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まちこを探し始めてから、結構時間が経った。
「なんで見つからんねん、おかしいやろ」
時刻はお昼に近づき、人が増えてきたからだろうか。あの時彼女が見ていた方角へ向かったが、彼女は見つからず、他の場所を探しても一向に姿が見えない。電話を掛けようとしたが、レジャーシートの上に彼女のスマホが置いてあったのを思い出して、掛けるのを辞めたのはほんの数分前の事だ。
「てゆーか、ほんま何見てたんやろ…」
あの時彼女が見ていた方角には、幼い子供たちが追いかけっこしていたぐらいだ。他に何があっただろうか。
「あ、」
…そういえば、奥の方に桜の木があったような
異様に綺麗に咲いていたにも関わらず、周りに人が居なかった。数日前雨が降っていた事で地面が乾き切っていないのが原因だろうが、桜の木の周りに人が居ない光景は何処と無く異質だった。
…もしかしてそれを見てたんやろうか?
だとしたら納得がいく。俺は来た道を引き返し、彼女が居るであろう桜の木へ向かった。
「………あ、」
いた。
目当ての桜の木へ向かうと予想通り彼女は桜の木の前で立っていた。
……早く連れて帰ろう
何となくそうしなければいけない気がした。
俺は彼女の近くへ近寄り、声を掛けた。
「まーちこ」
「うわっ!?せんせー!?びっくりしたぁ…今日で何回目よ…」
「そんな驚かしとらんわ」
いつも通りの彼女で少し安心した。
「てか、何しに来たの?」
「それはこっちのセリフや、18号がまちこのこと心配して頼まれたから、俺が迎えに来たんや」
「あ、そうなの?18号姉さんには申し訳ないことしたな…」
「で、なんでこんなとこにおんの?」
疑問に思ったことを聞いてみる。答えてくれるだろうか。
「…なんかねぇ、せんせーと2人で留守番してた時あったじゃん」
「あったな」
「その時にこの桜が目に留まったの。凄い綺麗だなって、」
そう話す彼女の顔は、とても綺麗だった。
………?
今、俺まちこに対して何を思った?
「だから近くで見てみたいなぁって事で来たんだけど…ってせんせーどしたの?」
「あ、いや、確かにこの桜綺麗よなぁ」
「でしょ〜!」
「でもそろそろ戻らんと、ニキとりぃちょが帰ってくんぞ」
「え、そんな時間経ってたの」
「まぁまぁな時間は経ってますね」
「わおー…」
など2人で話して数分が経った。
「そろそろ帰るか?」
「んー…あとちょっと」
「あと5分だけやで」
「分かった分かった」
…気持ちは分かるけどな
俺でさえ、この桜から立ち去るのが惜しいぐらいだ。彼女からすればずっと見ていたのだろう。
…でも流石に腹減ってきたんよな
なんて考えていたその時、突風が桜の木を大きく揺らし、俺は思わず目を瞑った。
突風はすぐ止んだが、まだ風が強いようだ。風は桜の木を揺らし、花弁を舞い散らしていく。俺は隣に居る彼女に大丈夫かと声を掛けた。
__否、掛けようとした。
「っ…………は」
花吹雪の中にいる彼女、その姿はあまりにも、誰にも見せたくない程、綺麗だった、美しかった。
声が出なかった。体が動かなかった。
桜に連れていかれるのでは、と馬鹿な考えが頭に過ぎった。だからだろうか?無意識に、俺は、彼女の頬に、手を伸ばしていた。
「!?っびっくりした……せんせー?」
「どうしたの?私のほっぺなんか触っちゃって」
そう言いながら、顔をこちらに向けた彼女の瞳には、呆然とした俺の姿。
「ぁ……や、なんでもない、ごめん」
俺はすぐさま正気に戻り、彼女に謝る。
「女性の頬触るのは非常識やったわ、すまん」
「いやいや、大丈夫、嫌な気しなかったし」
「あ、そう?なら良かったけど…」
……なんでほっぺなんかに触ったんや、俺
お互い恥ずかしからか、俺は顔が熱いし、彼女の顔も少し赤かった。
お互い少し気まずそうにしていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「おーーーい!!そこでイチャイチャしてるおふたりさあぁん!」
声の正体はりぃちょだった。走ってこちらへ向かってくる彼
すぐ俺達2人と合流した。
「イチャイチャしてへんわ。」
「いやいやぁ、していたでしょう!ねぇ、まちこりーたさぁん?」
「うぇ!?し、しししてないよ?」
「おい、あからさますぎや」
「はいはい、それは後で聞くとして、俺がここに居るってことは、もう分かるでしょう!」
あぁ、そうだった。彼がここに居るということはつまり、
「全員買い出し終わったんやな?」
「せいかーい!で、なかなか帰ってこないどこかのおふたりさんを俺が迎えに来たって訳」
「なるほど」
「えっ!?そんなに時間経ってたの!?」
「だいぶな」
「えー、なにぃ?時間に気づかないくらいせんせーとイチャイチャしてたんですかぁ?」
「違うって!!」
…ここで話してたら、余計時間食いそうやし、要らんこと言いそうや
俺は、2人の会話を止め、早く行こうと促す。
「じゃあ早く行こうぜ!俺とニキニキとでいっぱい買ってきたから!」
「お!まじか!楽しみー!」
「じゃ、俺先に帰るわー!2人とも早く帰ってきてねー!」
楽しそうな2人を見て、少し微笑ましい気持ちになる。
「ほら、せんせーも早く行くよ!」
こちらを振り向いた彼女は、俺の手を取り、小走りする。
「え、ちょ、」
と俺の狼狽えを他所に、彼女は、俺の事なんぞ気にせず、前を見ていた。彼女の横顔をじっと見つめる。
……やっぱ綺麗よな
なんて思ってしまう俺
…………あー、そっか、そうよな
薄々気づいていた彼女に対する感情。この感情に心当たりしかないけど、
……今は、この時間を楽しむとしますか
今は、まだ気づかない振りをして、俺は彼女に手を引かれながら皆の元へ戻っていった。
─ 完 ─