー《プロン》について。
ビョーウの星では、『この星の名前ね』“太陽”と呼ばれる火の玉が星全体を巡り、生命に不可欠な光を放っている。
その放つ光“プロン”は、生物の成長を促すエネルギーを提供するとともに、全生命体との意思疎通にも役立っている。
この星の生態系に深く組み込まれた“プロン”は、この星に住む全ての生命体に恩恵をもたらしている」
「──はい、セイブくんありがとう。座ってちょうだい」
──メヒワ先生は、セイブを座らせると話はじめた。
「このように《プロン》とは、この世界には欠かせないものなの。通貨ランツをとりだすにも、植物を生やすにも、この《プロン》を使います。
入学するとまず最初に学ぶことでしょう。
《プロン》はどの生物にも宿っています。
しかし、《プロン》を使えるようになるには、それなりに時間がかかります。習得するまでは、この笛を使ってください」
──メヒワ先生は、アーガバウト校長からもらったみどり色の笛を見せた。
「この笛は、音によりあなたたちに宿る《プロン》を植物に運んでくれます。
使えるのは、笛の音を覚えさせている植物が居るポピュア村と、ポムヒュース付近でのみだけですが。
鳴らすと、成長した姿を想像しなくとも、音を聞いた植物たちは、我々が調整した通りに成長してくれます。
例えばこの芝に「ピー」と一回吹く。すると、鳴らした本人の頭の上まで伸びると成長が止まる。
──「ピーピー」さらに上まで伸びる。──「ピーピーピー」ゆっくりと垂れる。
そして「ピッ」と短く吹けば縮み続け、また「ピッ」と吹けば止まる。
この笛を使って明日、3階に来てもらいますので、覚えて帰ってください。
──今から一階におりて、実際に使ってみましょう」
子どもたちは教室を出て、橋の前まで来た。
「降りる場合は、これを成長させて、飛び降りるだけです」
メヒワ先生は、芝生から生えた一枚葉っぱを根っこから抜き取った。
「この葉《ホアム》は、周囲の風を集め浮遊する能力があります。十分に成長させると、人をも空中に浮かすことができます。
──この笛を使うと、わずかに重量オーバーになる大きさに成長し、ゆっくりと地上へ降下することができます。
──それではまず葉っぱを抜いてください」
子どもたちは、一枚葉っぱを根から抜き取った。
「それでは、笛を吹いてください。吹き方は自由です」
──子どもたちは、一斉に笛を吹き始める。
すると、ピーピーと耳をつんざくような騒音の中、ブワッ、ブワッ、ブワッと子どもたちが手に持っている葉っぱが大きく成長していく。
「すごっ!」リヨクはオウエンと目を合わせ興奮を共有した。
──ユウマは、大きくなった葉っぱを触り、強度を測っているようだ。
「ユウマおりれる?」
「いや、むりかも…」
──リヨクは先生に話しかけた。
「メヒワ先生、ユウマがおりれそうにないって」
「そうですか。落ちかけたもの、無理もないですね。あなたは私と一緒に下へおりましょう」
「先生…実はぼくもおりれそうにない……」
「2人も抱えられません」
──リヨクは渋々1人で降りることにした。
「リヨク! いくぞ!」
「うん」
「はやく、おれ先におりるよ?」
「……先におりてて……‼︎」
リヨクはオウエンに引っ張られ下におりた。
「うっ……オウエン! あぶないだろ!」
「ごめん、リヨクずっとおりてこないと思ったから。けど、ゆっくりだし、全然怖くないじゃん」
「けどあぶないよ」
リヨクの怒りは、下におりて行くにつれて、なんだか楽しくなっていき、感謝の気持ちに変わっていった。
下についた子どもたちは、笛を使って3階に上り、葉っぱを使って一階に降りるを3回繰り返した。
「3回も上がればさすがに覚えたかしら。まだわからない子がいたら、明日一階にいる誰かに助けてもらってちょうだい。それではみなさん、見学おつかれ様でした。グオ、ポピュア村わかる?」
「はい!」
「それじゃ、頼むわね──みなさん、さようなら。きおつけて帰りなさい」
「「「さようなら!」」」