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とっても手こずった魔力補充を経て、魔力は満タン、でも精神はずいぶんとすり減らしてしまったらしいリカルド様は、ヨロヨロとよろめきながら結界を出ると、一瞬でいなくなった。
きっと今頃は山の中腹あたりを山頂目指して登っているところだろう。
こっちもなんだか疲れたけれど、さすがにリカルド様が頑張っているというのに、呑気に昼寝するわけにもいかない。
さて、あたしも何かこの拠点を居心地よくできることを考えなくちゃね。
夕食も楽しみにしてくれ、なんて言っちゃったから、そっちも力を入れねばなるまい。
そう思って「えいやっ」と立ち上がったあたしの目に、さきほどリカルド様が獲ってきたばかりの火渡り鳥が存在感たっぷりに映る。
そうだね、まずはあれの解体からだよね。
あたしの身長よりも大きな、でっかい鳥。それを無造作に、軽々と持ち帰って来たリカルド様の雄姿がふと脳裏によみがえる。
その姿は、とっても頼もしくて、いっそ神々しいくらいだった。
お話してるとちょっと可愛い、なんて思ってしまう事もあるけれど、こんな巨鳥をなんでもないような顔で仕留めてくるリカルド様はやっぱり凄いし、基本かっこいいお方なのだ。
第一この鳥さんときたら、羽毛は火に耐性があって、火系の攻撃は効かない筈だ。でも氷系や風系の魔法で倒したにしてはさほど傷もついていない。どうやって倒したんだか、あたし如きでは想像もつかない。
そんな事を考えつつ、黙々と羽毛を処理していく。
鳥系は最初の羽根をむしる作業が、獣系の魔獣に比べて面倒くさい。この鳥さん、めっちゃでっかいからこれだけでも結構な時間と体力を使う。
綺麗に羽根を処理して、ふわふわ羽毛と大きな翼の羽根とを分けておく。
火渡り鳥の羽毛は高級品だから、たぶん高値で売れる筈だ。課題とは関係ないけど、せっかくだから大事にしないと。
その処理が終わったらいよいよ解体。
とにかく大きくって重たいし、なんせ量が半端ない。解体をなんとか終えたころには、もう汗だくになっていた。
「ふー、やっと終わったか」
部位別に綺麗に分けたお肉を、リカルド様が作ってくれた干し場兼保管場所に置こうとして、ちょっと呆然としてしまった。
うわ……ちょっと肉、多すぎない?
昨日の魔物と、たった今解体した火渡り鳥だけでも、軽く一カ月くらい食べていけそう。
さすがにランクが高い魔物って大きいものも多いから、一頭仕留めるとお肉の量も尋常じゃないんだなぁ。
確かに干して少し軽くしておかないと、持ち帰るのも難しそう。
たくさんのお肉を干してから、リカルド様が作っておいてくれていた水で丁寧に手を洗う。真っ赤に染まる水を見ながら、またちょっぴり気持ちが沈んでしまった。
浄化の魔法が使えれば、こんな手間をかけずに済むんだけどな。
魔力だけはいらないってくらい豊富にあるあたし。
でも、それがなんの役にも立たないんだから、本当に厄介だ。魔力なんてなければ、魔法学校に入れられることなんてなくって、おうちでパンを焼いていただろう。その方が幸せだったかも。
リカルド様のかっこよさに比べて、あたしのダメさ加減ときたら……。
ささやかな畑に移動して、可愛い植物たちに成長促進の魔法をかけながら、あたしは小さくため息をついた。
それから数日。早いものでリカルド様が山を登り始めてからそろそろ五日めになるかな。
「お帰りなさい、リカルド様!」
転移で一瞬で帰ってくるリカルド様を、今日も元気よく「お帰りなさいコール」で出迎える。
山を登り始めて五日め。リカルド様は意外と時間がかかっているとぼやくけれど、Bランクの魔物を倒しながら山頂を目指してるんだから、むしろそうホイホイ登られた方が怖い。
ここのところ毎日リカルド様は、朝出発し、お昼を食べに戻ってきて、また転移で移動して再び山を登る。そして暗くなる前には本日の探索は終了、という規則正しい生活をおくっている。
リカルド様ってやっぱり騎士様の一族だからなのかなぁ、朝起きた瞬間から元気なのよ。
日の出とともにスパっと起きて、顔を洗って歯磨きしたら、そのまま剣の素振りに入る。ひと汗流して満足したところで、やっと朝食っていうスタイルで。
初日は遠慮してやらなかったみたいだけれど、毎日の習慣らしくて二日目からはバッチリとノルマをこなしていた。
そりゃあ魔術師なのにイイ体にもなるよね。
私も一緒に早起きするようになって、正直旅に出る前よりも断然健康的な生活になったけど、リカルド様が素振りしている間はもっぱら朝ごはんを作っている。
リカルド様は「一緒に特訓するか?」と誘ってくれたけど、ぶっちゃけそんなことまでやってたら、体がもたないよ……。
今の私に必要なのは、武道よりも魔道だ。
夜寝る前に、リカルド様から色々と教えて貰っては、昼間ひとりの時に復習する。
リカルド様の教え方は、はっきり言って学園の先生よりも数段わかりやすくて丁寧だ。私がつまずいたところを察知して、さりげなく詠唱の意味を教えてくれたり、近しい魔法に例えて噛み砕いて説明してくれたりする。
本当に優しくって出来た人だ。
なんであんなに恐れられていたんだろう。
私のかわいい菜園に、成長促進の魔法をかけながら、そんなことをぼんやり考える。
おおお、ぼんやりしてる間に、茎がすんごいにょきにょき伸びてきた! やっぱりあたし、魔法がちょっと上達してるんじゃない?
ニマニマと笑っていたら、背後で軽く土を踏む音が聞こえた。二人しかいないんだから、足音の主なんかわかりきっている。
あたしは勢いよく振り返った。
「リカルド様、これ、すごくないですか!?」
「うわっ!?」
後ろから覗きこもうとしていたらしいリカルド様が、思いっきり跳びのいた。どうやら勢いよく振り返りすぎて、ビックリさせてしまったらしい。リカルド様ってホント、意外と繊細だよね。
「ほら! こんなに一気にお野菜が成長するようになりました!」
鼻息荒く報告したら、リカルド様の口元が、ほんの少しだけ綻んだ。