テラーノベル
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ギルベルト・カーディアック(20歳)
正午丁度、ヒューズと共にロールベルク家に到着していた。
門番は俺とヒューズの顔に付いた火傷の痕を見て、反射的に視線を逸らす。
カーディアック家の専属騎士団(黒騎士団)の騎士達の多くは、教会で育った孤児達ばかりだ。
親から受けた虐待の傷や、貴族の虐めでつけられた」傷が体に残ってしまっている。
「お待ちしておりました、中庭に御案内致します」
俺とヒューズを出迎えたのは、ロールベルク家に使える執事長の老人だった。
執事長に案内された赤色のチューリップが咲き誇る中庭の一角に、可愛らしいテラステーブルと椅子がセットされていた。
「肝心の異世界人の女が来ていないようだな」
「も、申し訳御座いませんっ。今、奥様が芣婭様を呼びに向かわれまして…」
「そうか」
そう言って椅子に腰を下ろし、チューリップ畑を見渡す。
「ほら、あの人がギルベルト様よ!!」
この声は侯爵夫人の声か、相変わらずうるさい人だ。
侯爵夫人の声がした方に視線を向けると、一瞬で俺の視線が奪われた。
目の前に現れた美しい菫の花の妖精、長い睫毛から覗くレットピンクに丸い瞳、淡い菫の花が散りばめられたドレスに映えるピンク色のフワフワした髪の女。
今まで見て来たどの女よりも、美しい。
どこかで見た事がある気がした。
女もそう思っているのか、俺達の間に静かな時間が流て行く感覚がする。
自然と俺の足は女のいる場所まで向かい、下を向いている女に声を掛けた。
「お前が異世界人の女か」
俺の言葉を聞いた女はゆっくりと顔を上げ、レッドピンクの瞳に俺の顔を写す。
近くで見て、やはり俺と女はどこかであっていると謎の確信を得た。
俺はらしくもない事ばかりしていた。
女相手にテラス席まで手を引いてエスコートしたり、自分から女に話を振ったり…。
女の名前は芣婭と言って、芣婭の舌足らずな話し方が心地良く聞こえる。
ヒューズの言う通り、コンラットの様子も少し変だった。
俺と芣婭の間に割って入ったり、芣婭の事を気に掛けるような視線を送っている。
芣婭の足元にいる2匹の黒猫は、父上が言っていたケルベロスだろう。
執事長とメイド達が次々とテーブルに豪華な昼食を並べて行くが、俺は人が作った料理が食べられない。
幼少期の頃、カーディアックに使えていた使用人の女が、俺の料理に毒を盛ったのだ。
それも1回・2回の話ではなく、数回も料理に毒が盛られ、使用人の女は親父に斬り殺されたのだが…。
死んだ所で、俺の食事に対する恐怖心が消えた訳じゃない。
自分で食べる物は自分で作れば良い。
それ以来、俺は料理長に料理を習い、騎士団や獣人団の連中にも振る舞ったりしていた。
芣婭は目の前にある料理をケルベロスにあげ、自分は苺ばかり頬張っている。
ケルベロスが芣婭に尋ねていたが、何も答えずに微笑むだけだった。
何か嫌いな物があるから食べないのか?
もしかして、肉が苦手なのだろうか。
俺は思ったまま芣婭に尋ねたが、芣婭から予想外の答えが帰って来た。
「ううん、嫌いじゃないよ?自分が作ったご飯じゃないと、食べられないの芣婭」
「理由を聞いても良い話か」
自然と口から言葉が漏れ出てしまい、芣婭も驚いたような表情を浮かべている。
さっきから、俺はらしくない事ばかりしている。
目の前にいるこの女の事を知ろうとしたり、気に掛けるような言葉を投げ掛けて…。
芣婭は少し照れながら、俺の問いに答た。
芣婭の口から信じられない言葉が、話が語られて行く。
パリーンッ!!!
話を聞いていたコンラットだったが、怒りのあまり持っていたティーカップを握り潰した。
コンラットが起こるのも無理はない。
俺は赤の他人に毒を盛られていたが、芣婭の場合は実の母親から異物を混入させられていたのだ。
芣婭も同じように、心に傷を負った人間なのかもしれない。
俺と同じように、彼女も傷付いて来た人間だ。
聞かれてもないのに、俺自身にされた事を話した。
芣婭は訳の分からない言葉を混ぜて話しているが、彼女がわざわざ、俺の機嫌を取る為に話していない事は分かる。
ヒューズとも気軽に話をしているし、彼女は外見だけで判断しないのだろう。
異世界に来て不安な筈なのに、この子は暗い部分を見せない。
「元の世界に帰りたいと思うか?芣婭」
「そうだなぁ…、お兄ちゃんや菜穂には会いたい…、けど。帰りたいかって言われたら、帰りたくないかも。高校を卒業したら、1人暮らしするつもりだったから、お母さんに怒られるのは、嫌だし…」
芣婭の表情が初めて暗くなった事を見逃さなかっ
た。
やはり、芣婭のとって母親は恐ろしい存在なのだろう。
高校と言うのが何なのか分からないが、元の世界に帰りたくないって言うのだから、よっぽどだ。
この話は、すぐに終わらせた方が良さそうだな。
「そうか」
そう言って、自分で作った紅茶を啜る。
芣婭から俺に対しての些細な質問をされ、淡々と答えていると…。
ジッと、芣婭がキラキラした目で、俺の顔を見つめて来た。
「どうした、俺の顔に何かついているか」
「ううん、綺麗な銀色の瞳だなって思って。宝石みたいにキラキラしてるなーって。思って」
芣婭の言葉を聞いた俺とコンラット、ヒューズは驚いてしまった。
まさか、この瞳の事を褒められるとは思っても見なかった。
この目は宝石のように綺麗な物ではないし、カーディアック家の人間に銀色の瞳を持つ者はいない。
銀色の瞳が珍しい所為で、周囲は君悪がって腫れ物に振れるような扱いをして来る。
「俺の目は、そんな綺麗なものじゃない。周囲からは気み悪がられていてな。それは、今も」
「え、マ?それって、妬みじゃないかな?」
「妬み?」
「うん、ギルベルト君のおめめが綺麗だから、羨ましーって妬んでるんだよ。そんな事、言わなくて良いのにね」
他人が自分の瞳が綺麗だから妬んでいるなんて、一度も思った事がなかった。
俺は、誰かにこう言ってほしかったのかもしれない。
嘘の同情や慰めなんかじゃなく、本心の言葉が聞きたかったんだ。
ただの顔合わせのつもりで来たのに、俺の心が動かされている。
他愛のないをして数時間が経ち、空の色がオレンジ色に染まろうとしている事に気付いた。
「ギルベルト様ー?そろそろ、お開きの時間ですよー?」
「分かっている。邪魔をしたな、侯爵夫人」
ヒューズの言葉を聞きながら、侯爵夫人に声を掛け
る。
「いえいえー♡仲睦まじい光景を見られましたし。あ、迎えの馬車はもうすぐ到着するみたいですわ。それまでは、ごゆっくりして下さいまし。私は失礼しますわね♡後は、若い2人で」
侯爵夫人は俺と芣婭の顔を交互に見た後、屋敷の方に歩いて行った。
ケルベロスの2匹は芣婭の太ももの上で、気持ち良さそうに寝ている。
「あ、団長!!俺等は門の前で、迎えの馬車を待ちましょう!!!」
「は?お前がそんな事を言うなんて珍し…」
「ほらほら!!!」
「お、おい!?」
ヒューズが無理矢理、コンラットの手を掴み、早歩きで屋敷の正門がある方角に向かって歩き出した。
アイツ、余計な事を…、気を使ったつもりか?
「ギルベルト君」
「なんだ?」
「今日はありがとう、凄く楽しかった。」
芣婭は少し照れながら、はにかみながらお礼を言って来た。
この言葉も芣婭の本心なのだろう。
俺も彼女には、嘘本心で話したい。
「最初は、君との見合いは、乗り気じゃなかったんだ」
***
甘野芣婭(17歳)
⭐︎⭐︎⭐︎
(芣婭の脳内ストーリー)
「発射ああああああ!!!」
小さい隊長が掛け声と共に、爆弾を投下させる。
ピューン、ドゴーンッ!!!!
甘野芣婭、ここで戦死…。
「いや、よく考えたまえ芣婭二等兵!!いきなり知らない女と見合いをしろと言われたら、誰だって乗り気ではないだろう?」
「ハッ!!!言われてみたら、そうであります隊
長!!」
「早まるな、芣婭二等兵。まだ死ぬには早いぞ」
「ど、どう言う事ですか、隊長!!!」
「まだ、男が何か言おうとしているぞ」
「な、何だと…?」
⭐︎⭐︎⭐︎
隊長に言った通り、ギルベルト君は何か言おうとしている。
「だが、ここに来て君と会えて良かった」
「へ?」
「芣婭が楽しそうに俺の話を聞いてくれたり、帰って来る言葉が面白い。俺がこれまで会って来た人間とは全然、違う」
「え、え…っと、嫌いになってないって事、でおk?」
芣婭の言葉を聞いたギルベルト君は軽く頷いた後、耳を赤らめながら言葉を放つ。
「また、俺と会ってくれるか?」
不安そうな子犬のような瞳で、芣婭の事を下から見上げて来る。
な、なんだ!!?
ギルベルト君、めっかわJYANAIKA!!!!
こんな怖そうな人が、芣婭から帰って来る言葉を不安そうに待っているんだ。
「また、芣婭に会ってくれる?お仕事?とかで忙しくない?」
「大丈夫だ、時間を作るよ。どこに行きたいとかあるか?」
「え?どこかに連れてってくれるの?」
「屋敷でも構わないが、中部街にでも行ってみるか」
ギルベルト君はそう言って、街の様子を話してくれた。
淡々としていた話し方から、芣婭の事を気に掛けてくれる優しい話し方に変わった。
どこに行こうとか、何が見たいとか、まるでデートの予定を立てているみたい。
「それって、デートのお誘いで合ってる?」
ドキドキしながらギルベルト君に尋ねると、即答で返事をしてくれた。
「あぁ、デートに誘ってる」
芣婭がこうやって聞いたら、今まで付き合って来た男の子達は答えてくれなかったな。
「なんで、いちいち聞いてくるんだよ」
「見れば分かるだろって」
恥ずかしがって、芣婭の事を面倒臭そうにあしらってきたから。
ギルベルト君は、芣婭に優しくしてくれる。
それだけでも、芣婭は凄く嬉しい。
「楽しみだなぁ、デート。ふふ、ギルベルト君とデート出来るなんて、嬉しいなぁ」
「俺も楽しみにしている」
「あ、でも。連絡取れないのが、困ったなぁ」
は
「その心配は無用だ」
ギルベルト君がそう言うと、「レイ」と誰かの名前を呼んだ。
寝ていたケロちゃんとベロちゃんが起きて、芣婭を守るように黒い炎を出す。
「わわ!!ケロちゃん!?ベロちゃん!?」
すると、ギルベルト君の足元に魔法陣が現れ、中から大きな一羽の鴉が現れた。
「黒炎|《コクエン》を出す必要はない、俺の連絡鳥だ」
「え、連絡帳って鴉の事だったんだ!!異世界ヤバたんだね!!」
「手紙を書いたら、レイに送らせる」
「すぐに書いてくれる?」
「勿論だ」
ギルベルト君は芣婭の問い掛けに答えると、コンラットとヒューズが歩いて来るのが見えた。
お迎えの馬車が来た事が分かったギルベルト君は、スッと立ち上がり芣婭の隣に移動する。
大きな手を差し出され、芣婭は自然と手を置く。
立ち上がらせてくれたギルベルト君は、芣婭の小幅に合わせて歩いてくれる。
その光景を見ていた4人は、口を大きく開けて驚いていた。
芣婭達よりも先に到着していたマダムは、「きゃああああ!!」と悲鳴声を上げている。
ゆっくりと屋敷の正門前まで歩き、ギルベルト君は、お迎えの馬車の前で名残惜しそうに手を離す。
「今日は本当にありがとう、ギルベルト君。めちゃ楽しかった!!お手紙、待ってるね」
「あぁ、俺もだ。なるべく早く、仕事を終わらせる」
「うん、分かった!!無理はしないでね?」
「分かった」
ギルベルト君はそう言って、コンラットとヒューズの2人より先の馬車の乗り込む。
「芣婭ちゃん、またね♪」
「うん、ヒューズも気を付けて帰ってね」
「はー!!芣婭ちゃんは女神様か何かなの?」
「め、女神?それは草」
「く、草?どう言う意味?」
ヒューズと話していると、コンラットの心配そうな視
線に気付いた。
「どうしたの?手、痛い?」
「芣婭さん、ちゃんと食事は摂ってほしい。君はかなり細いから、また倒れてしまうんじゃないかと…」
「呼び捨てで良いのに…。分かった、ちゃんと食べる!!」
「それなら安心だ。夜は冷える、暖かくして」
「分かった!!」
コンラット何だか、お兄ちゃんみたい。
2人も馬車に乗り込み、芣婭達はギルベルト君達を見送った。
ギルベルト君達が帰った後、マダムとシュバルトお兄さんからの尋問祭りがヤバかった。
昼間した会話を2人は事細く聞いては、大きな声を上げる。
ケロちゃんとベロちゃんも、2人の大興奮状態にご立腹のご様子でした。
芣婭の食事は調理場のおじと一緒に料理をして、マダム達とご飯を食べた。
こっちの世界と芣婭がいた世界の料理が、ほぼ似たような物だったのには驚いたな。
今日の献立は、お肉ゴロゴロのビーフシチューに、卵のサラダとパン。
食後の紅茶を飲みながら、マダムがハッとした表情を浮かべる。
「あ、そうだ。主人と決めたのだけど、貴方にメイドを付けようと思うの」
「芣婭に?」
「シエサ、こちらに」
そう言って、マダムは1人のメイドさんを呼んだ。
栗色のボブヘアの童顔のメイドさんが顔を真っ赤にさせながら、芣婭に自己紹介する。
「ふ、芣婭様のお世話をさせていただく、シエサ・ア
ビゲイルです。よ、よろしくお願いしますっ」
「シエサだから、シーちゃャンって呼んでも良いかなぁ?それに、芣婭の事も様呼びじゃなくても…。芣婭は、ここのお家の子じゃないからさ?」
「い、いえ、それは流石に!!!」
芣婭の言葉を聞いたシーちゃんは、両手をブンブン振りながら後ずさる。
「芣婭さんは私達の家族になったのよ?そんな寂しい事を言わないで頂戴な」
「家族…?芣婭が?」
「僕達は子宝に恵まれなくてね??ロザリアは人一倍、子供を欲しがっていたんだ。君がここに来て、ロザリアは昔のように明るくなったんだ」
シュバルトお兄さんの話を聞きながら、マダムの方に視線を向けた。
こんなに陽気な人が、そんな思重い悩みを抱えていたんだな。
好きな人との赤ちゃんが出来ないって、凄く悲しい事だよね…。
「もう、貴方ったら。ふふ、芣婭さんを甘やかすつもりだからね?」
マダムはそう言って、芣婭に優しく微笑んだ。
異世界に来てから、芣婭は大事にされている実感がする。
みんな、芣婭の事を優しくしてくれて嬉しい。
「芣婭、嬉しそうですね」
「あぁ、芣婭にはもっと幸せになってもらわねーとな」
ケロちゃんもベロちゃんも、芣婭の事を思った言葉を投げ掛けてくれる。
そう思いながら、暖かいミルクティーを口に運んだ。
何故か、シーちゃんが芣婭のお風呂も手伝ってくれて、めちゃ恥ずかしかったんだが。
芣婭がお風呂に入っている間、ケロちゃんとベロちゃんは煙草を吸いに外に出て行ってしまった。
2人が持っていた煙草は、、芣婭の世界でも見た事がある紙煙草で、悪魔も煙草を吸うんだと思った。
お風呂から上がり、用意されたネグリジェに着替えていると、シーちゃんの視線を感じた。
「え、シーちゃん、どした?」
「あ、すみません!!その…、芣婭様の背中の…」
「あー、キモイでしょ?昔、お母さんに熱湯かけられて出来た火傷。今はだいぶ、薄くなった方だよ?」
芣婭の背中の右側には、大きな火傷の傷がある。
この傷を見た人はそんなにいないけど、見ていて気持ちの良いものじゃないしね。
芣婭は素早くネグリジェを着て、薄手のカーディ岩を羽織る。
「お見苦しいものをお見せしま…」
「気持ち悪くなんかありません!!芣婭様は、凄く愛らしい方です!!ですから、私に気を使わないで下さい」
「シーちゃん、めちゃ良い子だ!!」
その後、気合いの入ったシーちゃんが、全身マッサージをしてくれたり、パックしてくれたり…。
気持ち良過ぎて、芣婭はいつの間にか眠ってしまっていた。
***
芣婭が寝静まった後、ケロちゃんとベロちゃんは屋敷の屋根の上に座り一点を見つめている。
「芣婭はぐっすり寝ていたな。やっぱ、疲れていたんだろうな」
「それは良いんですけど、さっきから鬱陶しい奴がいますね。姿を表さずに、芣婭だけを見てる奴」
「至る所から見て来てたな、気配を感じるが姿眩まし術を使ってるだろうが…、俺には関係ない」
そう言って、ベロちゃんは空に向かって手を伸ばし、ゆっくりと手の指を広げる。
「空間把握」
ベロちゃんが呪文を呟いた瞬間、透明な箱がいくつか
召喚され、箱の中には輝く黄色の鳥が閉じ込められていた。
*空間把握(空間魔法)指定した範囲の状況えお縮める事が出来る*
「やっぱり、姿眩まし術を使ってやがったか。しかも、聖魔法で作った鳥だぜ?」
「あぁ、確か光の巫女が使える光魔法の進化系でしたっけ?よく知りませんが、なんで芣婭の事を見てたんですか」
透明の箱に閉じ込められた光の鳥を見ながら、ケロちゃんがベロちゃんに尋ねる。
「あ?知らねーよ。断絶」
*断絶(空間魔法)空間を切る事によって、物質本体を切断する*
ベロちゃんがケロちゃんの問いに答えながら、人差し指と中指えお横にスライドさせる。
ブシャッ!!!
透明の箱に閉じ込められていた黄色の鳥の頭が、血を噴き出しながら頭を切断された。
切断された黄色の鳥は粉状となって、箱の中から姿を消して行く。
「なぁ、ベロちゃん?」
「貴方に呼ばれると虫唾が走るんですけど、何ですか?ベロちゃん」
「一言余計なんだよ、おめーは。まぁ良いわ、芣婭が狙われてんだから協力しようや」
「仕方ありませんね、芣婭の為に仕方なくですから」
ケロちゃんとベロちゃんは言い合いをしながら、屋敷の中に戻った。
***
甘野芣婭(17歳)
コンコンッ、コンコンッ。
「ん…?なんだぁ??」
窓を叩く音で目が覚め、ぼけながらカーテンを開けるとギルベルト君の連絡鳥がいた。
「あ、レイ君だ!!ちょっと、待ってね」
素早く窓の鍵を開け、手紙を咥えたレイ君を部屋の中の招き入れる。
バサバサッ!!!
レイ君が羽を大きく広げ、芣婭の肩に勢いよく飛び乗って来た。
「わわわっ!!ビックリした。あ、お手紙あざまる水産⭐︎」
⭐︎あざまる水産とは、ありがとうございますの意味⭐︎
手紙を受け取ると、レイ君は嘴で芣婭の頬を軽く突いてから飛んで行った。
「ふわぁ…、ねみぃ…」
黒の猫の姿で寝ていたベロちゃんが、欠伸をしながら起きる。
「あ、起こしちゃっった?」
「いや?芣婭の所為で起きた訳じゃねー」
「むむむ…」
ケロちゃんが寝ぼけながら小さな羽を広げ、芣婭の元まで飛んで来る。
「抱っこして下さい、芣婭」
「ケロちゃん、めっかわ!!良いよ、良いよ!!」
「あ、コラ!!!テメェ、起きてんだろ!!!」
コンコンッ。
ケロちゃんを抱っこするとベロちゃんが起こり散らしている時、ドアがノックされた。
「おはよう御座います、芣婭様。身支度のお手伝いに参りました」
「あ、シーちゃん!!ちょっと待ってね?今、あけ…」
ボンッ!!!
白い煙が立ち込み、煙の中から上半身裸のベロちゃんが現れる。
寝起きの無防備な姿から、フェロモンが立ち込めている。
「俺様が開けてやる」
「あ、今のベロちゃんはR18…」
ベロちゃんは芣婭の言葉を最後まで聞かずに、ドアを開けてしまった。
ガチャッ。
「芣婭様、体調はいかが…」
「あ?お前か。芣婭の世話をしに来たんだ…」
「ギャアアアアアアアアア!!!!で、出たあああああ!!!」
屋敷内にシーちゃんの叫び声が、やまびこのように響き渡った。
***
同時刻 ルナ帝国宮殿の玉座では現皇帝ガルシア・A・オルティスの驚愕の声をあげていた。
現皇太子ルカリオ・A・オルティスの隣に異世界の制服を着た女子高生が立っていたのだ。
女子高生の体に至る所に、返り血のようなものがべっとり付着している。
「まさか、その隣にいる女は異世界人なのか!?姿を消していたかと思えば…、女を連れて帰って来たのか…」
「えぇ、父上。この異世界人は、ルナ帝国の伝承にも綴られている光の姫ですよ。この胸の紋章をご覧下さい」
そう言って、ルカリオ・A・オルティスは女子高生の胸元を肌けさせる。
開かれた胸元には、太陽と星の刻印が刻まれており、
刻印を見たガルシア・A・オルティスは目を見開きながら立ち上がった。
「その刻印は間違いない、光の姫の証だ!!まさか、本当に存在していたと言うのか」
ガルシア・A・オルティスの言葉を聞いたルカリオ・A・オルティスは、不適な笑みを浮かべた。
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