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ギュビンから事の真相を聞かされた僕は、すぐさまハオヒョンに会いに行こうとした。
しかし、生憎チャイムがなってしまい、すぐに行くことは叶わなかった。
それどころか、ヒョンと僕の時間割の都合上、休み時間に会うことさえできなかった。
こんなに時間割を恨んだことがないくらいに1日中もどかしかった。
それに加え、皆が僕達を祝福してくれているというこの状況は僕にとって複雑以外のなにものでもなかった。
やっと放課後になり、いつものあの場所に向かう。
扉を開けると、そこには誰もいなかった。
そういえば今日はヒョンが所属してる委員会の会議があったことを思い出した。
走ってきたのにこれじゃあ意味ないじゃないか。
落胆しながら教室の一角に座る。
今日一日中 走り回ったせいなのか、この暖かい太陽の光のせいなのか眠気が襲ってきた。
どうせハオヒョンが来るまでまだ時間はある。
そう思った僕は欲望には逆らわずそのまま目を閉じた。
「……ビナ…ハン、ナ……ハンビナ」
「……んん……ヒョン…?」
「ふふ、おはようビナ。お待たせ」
「ヒョンこそ委員会お疲れ様」
まだ眠い目をこすり、体を起こす。
「そういえばハンビナ、今日1日中僕の事探してたみたいだけど、どうしたの?」
「あ………」
そうだった。
あの噂についてハオヒョンと話すために会いに来たのにそのことをすっかり忘れていた。
……………ハオヒョンは、もう既にあの噂を知っているのだろうか?
知っているのだとすれば、どう思ったのだろうか。
嬉しかったのだろうか、照れたのだろうか。
それとも
気持ち悪いと思ったのだろうか
色んな考えが渦巻いて変に緊張してしまい、何を言っていいかわからなくなる。
「……………」
「……もしかして、あの噂?」
「っ……うん」
やっぱり噂はハオヒョンにまで届いていた。
思い切ってヒョンと目を合わせてみたが、ヒョンの目からは何も感情が読み取れなかった。
でも、少なくとも気持ち悪がってはいないとは思う。
そう思ったら少し気持ちが楽になり、さっきよりは言葉が出てきた。
「僕その噂今日初めて知ったんだ。みんなにおめでとうって言われたんだけどなんの事か分からなくて友達に聞いてみたらあの噂が…」
「……………」
珍しく何も言葉を発さないヒョンを不思議に思った。
もしかしたら、何か解決案を考えているのかもしれない。
チクッとした胸の痛みには気付かないふりをしてハオヒョンに問いかける。
「ハオヒョン、どうしよう…」
「どうもしなくていいんじゃない?」
「………え?」
心底驚いた。
てっきりハオヒョンは解決案を出してくれると思ってたからだ。
なのに一体____?
「で、でもそれじゃあ誤解が解けないままに…」
「僕は別に構わないよ。それとも君は僕と付き合ってることになってて何か都合が悪いことでもあるの?」
「え、い、いや……それは…」
なぜヒョンが少し怒り気味になっているのかわからない。
それに、さっきの言葉……
不都合なんかあるわけが無い。
逆に僕にとってはプラスなことばかりだ。
でも、ハオヒョンにとってはきっと違う。
『僕は別に構わない』_
___嬉しい言葉のはずなのに、頭の片隅であの日の光景がチラチラと覗かせる。
あの可愛い先輩がいるヒョンにとっては、僕と付き合ってるという設定自体にメリットなんて無いはずだ。
ハオヒョンが何を思って言っているのかはわからないが、僕はヒョンの足枷にはなりたくない。
ヒョンの恋の応援だってしたい。
…………例えそれが自分の失恋に繋がろうとも
だから僕はもう一度ヒョンに提案してみることにした。
「ヒョン、やっぱr」
「ねぇ、ハンビナ」
「こんだけ学校中に広まった噂を1個ずつ否定していくのって面倒くさくない?」
「だから僕、いい方法を思いついたんだ」
「その噂を真実にしてしまえば、誤解をとく必要もなくなる」
ね、名案だろ?といったように僕の手を取ってくるハオヒョン。
でも僕は今ヒョンが何を言ったのか信じられなくて、そのことにワンテンポ遅れて気がついた。
噂を真実に?
それじゃあ、まるで………
本当に僕達が付き合うってことじゃないか
いつもならハオヒョンが何を考えているかはすぐわかるのに、今は全くわからない。
なぜ?
「どうして……」
「どうしても何も、君のことが好きだからだよ」
「…………え?」
「あれ、聞こえなかった?それならもう一度言うよ。」
「ハンビナ、僕は君のことが好きなんだ。どうしようもないくらいに」
君はどうなの?と聞いてくるハオヒョンに返事が返せない。
あのハオヒョンが僕の事を好きだなんて……信じられない。
「う、うそ……」
「嘘じゃない。ずっと好きだったんだ」
少しずつ視界がぼやけていくせいで、ハオヒョンの顔が滲んでいく。
「だって…だって、ヒョンは好きな人がいるんでしょ?」
「いるよ。今僕の目の前に」
「でもっ、前一緒にいた先輩は…っ、あの人のことが好きなんじゃないんですか?」
「あの子はただの友達。何回も言うけど、僕の好きな人は君だよ。全く、あれだけアプローチしたのに、君は全然気が付かないんだもん。」
心の中にあったモヤモヤが一気に解消されたと同時に、嬉しさが込み上げてくる。
ハオヒョンが僕のことを好き……
その事実だけで涙が込み上げてきて止まらない。
そんな僕をヒョンは自分の方に引き寄せ、ぎゅっと抱き締めてくれた。
ヒョンの優しさが身に染みて、また涙がでてきてしまったがハオヒョンは、僕が泣き止むまでずっと待っててくれた。
「ん、少しは泣き止んだかな?」
「はい……」
「それなら、改めてもう一度言わせて。」
「ハンビナ、好きだよ。僕と付き合ってくれる?」
「っ……はいっ」
「ふふ、ハンビナは泣き虫だね」
幸せすぎてまた溢れてきた涙を、ヒョンは親指の腹で優しく拭いてくれた。
そしてもう一度ぎゅっと抱きしめてくれたヒョンの背中に僕は手を回して、同じくらいの力で抱きしめ返した。
「……やっと手に入った」
耳元でヒョンが何かボソッと言ったようだったが、あまりにも小さかったので聞き取れなかった。
「ヒョン、何か言いましたか?」
「ううん。ただ、ハンビナが可愛くて」
「なっ、僕は可愛くないです!//」
男なのに可愛いと言われて少し拗ねてしまったが、ヒョンがあまりにも愛おしい目で僕を見つめてくるので照れが勝ってしまった。
「ヒョンだっt……ん」
何か言い返してやろうと顔をあげた瞬間、なぜかハオヒョンの顔が目の前にあり、唇には柔らかい感触がした。
「ん……ふふ、顔真っ赤」
「なっ、い、今……//」
「可愛い。キス、もう1回しようか?」
「〜ッ//」
くすくすと笑うヒョンが恨めしくて今度は僕からヒョンにキスをした。
僕からするとは思ってなかったのか、流石にヒョンも面食らった様子で一瞬ポカーンとしていた。
「ふふ、仕返しです!」
「はぁ………君は本当に…//」
顔を近づけ額をぴったりとくっつける。
お互いの顔が真っ赤になってるのがおかしくて僕達は吹き出してしまった。
「あの噂に感謝ですね。ヒョンと恋人になれんだから」
「…うん。そうだね」
「?」
なぜかヒョンに違和感を感じてしまい、ヒョンの顔を見つめるが何もおかしい所はなかった。
むしろジッと観察してしまったせいで、ハオヒョンと長く目線を合わせてしまった。
「そんなに見つめてどうしたの?またキスしてほしい?」
「もうっ!からかわないでください!//」
あぁ、僕は本当に幸せだ。
好きになってしまっていけなかった人……でも、どうしようもなく好きだった人。
目の前にいるその人と恋人という関係で笑い合えるこの空間がたまらなく幸せなのだ。
ハオヒョン、大好きです____
ハンビナ、大好きだよ____
そんなお互いの気持ちが相手に伝わるように僕達はもう一度キスをした。
_____________
ハンビナと晴れて恋人になってはや1週間。
毎日のように顔を真っ赤にする可愛い恋人をからかう幸せを僕は噛み締めているところだ。
彼の可愛さを思い出してニヤニヤしていると、前から見慣れた人影が歩いてきているのがわかった。
「あ、聞いたよ。やっと付き合えたんだってね?おめでとう」
「ありがとう。ここまで来るのに沢山の時間を費やしたよ」
「ほんと、私のお陰なんだからね?感謝してよ?」
「うん、今度何か奢るよ」
当然ですといった態度で頷く彼女は、ハンビナが目撃したというあの時に隣にいた人だ。
彼女とはただのクラスメイトだった。
しかし、ひょんな事から僕に協力してくれる有難い友人に変わったのだ。
「それにしても、ハンビン君は可哀想だね。君の罠に引っかからなければ今頃は自由でいられただろうに」
「人聞き悪いことを言わないでくれる?」
「事実でしょ?あんな作戦を思いつくくらいなんだから」
「なんのことかな」
「あら、気づいていないとでも?」
「あの噂流したの、あなたでしょ?」
「……………」
何も言わずにただクスッと笑うと彼女は、やっぱりといった様子でため息を吐いた。
彼女の言うとおり、あの噂を流した張本人は僕だ。
ハンビナと初めてあったあの日、僕は彼に一目惚れをした。
こんなに綺麗な子が本当にいるのかと思ったくらい、ハンビナは魅力的な子だった。
そして彼を知れば知るほど、僕は更にハンビナの虜になった。
心優しく、気遣いもできる。
なにより、ハオヒョン、ハオヒョンと懐いてくれるハンビナは可愛くて仕方がなかった。
ハンビナが僕と同じ気持ちを抱いている事にはすぐ気づいた。
でも彼にはその自覚がなかったみたいだった。
だから彼女に協力してもらい、ハンビナに自分の気持ちに気づいてもらおうと思ったのだ。
結果的には成功を収めた。
しかし、ハンビナは僕と彼女がお互いを好いていると勘違いしてしまったのは誤算だった。
心優しい彼は僕と彼女を応援しようとしてくれたのだが、僕はそんな事望んではいない。
沢山のアプローチをしようにも、どれも満足のいく結果にはならなかった。
顔を赤くしたりするだけで、次への1歩には繋がらなかったのだ。
むしろ話をしようにも、恥ずかしがって僕から逃げてしまう始末だ。
ハンビナだけにアプローチをしても意味がない。
ならば、周りを固めてしまおう。
そう思い立った僕はすぐに行動に移した。
学年で1番のおしゃべりな人にその話題を話せば、あっという間に学校中に広まって行った。
ハンビナには既に届いているであろうこの噂が僕達の関係に新たな道を与えてくれると確信をしながらそのときを待っていた。
そして予想通り、結果は大成功を収め、今に至るという事だ。
「さすがあの天才ジャンハオって感じの作戦ね。」
「でも、噂を流した理由、それだけじゃないんでしょ?」
「……そこまで気づくなんて正直驚いてるよ」
「私だって貴方に負けないくらいの頭の良さはあるのよ」
まさかそこまで気づかれているとは思わず、少し面食らってしまった。
ハンビナを逃がさないために、周りを固める。
確かに理由はそれだ。
でも、それは表向きの理由。
もう1つの理由は、僕の独占欲によるものだ。
可愛い僕の恋人であるハンビナは、その見た目と性格ゆえ男子からも人気がある。
ハンビナをいやらしい目で見つめる者も一定数いるのが現状だ。
彼は何も気づいていないようだったが、僕はあいつらの目線が鬱陶しくて仕方がない。
綺麗なハンビナをあいつらに貶されるのを見ておけるほど、僕の心は広くないし、許しもしない。
だから周りへの牽制として、あの噂を流したのだ。
「ハンビン君にはとても怖い白馬の王子様がいるってもっぱらの噂よ」
「へぇ?」
「皆はハンビン君が君に懐いているように見えているみたいだけど、私にはあなたが彼を鳥籠の中に閉じ込めているように見える。」
鳥籠に閉じ込めている………か
「あながち間違いではないかもね。やっと手に入ったんだ。ハンビナを手放すつもりは一切ないね」
「……もし、ハンビン君が離れたいと思ったらどうするつもり?」
「その時は1度解放してあげるよ」
「……あら、意外ね」
「他の人にいっても、また僕の所に戻ってくるようにすればいい」
「…じゃあ、彼を本当の意味で解放する日はないってことね」
「もちろん。落し物は必ず主人の所に帰ってこなきゃね。」
「…………はぁ…ハンビン君は、自分の恋人がこんなにも独占欲の塊だなんて思ってもいないでしょうね」
「褒め言葉として受け取っておくよ。あ、すまないけどもうそろそろいかなきゃ」
「あら、引き止めちゃってごめんなさい。それじゃ、またね」
何を奢るか考えといてと彼女に向かって言葉を投げ、僕はその場を後にした。
「…ほんっと怖い人」
そう言う彼女の呟きが後ろから聞こえたことは無視しよう。
さて、僕は今から柱の影から僕達を見てしまい、嫉妬しているであろう僕の愛おしい人を探しに行くことにしよう。
僕達がいつも会っている教室に入ると、そこには案の定ハンビナがいた。
「ハンビナ」
「ハ、ハオヒョン…っ」
少し涙目になっているハンビナ。
あれだけ僕が毎日好きだと呟いているのに、さっきの光景を見ただけでこんなにも不安になっている彼が愛おしくて仕方がない。
おいで、と手招きをすればすんなりと僕の腕におさまってくる。
やっと堕ちてきてくれた僕だけのハンビナ。
僕に恋さえしなければ自由でいられたかもしれないのに。
でも、もう遅い。
もう僕は君をはなしてあげられない。
「ハンビナ、愛してる」
君だけを永遠に________