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第十六章 連合
《2025年9月26日》
アメリカは同盟国。
そして北大西洋条約機構ー通称《NATO》にこの戦争…北極戦争に参加するように要請をした…
だが…その返答の中には、誰も予想していなかった国の名があった。
ロシア連邦。
冷戦時代、アメリカと鋭く対立していたその国までもが、北極戦争への参加を表明したのである。
しかし、全ての国がアメリカ側に立ったわけではない。
ナシル側に立ったのは、まずドイツと日本…そしてさらに中華民国やスウェーデンなどもナシル陣営への参加を表明した
この世界ではロシアとドイツは第二次世界大戦を共に戦い抜いた間柄でもあった
しかし―
ロシアは目先の戦略的利益を。
ドイツは戦後を見据えた経済的利益を。
同じ「国益」を追った結果、二つの国は異なる道を選んだ。
ドイツもロシアと共にアメリカ側に立つ…皆がそう考えていた。
だが…皆の予想は外れる。
ドイツはナシルと共同で進めていた建造中の超大型艦計画、そして地下高速輸送鉄道計画という、莫大な国家事業を抱えていた。
それらを失うことは、戦争に勝つ以上の損失となる。
そのためドイツは国益を選び、ナシル陣営へと加わった。
《ロシア・モスクワ》
「大統領、なぜアメリカなんぞにつくんですか!!」
会議室に怒号が響く。
「奴らは冷戦以来、我々の敵だったはずです!!」
大統領は机に広げられた北極圏の地図へ目を落とした。
「敵?」
「違う。」
「今、我々の前にあるのは敵ではない。」
「利益だ。」
幹部たちは黙る。
「ナシルが北極海を完全に支配すれば、航路も資源も奴らのものになる。」
「それだけは避けなければいかん。」
「アメリカを助けるためではない。」
「ロシアの利益を守るためだ。」
《ドイツ・ベルリン》
「総理!!なぜアメリカともパートナーとしてやっていたNATOとの関係を捨ててまでナシル側に立つんですか!!」
総理は窓の外を見つめた。
「ロシアは目先のことしか興味がないようだな」
「だが我々は明日を選ぶ。」
「超大型艦計画。」
「地下高速輸送鉄道。」
「この二つは、戦争が終わってからも数十年、いや百年単位でドイツに利益をもたらす。」
「NATOは我々の安全保障を約束する。」
「だが…数年 数十年先の国益を保証してくれるか?」
「だから私は国家の未来を選んだんだ。」
「どう転ぼうと…ナシルが生きていればドイツの国益は守られる…」
《イタリア・ローマ》
「首相!!ドイツはわかりますが、なぜ!我々がナシル側に立つんですか!」
首相は部下の顔を見て言った
「君は国防省の人間じゃ、なかったね」
「なら知らなくても無理はない。」
「我々の海軍が何で近代化されたか。」
「我々の空軍が何を使っているか。」
「そして、それを誰が支えているか。」
「そこまで見れば答えは簡単だ。」
部下は叫ぶ
「それはそうですが!我々だけで軍備は行けるでしょう!空母も巡洋艦も戦闘機だって!我々は自分達で作れたハズだ!」
「作れた?」
「ああ、作れただろう。」
「時間をかければな。」
「今…君はこの国の空軍を知っているか?」
部下は頭にハテナマークが浮いてるような顔で答えた
「ええ知っていますとも…ドイツと共に歩んだ第四世代戦闘機のメッサーシュミットme291タイフーンがありますが…」
首相は答えた
「そうだな…それもある」
「だがな?君は知らないだろうが…」
「我が国の第五世代戦闘機。」
「そして輸送機」
「あれは名義上ドイツの物だ」
部下は「そうですね」と呟く
「だが…その大元にはナシルが絡んでるんだ」
首相は咳払いをして
「我々組織は木じゃなくて森を見る」
「そして…今じゃなくて未来を見る…」
「そう教わってきただろう…それは間違っていない」
「だがな?我々は未来を見ると同時に今を動かなければならない…優秀な君ならわかるだろう?」
《日本・東京》
「失礼します。」
そう言って入ってきたのは部下
「総理…なぜ我々はナシルの肩を持つんですか?」
部下は冷静そうに見えて内側に誇りと同盟をどうするのかと言う物があった
「このまま行くと…下手をすればアメリカともう一回戦争する羽目になりますよ?」
「アメリカとはなんとか条件講和で戦争を終わらせていますけど…今となれば話が違います…」
「彼の国ともう一回戦えば…片腕がもがれるくらいの被害になりますよ?」
「そうだな…だが我々の空母保有数と練度はアメリカとやっても十分対等だ…」
「だが、お前の言いたいこともわかる…」
「一昨年…ドイツから回航されてきた2隻の大型艦があっただろう?」
部下は静かに答える
「ええ…たしかにありましたけど、それがどうしたんですか?」
「あれがドイツ産だと思っているなら大間違いだ」
「あれの原型を覚えているかね?」
「いえ…覚えていません…そんな一昨年のことなんて、鮮明には…」
「それもそうか!」
総理はまるで子供のように笑い…すぐに真面目モードになり答えた
「いいか?あれはナシルの『CVA01ケーニヒドラッヘ級』をドイツが我が国の為に諸改造してくれた物だ」
「今や日本の大型艦船の建造実績なんぞ…ナシルに抜かれてるんだよ。」
「我が国は中東やアフリカに民事も軍事も噛んでいるが…それは質が良くそこそこ安いからだ」
部下は頭にハテナマークを浮かべた
「だがナシルの艦船を…航空機を見てみろ…あれにかなうものはほとんどいないだろうな」
「しかし!!そんなこと…どうせドイツが噛んでるこその戯言でしょう?」
総理は答える
「君は大学で何を専攻していた?」
「えっと…経済学と地政学です…」
「地政学を学んでいるならドイツとナシルの歴史も少しばかしは知っているだろう。」
「第一次世界大戦…ドイツがフランスに奇襲を仕掛けて、勝利をつかみ取った…表向きはそう描かれているな?」
「ええ…それは知っていますとも…それがどうしたんですか?」
「第一次世界大戦の終戦を決定づけたのはナシルの戦車部隊がセーヌ川を渡河してパリに奇襲上陸をして降伏させたんだ」
「………嘘でしょう??そんなこと…」
「残念だが本当だ」
「ドイツはナシルの宗主国であったがそれも形だけ。」
「ドイツの技術の大半の大元がナシルなんだよ」
「はぁ…」
「それは良いとして…どうしてナシル側に立つんですか!」
「海軍は話したが次は空軍でも話そうか」
「空軍…ひいては海軍の艦載機もだが。」
「ほとんど全てが名義上ドイツ製だ」
部下は総理に問いかける
「……待ってください。」
「名義上、とは?」
総理は静かに答える。
「設計局も、生産ラインも、ドイツ企業の名前が前に出ている。」
「だが、その根幹技術を辿ればどこへ行き着くと思う?」
部下は叫ぶ
「嘘でしょう!なんであの国はあんな回りくどいんだよ!!」
「回りくどいか…それもそうだが賢いとは思わんかね?」
「は?」
「だってナシルは軍事ランキング5位だろう?」「皆がドイツの傘に入っているからだと思っていた…」
「だが…本質を見てみればどうだ?上手い隠れ蓑じゃないか」
「ナシルは信用が欲しかったんだよ」
「メッサーシュミット社…そしてラインメタル社と言う信頼性の塊のブランドを」
「これは内調が調べてくれた物だがね?
どうやらナシルとラインメタル社、メッサーシュミット社の利益はナシルが4.5割ラインメタル、メッサーシュミット社が5.5割だそうだ」
「面白いだろう?完全な半分ではない…
これは私の推測だが…ナシルは恒久的な売り場が欲しかったんだよ」
《イギリス・ロンドン》
「首相、アメリカが対ナシル戦線に参加を求めています」
執務室に静かな沈黙が落ちた。
首相は机の上に置かれた北極圏の地図へ視線を落とす。
「……そうか。」
「返答はいかがなさいますか?」
側近は問いかける。
「アメリカは我々の長年の同盟国です。」 「NATOの一員としても、無視することはできません。」
「分かっている。」
「だが、相手はナシルだ。」
側近が少し表情を変える。
「……ドイツや日本が支持した国、ですか。」
「それだけではない。」
首相は地図上の北極海を指した
「我々はナシルの排他的経済水域ギリギリで演習を行った…」
「そうですね」
「こんな行為を行なったのに、ナシル側に立つことは…」
「どちらもハイそうですかと言ってくれるわけないだろ?」
「外交というものは…」
「昨日言った言葉を取り消すことも、無下にすることもできない」
「条約も…声明も…行動も…」
首相は静かに言った
「その全てが…国という単位では一挙手一投足が見られて…取り消すこともできない」
「そして我々はナシルの排他的経済水域ギリギリで演習を行った…」
「利益のみを見て…死ぬわけにはいかないさ」
「だから我々の進む道は一つのみだ」
「アメリカ側につこう」
最後にイギリス首相は…
窓の外…美しいロンドンの街並みを見て
「国が揺れるな…」
こう呟いた
コメント
1件
読みました……第16章、すごく重厚でしたね。各国の思惑が「国益」という言葉でくっきり描かれていて、特にロシアとドイツが同じ目的で違う道を選ぶ対比が印象的でした。あと、ナシルが技術面で各国に深く食い込んでいる設定が本当に面白い。隠れ蓑としてのドイツ企業、って考え方、ゾクゾクしました。イギリス首相の最後の呟き…「国が揺れる」、めちゃくちゃ染みます。 ウーパールーパーさんの世界観、毎回楽しみにしてます🌙