第2話
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妖怪の血が交じる弟[音]。人間の兄[海斗]。
妖怪だからと弟がまだ小さい頃に虐待していた兄が、数年後にやり返される話。
※弟視点でのお話 ※死なない程度の暴力描写あり ________________________
彼は、苦しそうな顔のまま俺を見た。可哀想に。俺にされるがままで、必死に堪えている。藻掻いたほうが俺を愉しませるだけということは理解しているらしい。
本当にいい気味だ。もっと苦しめてやりたい。
海斗は相変わらず苦しげに息をしている。時折咳き込みながら、呼吸を整えようとしているようだが、うまくいかないらしい。
「──ぐ、うぇっ……あ…、」
唾液に塗れてぬらぬらと光る指を口から引き抜く。海斗はそれを嫌そうに見つめて、それから俺の顔を見上げた。荒い呼吸は、心なしか湿っぽい。
今、呼吸を止めたらどれだけ苦しいだろう。俺はまた彼の口元を手で塞いだ。
「ん、んんっ、ンーッ!」
じたばたと暴れるが、大した抵抗にはならない。押さえつけて、窒息感を味合わせる。さっきよりイキが良くなっていて、安心した。呼吸ができない苦しさと恐怖に藻掻く海斗は、酷く堪能的に映る。
そのうち、海斗の身体が痙攣するように跳ねる。目を見開いてこちらを見上げている。手を放してやった。
ひゅう、ひゅうと音が漏れるだけで、言葉はない。ただ、パクパクと口を開閉させているだけだ。
海斗は暫く喘いでいたが、やがて目を閉じて、ぐったりと動かなくなる。意識を失ったようだった。
休ませてやるつもりなど無かったが、ふと思い立って、彼の口元に自分の唇を重ねる。半開きの口内に、舌を差し込んだ。
意識の無い相手にこんなことをして意味があるのか。そんな考えが浮かぶ前に、体が動いていた。
温かい口内を舐め回す。彼の呼吸を奪う。目が覚めたときの嫌がる反応が見たくて、舌を絡ませる。
「……ン、」
海斗の瞼が持ち上がる。ぼんやりとした瞳は焦点が合っていない。
ゆっくりと瞬きをして、こちらを認識する。途端、ぎょっと見開かれた目が、恐怖の色に染まる。
「んッ、 ンンっ」
抵抗されるも、全く力が入っていない。鼻で呼吸をすれば良いだけの話なのにそれすらできないほど混乱しているのだろう。
舌を吸ってやると、面白いくらいに体を震わせた。しばらくそうしていたが、苦しくなったのか顔を背けようとしてくる。
一度解放してやってから、もう一度キスをする。今度は深くまで探るように。海斗は苦しさから逃れたいのか、必死に俺にしがみついてくる。その反応に気分が高揚していく。
そろそろ限界かと思い、最後にもう一度強く吸い上げてから、顔を離す。お互いの唾液が糸を引いて、切れる。
「ゲホッげほッ…」
海斗は激しく咳き込んでいる。その様子を見下ろしていると、彼が怯えるような視線で俺を見上げてくる。
俺も呼吸が荒くなっていた。でも、酷く満たされている。
海斗は必死にこちらを睨みつけていた。そんな様子に、愛おしさすら覚えて、首筋に両手を重ねる。
「ぁ……あ、 ッ、……」
圧迫すると、海斗は小さく声を上げる。
徐々に力を込めていく。海斗は俺の手を退けようとするが、上手くいかずにされるがままになっている。
「や、め……」
海斗の声に余裕が無くなる。あの海斗が、俺に支配されている。そう考えると、ゾクゾクして、堪らなくなった。
締め落とす寸前まで行って、急に緩めてやる。酷く噎せているうちに、また圧迫。ビクン、と海斗の体が跳ねる。緩急をつけて首を絞めてやった。
「……こふ……かは、」
海斗が俺の腕を掴んでくる。やめてほしい、と懇願しているようであった。
俺は海斗の首から手を放し、彼の上から退いた。解放された彼は咳き込みながらも安堵の表情を見せる。
──まだだ。
俺は立ち上がり、海斗を見下ろす。彼は不安げな顔で俺を見上げる。
もっと、苦しめてやりたい。泣いて、もうやめて下さいと懇願するまでいたぶって、二度と俺を妖怪だの化物だのと罵れぬように、逆らわぬように。
どうしてやろうかと考え、俺は海斗の腹部を思い切り蹴り上げた。
「がはっ……」
床を転がった海斗は、ビクン、ビクンと四肢を痙攣させながら口をパクパクさせている。
「──ゲホッ、げほっ」
息が詰まって、一瞬呼吸困難になったらしい。目を見開いて、ガクガクと震えている姿が酷く唆る。
床に蹲る彼の腹に、再び蹴りを入れる。何度も、何度も。そのたびにビク、と体を折って苦しげに咳き込むのが、面白くて堪らなかった。
「げほ、ッはぁっ、はあ……は、はぁ……」
適度に意識を失わせぬように、一度休ませる。唾液を吐きながらも必死に呼吸を繰り返す姿を黙って眺めた。
起き上がろうとするものの、力が入らないのか、床に手をついたまま、固まる。
「ハァ……はぁっ、は、ハァ、ヒュ、ひゅー……ひゅ」
呼吸音がおかしい。今度は過呼吸を起こしているようだ。
海斗は喉元に手を当てて、必死に空気を吸い込んで、しかしそれが異常に早くなっていく。心的ストレスも関係するのだろうが、呼吸制御を繰り返した弊害だろうか。
紅潮した顔でボロボロと涙を溢し、ひゅーひゅーと喉を鳴らす。その苦しげな表情は、官能的ですらあった。
「ひゅ、ひゅー……ッ」
「海斗。助けてやろうか?」
言いながら、軽く彼の喉元に触れた。ビク、と体を強張らせ、海斗は俺の胸を押し退けようとする。まともに呼吸ができないのは苦しくて堪らないが、それ以上に、俺にもっと酷いことをされると思っているようだ。そんな、怯えるような目が愛おしかった。
「一度呼吸を止めてから、正しいリズムを取り戻せば良いらしい。自分で止められないなら、俺が止めてやる」
海斗の首を両手で締めあげて行く。彼は慌てて手を払いのけようと藻掻いた。
「あ、ァ……!」
抵抗するのを押さえつけようと、壁に押し付ける。座っている姿勢のまま抑え込んでいるからか、海斗がやけに小さく感じる。
口から舌を突き出して、苦しさに必死に耐えている海斗が、愛おしくなる。
それで。思わず彼の半開きの口内に、舌を押し込んだ。
息が詰まっているから、海斗は抵抗しない。というよりは、できなかったらしい。少しだけ首の圧迫を緩めてやる。海斗は咳き込んで、俺を押し退けようと身を捩ったり俺の服を掴んではいるが、力が入っていない。
そのまま、窒息させる手前まで続けた。口内を舌で撫で付けて、喉の奥まで這わせる。もっと、と求めていると、ビクン、と海斗の体が跳ねたのでまた、ゆっくり離して。
「かはっ、はぁっ、ひゅ、はー……」
「苦しいか? 海斗」
海斗の目は虚ろだった。俺の言葉が届いているかも分からない。ただ必死に酸素を取り込もうと、呼吸を繰り返すばかりだ。
口元から透明の線を引く唾液を拭ってやると、一瞬だけ反抗的な目をした。
「は、けほっ、こ、これ以上、何をする気だ……」
「どうした、海斗。怖いのか? そんなに泣きそうな顔をして。可哀想にな」
俺がそう話しかけると、悔しそうにこちらを睨みつけてくる。しかし、睨んだところで仕方がないことくらいもう理解しているだろう。海斗は両目に涙をためて、声を震わせた。
「……お、俺が悪かった。だからもう、ゆ、許して……下さい」
こんなやつでも謝罪くらいできるのだな。そんなふうについ、感心してしまった。
「……お前が悪いことなど何も無いだろう? ただ、俺が半妖として産まれた。それだけだ」
海斗は何も答えなかった。ただ、子鹿のように震えているだけだ。それが不憫に思えてきて、急激に興味を失っていく。
「……まあいい。もう飽きた」
一度、流海の頭を優しく撫でてやった。
コメント
2件
めっちゃこういうの大好きです!ありがとうございました! ほんとに素晴らしいです!👏🏻🙈💭 ♥