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瀕死のメリルを背負ったタクヤが、祈りの間の戸口に立った。
彼が、ほんの1~2時間前に祈りを受けるために横たわったあの治療台は、すでに庭に出されていた。
怪我人たちは、床に直に並べられていた。
7人の瀕死の人、もしくは、息をひきとった人。
大人だけではない。
ちょうど今、片腕を失った子供が、ユリから最期の祈りを受けている最中だった。
ユリが祈っている子供の横に、タクヤはメリルを下ろし、スラリとした手足をていねいに整えた。
ふと見ると、子供は、白いカーテンのような布でくるまれていた。その右半分が、内側から赤く染まっている。
頭や顔もケガをしていたが、片方の頬だけが無傷で、妙に美しく輝いて見えた。
ユリは、次々に運ばれてくる怪我人に配慮し、患者の頭側から祈りを続けていた。
胸の装身具から広がる淡い緑の光を受けた幼い子供の顔は、まるで母親に面白いお話を聞かされて眠りにつく子供のように、安らかな表情に変わっていく。
ユリが小さくうなずき「ありがとう」と声をそえる。
指先で、子供のまぶたを閉じた。
すぐさま、横に運ばれてきたメリルに移った。
ユリがメリルの額に手をかざす。
再び装身具から緑の光が広がり始める。
まもなくメリルもまた、苦しみを乗り越え、安らかな表情に変わっていった。
口から言葉が発せられることはなかった。
ただ、うつろだった目にかすかに生気が宿り、タクヤを目で追った。
タクヤと目が合う。その目から”お会いできてよかったです”と、端正な意志が、タクヤに伝わってきた。
タクヤはおもわず顔を寄せ、声を張り上げた。
「ねえ、僕たち、まだ会ったばかりですよ! 早すぎますよ! もっと、いろんなこと教えてくださいよ! 僕って、ホント、わからないことばかりだし。また、地図、描いてくださいよ。たくさんコメントもあって、楽しくて、すごくわかりやすかったですよ。何も憶えてなくても、迷わずここに来れましたよ。メリルさんの気づかい、ホント、僕には、全部、本当に、最高に、嬉しかったですよ。メリルさん、ねえ、お願いだから、まだ……」
するとメリルは、さも面白い冗談を聞いたかのように、うっすらと笑みを浮かべ、そして、小さく口を動かした。
”ありがとう”か、”だいじょうぶ”か、なにかそのような言葉を残し、午睡に入るように、ふっと全身が静寂に包まれた。
ユリは祈りを終えた。
タクヤは震えながら、聞き取れなかったメリルの最期の言葉を後悔にかえないように
「ありがとうございます」
と、血のような声を絞り出した。
「ありがとうございます、メリルさん、ありがとうございます」