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紫×桃
紫×モブ要素あり
付き合って一年。
らんはようやく、いるまから合鍵を渡された。
「勝手に来いよ」
照れ隠しのようにぶっきらぼうに言われて、胸が熱くなった。
本当に必要とされているんだ、と信じていた。
けれど、ドアを開けた瞬間に感じた。
この部屋にはまだ「彼女」がいる。
棚の奥に置かれたマグカップ。
押し入れの隅に落ちていた髪留め。
カレンダーの裏に貼られた、丸みのある文字の落書き。
__あき。
名前を見るたび、らんの心臓はきつく締め付けられた。
____________
夜。
いるまが眠ったあと、らんは我慢できずに引き出しを開けてしまった。
写真。
海辺で笑う二人。
肩を寄せ合い、幸せそうに笑う彼女といるま。
「……」
らんの頬を涙が伝う。
そのとき。
背後から低い声が響いた。
「…何してんだよ」
振り返ると、ベッドにいたはずのいるまが立っていた。
「ご、ごめん…」
らんの声は震えた。
「でも…どうして、まだ……」
「俺の勝手だろ」
短くそう言い放ち、写真を奪い取る。
まるで宝物を守るように。
その瞬間、らんの胸の奥で何かが崩れ落ちた。
____________
日常は続く。
手を繋ぎ、笑い合い、キスをする。
けれど、いるまの目が時折遠くを見るのを、らんは見逃さなかった。
その目の奥に、自分はいない。
ある日、洗濯物を取り込むとシャツのポケットに小さな紙切れが入っていた。
「また、海に行こうね」
あきの文字だった。
丸みのある優しい文字。
指が震える。
「…まだ、こんなの持ってたんだ」
シャツを握る手に力が入り、指が白くなる。
破り捨てたい。
でもできなかった。
いるまに気づかれるのが怖かった。
その弱さに気づき、らんは自分を嫌悪した。
____________
次第に、らんの笑顔は引きつっていった。
無理して笑う。
無理して抱きしめ返す。
いるまがふと名前を呼ぶ。
「らん」
その声が、幻のように「…あき」と重なる。
耳が勝手に変換してしまう。
恐怖のように、心臓が跳ねた。
「俺は、代わりじゃない」
ある夜、涙を堪えて訴えた。
「わかってる」
いるまは短く答えた。
でも、その目は、何も確信を与えてくれなかった。
____________
ある休日。
二人で外出した帰り。
いるまがコンビニに寄っている間、らんは彼のスマホを覗いてしまった。
履歴。
保存フォルダ。
__あきの名前が残っていた。
「……どうして」
画面をスクロールする指が震える。
彼女の笑顔、彼女の声、彼女との思い出。
消されることなく、そこに残り続けていた。
「…忘れる気なんて、ないんだ」
いるまが戻ってきた瞬間、らんは慌ててスマホを置いた。
でも、もう後戻りはできない。
「見たな」
冷たい声が落ちる。
「…あの人を忘れる気、ないんだろ」
らんの声は震えていた。
「忘れられるわけねえだろ」
吐き捨てるような言葉。
らんは立ちつくした。
その一言で、すべでが終わった気がした。
____________
夜。
一人でいるまの部屋に残されたらんは、ベッドの端に座り込んでいた。
壁には、彼女が描いた落書きがまだ薄く残っている。
その跡を指でなぞりながら、らんは小さく呟いた。
「俺じゃ…だめなんだな」
視界が滲む。
涙で床がぼやける。
どれだけ抱きしめても、どれだけ愛を告げても、
いるまの心は、ずっと”あき”に囚われている。
らんは気づいてしまった。
自分はただの置き換え。
心の空白を埋めるための、薄い代用品。
「消えたい…」
その言葉が口からこぼれた瞬間、全身が震えた。
けれど止まらなかった。
止められなかった。
机に紙を広げ、震える手で文字を書く。
メモを写真の上におきか、らんは小さな瓶を手に取った。
__いるまが追いかけてくることは、もうないだろう。
そう思ったとき、らんは静かに笑った。
「……やっと、自由になれる」
____________
深夜二時。
雨が降っていた。
いるまは帰宅し、部屋の灯りがついているのを見て眉をひそめた。
「…また来てんのかよ」
疲れた声で鍵を回す。
ドアを開けた瞬間、空気が重かった。
部屋は静まり返り、どこか冷たい匂いが漂っていた。
「らん? 」
呼びかけても返事はない。
____________
ベッドの上。
らんは座ったまま、眠るように目を閉じていた。
傍らには、散らかった写真と手紙の束。
すべて「あき」からのものだった。
「…おい」
近づいて肩を揺さぶる。
だが、らんの体は小さく震えるだけで、反応はない。
床には小さな瓶が転がっていた。
薬の名前が印字されている。
空だった。
「嘘だろ……」
血の気が引く。
声が震える。
____________
写真の上に置かれたメモ。
震える字で書かれていた。
ごめんね
俺じゃ埋められないの、知ってた
それでも隣にいたくて
でも、もう無理だった
せめて、俺のことは忘れて
メモの端に、滲んだ涙の跡が残っていた。
「馬鹿……ッ!」
いるまはらんを抱き上げる。
体はまだ暖かい。
でも、その温もりは確実に遠ざかっていた。
「目開けろよ! らん! 俺を見ろって! 」
喉が裂けるほど叫んでも、瞼は動かない。
____________
救急車を呼ぶ手が震えていた。
救命士の、声が遠くで響く。
胸骨圧迫。人工呼吸。
けれど、その全てが空しく響いた。
「時間を…確認します」
淡々とした声が部屋を切り裂いた。
いるまの世界は、その瞬間止まった。
____________
数日後。
いるまは机に残されたメモを何度も読み返していた。
字がにじんで見えなくなるたび、拳で目を拭った。
「…なんで、俺を置いていくんだよ」
写真も、手紙も、全部捨てた。
でも遅すぎた。
残ったのは、らんのいない部屋。
そして、重すぎる沈黙。
いるまは声を失ったように座り込み、壁に額を押し当てる。
「愛してたんだよ……バカ…」
その言葉は、もう誰にも届かなかった。
𝐹𝑖𝑛.