「秋野さん、この資料を集めて来て」
有賀さんが慌てた様子で言い、私に一枚の書類を手渡して来た。
「はい」
急ぎ資料室に向う途中、雪斗と真壁さんとすれ違った。
雪斗は穏やかな微笑みをくれる。
真壁さんは……やっぱり冷たい目で私を見ていて。
「藤原君、ちょっと教えて欲しいことが有るの」
通り過ぎた二人の会話が耳に届いた。
少しだけ気になったけれど振り返らずに資料室に向う。
相変わらず真壁さんは雪斗を諦めていない様子だ。
それは私にとってはやっぱり嫌なことで、でも彼女には彼女の言い分が有るし私が見えないだけで、真壁さんだって辛い恋に苦しんでるのかもしれない……春陽さんがそうだった様に。
私だけが恋の主役じゃない。
雪斗と真壁さんの関係は二人だけのもの。
それに私の敵は真壁さんや他の女性じゃない………弱くなってしまう自分自身だけだから。
負けない様に雪斗を信じて行きたい。
資料室の扉を開け、一人中に入る。
雪斗達の声は何も聞こえなくなる。
小さく深呼吸して、私は自分の仕事に取り掛かった――。
今、私は恋をしている。
幸せで、でも時々不安になって。
そんな時は思い出そう。
彼がくれた言葉を。
それでも駄目ならもう一度言葉を交わそう。
憂鬱な気持ちに負けない幸せな恋をいつまでもしていたいから。
恋と憂鬱~END~