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藤塚 太陽
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耀聖(ようせい)
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「……は? 合格……?」
暗い部屋の中、PCモニターの明かりだけが僕の顔を照らしていた。
メール画面に踊る【採用のご案内】という文字を、僕は三度見した。
嘘だろ。絶対に何かの間違いだ。
自己PRのボイスサンプルなんて、極度の緊張で「あ、あの……彼方未来です……よろしくお願いします……っ」ってボソボソ喋った10秒の音声だぞ?
「やっぱり辞退しよう……無理だ、人と話すなんて……」
胃がキリキリと痛み出し、送信ボタンを押そうとした瞬間、僕のスマホが爆音で鳴り響いた。画面には『事務所:ルミナスプロ』の文字。
ひいっ!? 電波を通じて僕を殺しに来たのか!?
「は、はいぃっ!?」
『彼方未来さんですね!? 担当マネージャーの坂田です! あなたの声、最高です! 審査員満場一致!! 明日さっそく事務所でアバターの顔合わせと打ち合わせをしますからね!!』
「えっ、あ、あの、僕コミュ障で無職でゴミカスで——」
『大丈夫です! バーチャルなら誰でも輝けます! では明日10時に! ガチャ、ツーツーツー……』
「あ……あ……」
電話が切れた。
……終わった。僕の平和な引きこもり生活が、音を立てて崩れ去っていく。
翌日。死にそうな顔で事務所の会議室に辿り着いた僕を待っていたのは、疲弊した目を輝かせるマネージャーの坂田さんと、小柄で眼鏡をかけた一人の女の子だった。
「未来さん、こちらがあなたのキャラクター設定を担当した脚本家の三日月茜(みかづきあかね)さんです」
「……どうも……三日月です……」
三日月さんは目を一切合わせず、ボソボソと蚊の鳴くような声で挨拶してきた。
あ、良かった……この人も僕と同類の「陰キャコミュ障」だ。謎の安心感が生まれる。
「未来さん、あなたの演じるアバターはこちらです!」
坂田さんがバッとPCの画面をこちらに向けた。
そこに映っていたのは——
眩いばかりの光を纏い、背中に純白の羽を生やした、可憐で儚げな超絶美少女天使だった。
「な、なんですかこれ……めちゃくちゃ可愛い女の子じゃないですか……」
「名前は**『天使ミラ』**! 天界から人間界を癒やすために舞い降りました! 設定資料はこちらです!」
三日月さんが素早く、分厚いファイルを僕に押し付けてきた。そこには狂気的な細かさで設定がびっしりと書き込まれていた。
**【天使ミラ キャラクター設定】**
・一人称:ミラ
・性格:圧倒的慈愛、清楚、聖母。人間たちの愚かな争いもすべて優しく包み込む。
・口調:「〜なのです」「みなさん、愛していますよ♪」
・NG行為:乱暴な言葉遣い、低い声、愚痴、ネガティブ発言。
「……あの、三日月さん? これ、僕が演じるんですか……?」
「……はい……っ。ミラの……設定は……完璧です……。一文字でも崩したら……許しません……(ボソボソ)」
三日月さんの目が、眼鏡の奥で怪しく光った。ひえっ、陰キャ特有のこだわりが重すぎる……!
「未来さん、あなたのボイスなら、ボイチェンを通せば完璧な『清楚系ハイトーン美少女』になれます! 初配信は今週末! 頑張りましょうね!」
「えっ、今週末!? 無理です無理です!! 僕、人前で喋ると吐きそうになるんです!!」
「大丈夫! 画面の向こうのリスナーは全員カボチャだと思えばいいですから!」
坂田さんは笑顔で僕の肩を叩いたが、その目は笑っていなかった。
逃げられない。僕は完全に詰んだのだ。
そして訪れた、初配信当日。
自宅の部屋に機材をセッティングし、ボイチェン(音声変換機能)を起動する。
画面の中には、僕の頭の動きに合わせてパチパチと瞬きをする可愛い天使「ミラ」がいる。
(大丈夫……大丈夫だ彼方未来……。台本通りに『〜なのです♪』って言えばいいだけだ……。失敗したら死ねばいい……)
手垢でドロドロになった台本を握りしめ、カウントダウンがゼロになる。
【配信開始】
画面の閲覧者数が、10人、100人、500人……と勢いよく跳ね上がっていく。
「ひ……っ!?」
多すぎる!! 人がいっぱいいる!! 怖い!! 閲覧者数の数字を見ただけで、心臓がバクバクと鳴り響き、視界がチカチカしてきた。
[リスナーA]きたー!!
[リスナーB]天使ちゃんだ! かわよ!
[リスナーC]はじめましてー!
コメントが滝のように流れていく。パニックだ。脳みそが沸騰する。
あかん、声が出ない! ボイチェン用の裏声ってどう出すんだっけ!?
(三日月さんの設定……『清楚で聖母』……『〜なのです♪』……)
「あ……あ、あの……っ!!」
テンパりすぎた僕は、マイクのスイッチとボイチェンの設定ボタンを押し間違えた。
「は、はじめまして……天界から……まいおり……っ、ふぅ……」
過呼吸気味になり、深呼吸をした。
その瞬間、ボイチェンが切れ——僕の素の喉から、極上の低音ハスキーボイスが漏れ出した。
「……あー……クソ、緊張で吐きそう……心臓止まる……」
『…………』
一瞬で、コメント欄の動きがピタリと止まった。
画面の向こうで、何千人もの人間が凍りついているのが分かった。
そして次の瞬間、チャット欄が信じられないスピードで爆発した。
[リスナーA]ファッ!?!?!?!?
[リスナーB]え???? いまの誰????
[リスナーC]声イケボすぎて草wwwwwwwwwwww
[リスナーD]イケボの無駄遣いwwwwwwww中の人おじさん??www
画面の脇に置いてあったスマホが震えた。
三日月さんからのLINEだ。
『設定崩壊です!!!! 今すぐ死んでください!!!!(怒りの連投スタンプ)』
「ひぃいいいっ!??! 違っ、違いますぅううう!!(裏声)」
焦った僕はパニックになり、キーボードに手をぶつけ、アバターの「天使ミラ」が画面内で高速で上下に激突し始めた。
「ミラは天使なのです! 今のは悪魔の仕業なのですぅううう!!(パニックで天使モデル暴走)」
[リスナーA]モデルの動きヤバすぎて腹痛いwwwwww
[リスナーB]「今のは悪魔の仕業」は苦しすぎるwwwww
[リスナーC]【朗報】天使ミラちゃん、初配信1分で事故る
こうして、僕の「清楚系VTuber」としての輝かしい(?)デビュー戦は、最悪の事故と共に幕を開けたのだった。
コメント
1件
あー、これめっちゃ面白かったわwww コミュ障の主人公が天使Vの皮かぶってデビューした瞬間にボイチェン切れて低音イケボが漏れるとか、事故にも程があるやろwww しかも慌ててモデル暴走させてるし、三日月さんの「今すぐ死んでください」もガチで怖いけど笑ったww 中の人の必死の裏声と設定のギャップが最高すぎる🔥 続きが気になる!