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ーーー昔は告白ーーして
「……何でてめぇは俺ん家で惚気話してんだよ、まったく」
呆れ声が響く部屋の中。窓の外はいつの間にか雨が降り出していた。灰色の空が部屋の灯りを滲ませる。
中原中也の部屋のソファに、私はだらしなく沈み込んでいた。
「だって……治が、私の目の前で、他の女に接吻するんだもん……」
言葉にした瞬間、胸がまた苦しくなって、私は膝を抱えた。
「はぁ? あいつが女たらしなのは昔からだろーが。それで今更ガタガタ言うなっての」
中也はそう言いながらも、冷蔵庫から何かを取り出して、鍋に火をかけ始めた。
「……そうなんだけど。頭では分かってるの。ただ……心が追いつかなくて」
言い訳がましい自分の声が嫌になって、私はソファに顔をうずめた。
中也は小さくため息をついたあと、私の前にマグカップを差し出してくる。
「ほら。ホットココアだ。甘いのでも飲んで落ち着けよ」
私は顔を上げ、そっとカップを受け取る。湯気の向こうに、いつもより少し優しい中也の横顔が見えた。
「……ありがとう、中也」
マグカップに口をつけながら、私は心の奥で静かに問う。
ーーねぇ、治あなたの“冗談”って、どこまでが嘘で、どこまでが本気なの?
外の雨音が、答えの代わりに静かに響いていた。
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