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昔から私は、変な子供だった。
物心ついた時から、がらくたの声が聞こえた。
ゴミやぼろぼろのぬいぐるみを家に持ち帰ってはお母さんとお母さんの彼氏によく殴られたっけな。
高校を中退し、家から出て工場で働き、半年で辞めた私は雨の日に河川敷で身投げをしようとした。
その時、河川敷の茂みでしくしくと泣く声が聞こえた。
茂みを掻き分けると全裸の首なし死体があった。
私は驚いて固まってしまった。
……..だが冷静に観察すると、その子は首なし死体じゃなくて、ただのラブドールだった。
どっかのエロサイトでこんな感じのラブドールを見たことがあった。
ボロボロの首なしラブドールはしくしくと泣いていた。
「あの…..大丈夫?」
思わず私はそうラブドールに尋ねた。
「……..あなた、私の言葉が分かるの?」
肩を震わせながら、ラブドールは言った。
「うん、私は園原鶫。あなたは?」
「…..雉姫。」
「ふぅん。」
「捨てられたの、もういらないからって。」
雉姫はそう言ってしくしく泣いた。
私は雉姫の姿を見て可愛いな、と思った。
私はゴミが好きだった。
ゴミは私よりも可哀想で、私よりも不幸な存在だから。
「ねぇ、良かったら一緒に暮らさない?」
川に身投げをしようとしていたはずの私は、再就職先も決まってないのに雉姫にそう言った。
「……いいの?私こんなに汚いのに…..。」
「私も似たようなもんだよ。同じゴミ同士仲良くしよ?」
そう言って私は、雉姫を住んでるアパートまで運び、雉姫と暮らすことになった。
首なしラブドールを担いでアパートまで持って帰ったので街行く人にものすごく不気味がられたがまぁ気にしなかった。
かくして私と雉姫の共同生活が始まった。
雉姫と一緒にシャワーを浴びた。
全体的に汚れていたのでスポンジを使い丁寧にすみずみまで洗った。
「えっ、あっ。そこは……..はずかしいんだけど…….。」
雉姫はくぐもった声でそう言った。
「でも綺麗にしないとだよ?私女だから平気だよ。」
私はそう言って雉姫を洗った。
雉姫のシリコンの柔らかい肌が指に吸い付いた。
雉姫をタオルで拭いてドライヤーで乾かした後、裸だといたたまれなかったので私のパジャマを着せた。
雉姫はおっぱいが大きいタイプのラブドールだったから私のだと少しきつそうだった。
「……..ありがとう。」
雉姫はそう呟いた。
雉姫は優しい子だな、と思った。
とりあえず、新しいバイト探さなきゃな、と私は思った。
何件かバイトを受けて何件も落ちて、結局コンビニエンスストアで働くことになった。
生きるためにはお金を稼がなければいけなかった。
私には頼れる人はいないし、人に頼るためのコミュ力も愛嬌もない無能のブスだからだ。
私は人間だけどゴミだから働くのが死ぬほど嫌いだった。
私は人間と話すのが怖かった。
人間はよく私をゴミみたいに扱うからだ。
コンビニの先輩に怒られたり、店長に失望されたり客のおじいさんにキレられたりしながらバイトを終えた。
多分私は前世で人とか殺しちゃったんだろうな。
だからこんなに毎日が最悪なんだ。
そんなことを考えながら仕事を終えた私は
「ただいま。」
と疲れた顔でアパートのドアを開けた。
「おかえり、鶫。」
と雉姫の声がした。
誰かにお帰りって言って貰ったのは、随分と久しぶりのことだった。
私は思わず雉姫に抱きついて泣いた。
「……がんばったね。」
そう言って雉姫は私のハグを受け入れてくれた。
雉姫からは、私と同じシャンプーの匂いと、少しシリコンの匂いがした。
雉姫は私にとって親友だった。
雉姫は機嫌のいい時、良く歌を歌ってくれた。……..雉姫の歌は私にしか聴こえない。
だから低賃金のアパートで雉姫が歌っても隣の頭のおかしい大学生に怒鳴られたりしなかった。
雉姫の歌はとても綺麗で、私は雉姫の歌が大好きだった。
私だけが雉姫の歌を聴くことができることに
ほんの少し優越感を覚えた。
ある日のことだった。
私の家に強盗が入った。男二人だった。
一人暮らしの女性は狙われやすいと聞いたことがあったがまさか私の家が狙われるとは思わなかった。闇バイトだろうか?
私は強盗に気付いたが怖くて眠った振りをしていた。
(頼むから早く出ていってください最悪お金は持っていっていいので殺さないでください!!!)
と私はぎゅっと眼をつむりながら祈っていた。
ふと、強盗の男二人が甲高い悲鳴をあげた。
「くっ、首!!??首なし死体!!???」
男の一人がそう言って叫んだ。
どうやら雉姫を見て首なし死体だと勘違いしたようだ。
「ママーーーーーーー!!!!!!!!」
強盗は情けない声で一目散にアパートから逃げ出した。
「……..こわかったぁ。大丈夫、鶫?」
雉姫はそう言って私を心配した。
私は安心したのかまた雉姫に抱きついた。
後日、近隣住民に通報され、強盗の二人組は逮捕された。
その事件はニュースになり、私はネット民から首なしラブドールと一緒に暮らしてるやベー女扱いされるようになった。
事実だけど私は少しむっとした。
それからニュースを聞いた店長達の態度も前より更によそよそしくなった。
「闇が深すぎて怖い……。」
と店長と先輩がヒソヒソ話してるのを聞いた。
私的にはあんまり怒られなくなったので仕事が少ししんどくなくなった。雉姫様々である。
バイトを終えて、私は今日も雉姫の元へと帰る。
「ただいま。」
「おかえり。」
私は雉姫に抱きついた。
私と雉姫はきっと、これからもずっと一緒だろうな。
(最後まで読んでくださりありがとうございました。)