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勇気を出して言ったのに、衛二さんからの返事がない。まさか、聞いてなかった?もしくは電波が悪いとか?
「あの…衛二さん?」
「ごめん、ちょっとびっくりしちゃって…」
良かった。聞こえてたみたいだ。もう一度言う羽目になるかと思った。俺は安心してハハッと笑う。
「もう、聞いてないのかと思ったじゃん」
「ちゃんと聞いてたよ。でも、もしかして、聞こえてないフリしたら、もう1回言ってくれたりしたのかな?」
「ちょっと、それはなしだよ?俺頑張ったんだから」
「勇気出して言ってくれたんだ。すごく嬉しい」
「…そんな事はどうでもいいけど、返事は?」
「えっと…なんだっけ?」
衛二さんはわざとらしくそう言う。そんな衛二さんに少し怒った感じで俺は言う。
「…衛二さん」
「ごめんごめん、冗談だよ。もちろんOKだよ。奏人くんからデートに誘ってくれるなんて、凄く嬉しい」
「衛二さんとのことは、ちゃんと考えたいからさ。それでその、いつが空いてるかな?今週末とかどう?」
「僕は空いてるけど…奏人くん、仕事じゃない?」
「あぁ、うん。でも親に頼んでみるから大丈夫」
「…明日じゃダメかな?明日なら休みでしょ?」
明日は定休日の水曜日だ。でも、衛二さんも仕事があるはず。
「明日は衛二さんが仕事じゃない?」
「その事なら大丈夫。僕、あんまり有給使ってないから使いたいと思ってたところだし。それに、奏人くんに早く会いたいから」
危ない。いつもの衛二さんのタラシ発言にも慣れたはずなのに、不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。いや、タラシ発言なんかじゃないのか。今まで言ってきたのは、全部本心で、俺のことが好きだから。
そう思うとなんか恥ずかしくなった。
「…それは別に、カフェにこれば良かったんだよ。カフェに来るななんて一言も言ってないのに、衛二さんあの日から来なくなって、正直、なんかちょっと寂しかった」
まぁ、もっと正直に言うと、ちょっとではないのだけれど。でも、そんなことを言ったら衛二さんは絶対にからかうから、あえてちょっとと付け足してしまった。
「へぇ〜、寂しいって思ってくれたんだね。嬉しいな。会うのは明日で大丈夫かな?」
「うん。衛二さんがいいなら大丈夫。」
「わかった。じゃあ明日で。場所は…奏人くん、どこか行きたいところあるかな?」
「う〜ん…」
しまった。デートに誘うとは決めていたものの、どこに行くのかを決めていなかった。
「特にないかな。衛二さんの好きなところで大丈夫」
「本当?それじゃあ…一緒にショッピングモールとか行ってみたいな」
「ショッピングモールか、いいね。俺も最近、そんなに買い物とかしてなかったし、服とか見るのいいかも」
「それならちょうどいいね。ショッピングモールにしようか。時間は何時がいい?」
「せっかく衛二さんが有給取ってくれる訳だし、午前中からとかで大丈夫だよ」
「それじゃあ、10時くらいにする?昼ごはん食べて解散とかでいいと思う。ワガママ言うと、奏人くんがもうちょっといてくれるなら、午後も一緒に過ごしたいけど」
「10時からで大丈夫だよ。午後は…当日の気分次第かな〜」
「それじゃあ奏人くんが午後も僕と一緒にいたいって思ってくれるように、全力で楽しませるよ」
「それは楽しみだな。衛二さんの実力、見せてもらおうか」
俺がそう言って笑うと、衛二さんもふふっと笑った。
「任せといて。明日、お店の前まで迎えに行くよ」
「わ〜、早速紳士的なこと言って。それじゃあお言葉に甘えようかな。移動の時間考えて9時半に店の前集合かな?」
「そうしようか。それじゃあ、9時半に。また明日ね。まだちょっと早いけど、おやすみ奏人くん」
「おやすみ、衛二さん。また明日」
電話を切って俺はふう〜っとため息を吐いた。なんだか明日が楽しみだな。そしてその後、ゆっくりしつつ、ワクワクした気持ちで眠りについた。
翌日、アラームの音で目が覚める。ベットから起き上がり、大きく伸びをした。
「ふぅ、準備するか」
パジャマを着替えて、髪をセットし、朝ごはんを食べた。歯を磨いた後、すこしゆっくりして、9時25分だ。まだ少し早いけど、そろそろ外に出よう。
「いってきま〜す」
「いってらっしゃい」
父と母に見送られ、外に出る。しばらくすると衛二さんがやってきた。久しぶりに見る偉二さんは、初めて会った時のようなかっこよさを放っていた。当時と同じように、俺はしばらく見惚れてしまった。
「奏人くん、どうしたの?ぼーっとして」
「えっ、いやっ、偉二さんは相変わらずかっこいいな〜って思って」
それを聞いた偉二さんは嬉しそうに笑う。
「久しぶりに会って聞いた最初の一言がそれ?奏人くん、結構僕の事好きだったりして」
偉二さんのその言葉に一瞬ドキッとする。
「偉二さん見たら誰でもかっこいいって言うと思うけどな〜」
「確かにそうかもね。でも、かっこいいって思ってしばらく見惚れちゃうような人はなかなかいないと思うけどな〜」
そう言いながら偉二さんはいたずらな笑顔を浮かべる。
「それは…」
たしかにそうだと思ってそこで言葉がつまる俺に偉二さんはふふっと笑う。
「冗談だって。奏人くんは素直で可愛いな〜」
「もう、偉二さんのバカ。ほら、早く行くよ」
恥ずかしくなって歩き出す俺の横に偉二さんは並んで歩く。しばらく歩き、ショッピングモールについた俺たちはまず初めに服を見ることにした。色々な服を見ていると、偉二さんが1枚の服を取った。
「これ、奏人くんに似合いそう」
偉二さんは俺の服の上から取った服を合わせる。
「どう?似合ってる?」
その質問に偉二さんは笑顔で答える。
「うん。すごく似合ってるよ」
「ほんと?じゃあこれ買おうかな」
「うん。いいと思う。僕が選んだし、僕からのプレゼントってことでもいいけど」
偉二さんはそう言って笑顔で俺を見ている。
「自分で買うから大丈夫。ほら、偉二さんもなんか買いなよ」
「じゃあ、奏人くんが選んでくれない?奏人くん好みの僕にしてよ」
俺好みの偉二さん。なんだそれ。大体俺はまだ偉二さんこと好きなんて言ってないのに。
「別に、俺好みとかよくわかんないけどさ、これとか偉二さんに似合いそうだけどな」
俺は1枚服を取り、偉二さんの服の上から合わせてみる。これは似合う。というか似合いすぎてる。まぁ、偉二さんはどんな服も似合いそうだけど。
「ほら、めっちゃ似合う」
「じゃあ僕これ買う。次のデートの時にでも着ようかな」
「次?もう俺がデートしないかもしれないのに?」
「え?もう僕とデートしてくれないの?」
偉二さんは子犬のような目で俺を見る。
「それはまぁ…今日のデート次第かな」
俺がニヤッとしながらそう言うと、一瞬ニヤッとしてから偉二さんが言う。
「じゃあ、本気でいかせてもらおうかな」
最後にふふっと笑って偉二さんはレジに向かっていった。俺も続いてレジに向かい、服を買い店を出た。
「次、どうしよっか?」
「う〜ん、とりあえず歩いて、気になるのあったら入ればいいんじゃないかな」
「そうだね」
しばらく歩いていると、ふとネックレスがたくさん並んでいるのに目が止まる。そんな俺に気づいた偉二さんは俺に聞いた。
「ネックレス、気になるの?」
「うん。俺、アクセサリーとかつけないからさ、ちょっと気になって」
「じゃあ、見てこっか」
ニコッと笑いかけて店に入っていく偉二さんに俺も続く。ネックレスはたくさんあり、俺はどれにするか迷っていた。
「気になるの、あった?」
「う〜ん、俺こういうのセンスないからな…」
「じゃあ…」
偉二さんは1つネックレスを取った。
「これ、どうかな?」
「あ〜、結構好きかも」
「じゃあ、つけてみよっか」
偉二さんはネックレスの留め具を外した。この人、つけてくれようとしてるな。気持ちはありがたいけど、なんだか恥ずかしい俺は偉二さんに断る。
「自分でつけるよ」
「そう?わかった」
偉二さんは少し残念そうな顔でネックレスを渡してきた。俺は首の後ろでネックレスの留め具を留めようとしたが、中々留められない。
「あれっ…」
俺が苦戦していると、偉二さんの両手が俺の首の後ろに回り、ネックレスを掴んだ。
「ほら、手離して?」
「あ、うん」
俺が手を離すと、偉二さんは留め具を留めてくれる。近い。顔が近い。偉二さんは俺から離れてニコッと笑う。
「はい、できた」
留め具を、留める間、偉二さんの顔が近くて恥ずかしくなってしまった俺は、少しぎこちなく返す。
「…ありがと」
そんな俺を見て偉二さんはニコッとする。
「あれ?」
偉二さんは不思議そうに俺の顔を覗き込む。
「な、なに」
「耳、赤くなってるよ?」
「えっ!」
俺はそばに置いてある鏡を見た。ホントだ。俺の耳が真っ赤になっている。俺は慌てて誤魔化した。
「わ、わぁ〜、このネックレス、すげぇいいわ〜!」
「僕にも見せて?」
そう言われて俺は偉二さんの方に体を向ける。すると、偉二さんはふふっと笑った。
「うん。いいね。奏人くんに合ってる。」
「じゃあ俺これ買う」
俺が逃げるようにレジの方へ行こうとすると、偉二さんに肩を掴まれ、耳元で囁く。
「「奏人、ダメだよ。そんな耳真っ赤にしていったら誰かに目つけられちゃうかもしれないでしょ?」」
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