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「なんだかわかりませんが、ちょっと行ってみましょうっ。
狐さん、あとお願いしますっ」
と壱花が振り返り叫ぶと、
「はあ、まあ、行ってらっしゃい」
と狐の人は言ってくれたが、倫太郎は、
「莫迦、お前っ。
狐に店を任せる奴があるかっ。
化かされるぞっ、化け化け壱花っ」
と叫んでくる。
「いやいや、お狐様は商売繁盛の神様じゃないですかっ。
っていうか、なんですか、化け化け壱花ってっ」
と叫び返しながら、壱花は店の外に出た。
ひんやりとした夜風の吹く中、あの鏡に鳥居を映した壱花は、その見えない鳥居をくぐるように歩く。
鳥居の先にぼんやりと見える灯りへと向かって。
すると、引きずられて行きながら、倫太郎が言ってきた。
「風花壱花。
化けの字がふたつも入ってるじゃないかっ」
……言われてみれば。
ここに引っ張り込まれるのがぴったりな名前だったな、と今更ながらに思ったとき、倫太郎が訊いてきた。
「おい、お前。
なんで、今の男があやかしだってわかった?」
「疲れているように見えなかったからですよ。
人間は疲れた人しか来ないんでしょ?」
あの狐は人間のイケメンに化け、生き生きとして、楽しそうだったので違うと思ったのだ。
そのとき、鳥居が途切れ、寺の境内に出た。
鳥居をくぐったのに神社じゃないんだ、と思ったが、鳥居はただ異界へとつづく道の象徴だったのかもしれない。
境内の隅の竹林。
その前にぼんやりとした灯りが見えた。
店の灯り。
そして、赤い提灯の灯り。
「……駄菓子屋?」
と壱花に腕をつかまれたまま倫太郎が呟いた。
竹林の前のその小さな古い建物の中にはカラフルな駄菓子が並べられており、奥のレジでは小さなおばあさんが、パチパチとそろばんを弾いていた。