若井side
「…元貴、おはよう」
「………うん。」
教室に入ってきた元貴の顔は暗かった。
ボロボロの靴を申し訳程度に引っ掛けて
ふらふらと自分の席に歩いていく。
くすくすと聞こえる笑い声。
いつも通り真っ黒になった元貴の机。
その上には真っ白な花が天井に伸びている。
笑い声をあげる男女の輪の中にいるのは涼ちゃん。
引き攣りながらも元貴の悪口に笑っている。
わかってるんだよ、涼ちゃん。
今でも泣き出しそうな顔で笑ってんの。
あの日、涙脆かった涼ちゃんは
「元貴のおかげで助かった、ありがとう」って
言ってたじゃん。
あの日から「天然ぶってる」って言われるの、
無くなったんじゃないの。
それはきっと元貴がみんなの前で
「やめろ」って言ってくれたからじゃないの。
涼ちゃんは元貴に助けられたんじゃないの?
《あの日》俺たちが決めたことが、今でも間違いだったんじゃないかって思う。
いやきっと、全て間違っていたんだ。
「…涼ちゃん。」
「ぁ、…若井…っ」
悪口を言っている集団に「トイレ」と元気に笑ってから
廊下にでた涼ちゃんを引き止める。
涼ちゃんと長い付き合いの俺は知ってる。
涼ちゃんが今からトイレをしにトイレに行くんじゃないってこと。
「…もう、やめた方がいいんじゃない…?」
「…僕が虐めないと…元貴はどんどん壊れちゃう」
涼ちゃんは泣きそうな顔で、震えながらそう言った。
そして無理してゆっくり笑った。
「僕は大丈夫だよ、心配ないよ。大丈夫。」
自分に言い聞かせるみたいに。ゆっくり、涼ちゃんの唇が動く。
細めた目から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「…あ、…あれれ…っ?」
涼ちゃんは涙をすぐに指で掬い取って、
俺に「欠伸だよ、」と誤魔化して笑った。
教室に戻ると机をゴシゴシ拭いている元貴がいた。
誰も助けない。
誰も何も言わない。
誰も喋りかけない。
ただただ遠巻きに元貴を眺めて、クスクスと嘲笑う。
それがこのクラスの、日常。
「あ、滉斗、はよぉ」
「おはよ」
「藤澤は?」
「トイレ」
「あ、そっか。にしても残念だなぁ。藤澤にも
この大森の醜態、見せてあげたかったのに」
男子が笑う。
俺も笑わないと。
涼ちゃんみたいに。上手に。
笑わないと、笑わないと…
俺はクラスから浮いてしまう。
「…そ、だなっ…」
頬に冷たいものが流れる。
それをめざとく指摘した男子に、「欠伸」と
涼ちゃんと同じように誤魔化して笑った。
元貴の姿が目によぎる。
小さい体で、強く机を擦る元貴。
きっと雑巾だけじゃマーカーの汚れは落ちないのに。
__あの日、俺たちがした選択は本当に正しかったのか。
あの選択以外、があったんじゃないか。
そしたら元貴は今笑っていたんじゃないか。
そう、思うんだ。
「…若井、何も言わないで。これしか方法が無いの」
「ちゃんとする。元貴は絶対に殺さない。だから、…許して。」
あの日、涼ちゃんは泣きながら俺に“お願い”をした。
元貴が涼ちゃんを助けたあの日。
元貴は涼ちゃんの代わりに虐められそうになっていた。
涼ちゃんはクラスに馴染む代わりに、
元貴がクラスから浮いてしまう。
涼ちゃんの代わりに元貴がいじめを受けるのは
ほぼもう確定で決まっていた。
涼ちゃんが何を言っても聞き入れようとはしなかった。
虐めの内容は涼ちゃんよりも酷かった。
お弁当に画鋲を入れてみる、教科書を全部水で濡らす、一階から突き落としてみる…。
みんなの口から出てくる残酷な虐めの内容に涼ちゃんは立ち上がった。
「…僕が虐める。」
と。
涼ちゃんが元貴を虐める主犯になれば、
涼ちゃんは元貴に多少なりとも手加減ができる。
涼ちゃんはそれを狙って
クラスのみんなの前で宣言した。
絶句する俺に、何度も許しを乞いた。
何度も「黙って見ててくれ」と懇願した。
俺は、それについ頷いてしまったんだ。
それからだ。
大好きな親友が虐められている姿を
毎日のようにみることになったのは。
若井滉斗 Wakai Hiroto
吃驚するほどよくモテる。本人の自覚はない。
でも本当はすごく甘えたがりな三人の中の末っ子。
勉強も運動も良くできる。彼の周りにもいつも人がいる。
大森のことも藤澤のことも大好きで
大森の虐めを止めようと夜な夜な悩んでいる。
展開がいまいちよくわからないですね。
語彙力が皆無なせいで何も伝わらないかもしれない。
💬ありがとうございます。
嬉しいです。励みです。
まじ我逢人と虐めって難しい。
♡と💬よろしくお願いします。
コメント
6件
大森さんもこの事情を知ってるのかな?
色んな思いがあるよね…
うわぁ…複雑…助けるためだけどなんかちょっとズレてるような…なんだろう…善と悪って定義がないからこそ難しいよな…道徳の教科書にこれ載せておいてほしいな。深くて刺さる作品だな。続き楽しみ!