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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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私は、いつものようにダンボールを運ぶ。


教材を仕分けしたダンボールの蓋を閉じ、次々と新校舎に運んでいく。


今日でこの教室とさよならをする。


私は最後のダンボールを廊下に出したあと、窓の戸締りを確認し、扉の前で止まる。


そして、大きく深呼吸をしたあと、扉を閉めた。


最後のダンボールを資料室へ運び、資料室の鍵を閉めて、職員室に鍵を返した。


いつもみたく、1階の掲示版を見る。


6月、初めての仕事。


私は、1枚紙をめくる。


最後の仕事の記録を見て、思わず笑みがこぼれる。


【担当】3-5 夜久衛輔 ” 2-1 ○○ ×× “


丁寧で、大きくて、元気な字。


私の頭に、先輩の笑顔が浮かぶ。


それで私は、また先輩に、元気づけられた。




「小春。」


静かな教室に1人、ぽつんと私の席に座る小春。


「待ってたよー!」といつものように微笑んで私に声をかけてくれる。


この元気いっぱいの笑顔を守りたくて、傷つけたくなくて、


この笑顔が歪んで欲しくなくて、


私は、自分に嘘をついて、自分の心を押し潰してた。


けど今、それを引き出さないと。


私は、小春の前に座った。


孤爪くんと、同じ視点で小春を見た。


「話したいことがある。だから待っててもらったの。」


私は真剣に、小春と向き合った。


小春も、それを悟って、「うん」と真剣な顔で頷いてくれた。


「私…。」


声が震える。


小春の顔を見るのが辛い。


「ゆっくりでいいよ。」


小春は、優しく言う。


本当に優しい。いい子すぎるよ。


「ありがとう。」


私はふーっと、細く息を吐いた。


「私、孤爪くんのことが好き。」




孤爪くんが大好き。


本当に、おかしくなりそうなぐらい好き。


「うん。」


「私、小春に嘘、ついてた。本当にごめん。」


「うん…分かってたよ。」


今にも泣き出しそうな声で言う小春。


私は、言葉が詰まる。


「結構前から、知ってた。私が孤爪くんの話すると、××ちょっと変な顔してたし。あぁ、聞きたくないんだなって。」


「カラオケでさ、孤爪くんが『可愛くてごめん』歌った時、ほんとに可愛くて、途中で××と共感したくなっちゃったんだ。××も同じこと考えてるんだな〜って。」


「××は、私に隠し事するのが下手だね。」と眉を下げて、困ったように笑う。


小春にはかなわない。


この気持ちは、奥深くに押し込んだつもりだった。


けど、知らない間に溢れてて、それが小春には、全部お見通しだったんだ。


「私もね、××に謝らなきゃいけないことあるんだ。」


いきなり言われて、私は何も言わずに小春を見た。


「××はきっと、私に気使って、ずっと応援してくれると思って。私、そんな××に甘えてたんだ。」


「私は、こんなに孤爪くんが好き、こんなところが好き、告白する。そう××に言い続ければ、諦めてくれるかなって、考えた。」


「ほんと、最低だよね。なんで、私が泣いてるんだろう。」


私は横に首を振る。


「私だって、最低だよ。」


小春は「えっ」と短く言葉を切る。




「私は、小春が孤爪くんのことで悩んでる時とか、楽しそうに惚気けてる時とか、泣いちゃうぐらい辛い時とか、そんな小春に対して、いつも最低なことばっかり考えてた。」


「本当は、孤爪くんと話して欲しくなかった。一緒に帰って欲しくなかった。笑いかけて欲しくなかった。告白で小春が振られて、良かったって、思っちゃった。」


「小春はこんな嘘で固めらてた私にも優しくしてくれて、素直で、本当に、可愛くて。」


自分の心の醜さが嫌で、泣いて泣いて、涙が止まらない。


「ごめん、本当にごめんね、小春。」


ずっと溜まっていた真っ黒い感情が涙となって溢れていく。


小春は、私に抱きついて泣いた。


私たちはお互いに何度も何度も「ごめん、ごめん。」と謝った。




「××、孤爪くんに告白された?」


「えっ!?」


沢山泣いて、目元がほんのり赤くなった私たちは、教室の窓から外を見る。


今小春に言おうと思って考えていた言葉を本人の口から言われ、驚いてしまう。


「ははっ、やっぱり?!」と噴き出した。


小春は私を見たあと、オレンジ色の空を見上げた。


「これも何となくわかってたんだ〜。孤爪くんが××のこと超超チョー大好きなんだな〜って!」


小春にそう言われ、小っ恥ずかしい気持ちになる。


「あ!赤くなった!恥ずかしいんだっ!」


私は小春を怒ったように睨むと、「今までのお返し!」といたずらっぽく笑う。


私は顔を逸らして、何も言えなくなる。


「あー逸らした!」


小春は顔を逸らした私の頬を潰すように持ち、小春自身と向き合わせた。


「こっち向いてー!」


私が強制的に小春の方に向くと、小春は手を離した。


いつものように、元気いっぱいの笑顔で私に言った。


「私、××の笑顔、大大大大だーいすき!!…..だから、もう我慢しないで欲しい。何も、隠さなくていいから。」


「それと何かあったら1番に!!いっちばーん先に私に相談すること!これはずっと前からの約束です!」


人差し指をぴーんと立てながら元気いっぱいで私にお説教をする小春。


私はまた、安心して泣きそうだった。


「××。見て。」


小春は窓の外を指さす。


窓から顔を出して外を見る。


その瞬間、胸がざわついた。


私はゆっくりと小春の方を向く。


「早く行かないと、帰っちゃうぞ!」


小春は首をコテっと倒し、満面の笑みでそう言った。


私は、「ありがとう、小春。」と微笑み、小走りで教室を後にした。

君の笑顔が見たいから

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