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「それ、体育倉庫に運ぶー。」
「誰かこっち手伝ってー!」
私は教室から、綺麗な夕日と、校庭からの声を、見て、聞いていた。
トイレで衣装を着替えようとしたけど、同じ考えの人が多く、私は校舎に1人入り、教室で着替えようと思った。
誰もいない教室に入って、自分の席に座った時、一気に気が抜けて、疲れがおしよせてきた。
私は衣装を着たままぼーっと夕日を眺める。
長かったようで、短かった体育祭は、無事幕を閉じた。
だけど今日は、体だけじゃなく、脳までクタクタになると思う。
だって。
「××。」
私の体育祭は、まだ幕を閉じていないから。
「え..?」
衣装を着たままの孤爪くんが、ドアの前に立っている。
驚いて、上手く声が出なかった。
孤爪くんは教室に入って、ゆっくりこちらに歩いてくる。
声が出せずにいると、孤爪くんは、私の前の席に座った。
初めて名前を呼ばれたあの日と、同じように。
「おつかれ。」
「うん…お疲れ様…。」
私は少し震える声でそう言った。
孤爪くんは優しい表情のまま、私を見ながら言う。
「衣装、似合ってる。可愛い。」
「えっ!?」
突然かけられた言葉に声が裏がえる。
顔が徐々に熱くなる。
心臓が音がうるさい。
「あそこ。」
何も言えずにいたら、孤爪くんが唐突に声を上げた。
見ると、孤爪くんは窓の奥の方を指さしている。
「あそこで話した続き、してい?」
孤爪くんが指さした場所は、今日、一緒にお弁当を食べた花壇。
私はその時のことがフラッシュバックし、頬を染めたが、小さく頷いた。
孤爪くんは優しく微笑んだ。
「俺、ダンスなんてやりたくないって話、したじゃん?」
私はその話か、と安心した気持ちもあり、少し心が沈んだ気もした。
「それ、俺の代役聞く前までの話。代役聞いた時、めっちゃやる気出た。」
呼吸が止まる。
孤爪くんの言ってる意味が分かるようで、分からなかった。
「今度あっち。」
孤爪くんは再び窓の外に指をさす。
そこは、私が毎週水曜日にかよう旧校舎だ。
「あの旧校舎、体育館の横扉から、遠いけど、よく見える。普段誰も来ないのに、たまに来て掃除する女の子を、よく見てた。」
「えっ。」と声が漏れてしまう。
孤爪くんがニコッと笑う。
「××が窓拭いてる時、ちらっと俺の方見た気がした。…もしかして、俺の勘違い?」
「えっ….いつから…?」
「1年の….5月…ぐらいかな。まぁ俺まだ金髪じゃなかったしね。」
「えっ。」
初めて美化委員になって、仕事にも慣れてきた頃だ。
まさかそんな前から見られてたなんて。
そもそも旧校舎から体育館が見えることすら知らなかった。
「1回見たら、なんだか気になっちゃって、毎日休憩中に見るようになった。いつも重いもの運んだり、高いところの汚れも頑張っておとしたり。すごい真面目な子って思って見てた。」
「いない日の方が多くて、けど毎日見てるうちに水曜日には絶対いるってわかった。」
「気持ち悪くてごめん。」と少し俯いた孤爪くんをみて私は首を横に振った。
「そんなことない…むしろ….。」
私はハッとなり言葉を止めた。
孤爪くんは首を傾げてこちらを見つめていた。
嬉しいって言いそうだったけど、ぐっと飲み込んだ。
まだ、言えない。
まだ言っちゃいけない。
私は横に首を振った。
孤爪くんは私の前でふーっと息を吐き出した。
「ねぇ、××。」
心臓が音と、孤爪くんの声が重なる。
何も答えられなくて、私はただ黙っている。
孤爪くんは構わず続けた。
「俺、××のこと、好きだよ。」
胸の奥から何かが込み上げてくる。
「ずっと前から、知り合う前から。知り合ってからは、ますます好きになったけどね。」
嬉しくて、泣きそうで、私も、と言ってしまいたかった。
初めて孤爪くんを見た時、本当に綺麗だと思った。
知り合っていくうちに、どんどん君に惹かれていった。
声も、話し方も、歌声も、笑顔も。
全部全部、どうしようもないぐらいに好き。
でも、言えない。
まだ、言えない。
「…ごめん…孤爪くん。もう少し…もう少しだけ、待って。」
私の目元は涙でいっぱいになる。
私は慌てて両手で顔を覆う。
覆った手の間から、震える声を出す。
「やらなきゃいけないことがあるの…。だからまだ…答えられない。」
しばらく黙っていた孤爪くんは、「うん。」と短く答えた。
「いいよ。××のこと、ずっと待ってるから。」
夕日で照らされた君の暖かい笑顔は、私の心を安心させる。
孤爪くん、ありがとう。
私なんかを好きになってくれて。
本当に、本当に嬉しい。
だからもう少しだけ。
ずっと逃げ続けてた私の気持ちと、ちゃんと向き合うから。
だから、もう少しだけ、待ってて。