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今の俺は探偵か?それとも”しのれな”のファンか?― 師匠と別れた俺は、善良な”しのれな”ファンの交流サイト”しのしるし”を開いた。このサイトは非公式ながら民度が高く、情報提供の速さ等も手伝って一定の層に好んで利用された。ここでの俺は自営業者の”かやまん”という体だ。『1 ”かやまん”です!みなさんに教えていただきたいんですけど”しのれな”の家族構成って公表されてましたっけ(’_’?)』すぐにレスポンスがあった。『2 ”かやまん”おひさ~😃✌️デビュー当時のインタビューで両親をはやくに亡くして兄と二人で頑張ってるって書いてあった気がするよ☺️』『3 やっほー、”かやまん”と”とんび”さん😁✨懐かしいよねー、やっとお兄ちゃんに恩返しできるっていうのを読んで泣いちゃったな―😭』流石の知識量だ。その後は彼女の引退を惜しむ話になったので、俺は感謝を伝えてサイトを閉じた。……両親を失い兄と二人で、か。思えば……今まで苦しい時にあの子がいてくれたから、笑っていてくれたから、俺は踏ん張れたんだ。もし彼女が今、一人で抱えきれないほどの哀しみに暮れているとしたら?そうだ、俺が探偵でもただのファンでも、彼女が北戸葵子でも”しのれな”でもそんなのはどっちだっていい!俺は一人の紳士として身寄りなき涙目の淑女を救う。そう決心した。 さて、そうと決まれば善は急げだ。俺は”しのれな”がデビュー当時から引退まで所属していた【タカラバオフィス】のHP(ホームページ)を訪問し、そこに記載されている番号に電話をかけてみた。本来ならば一人のファン如きが、引退したアイドルの話を関係者に直接聞ける機会などあるはずがないだろう。しかし【タカラバオフィス】この会社の対応は随分と鷹揚だった。探偵である自分に彼女が偽名を使って依頼してきたことや、彼女の精神状態などが心配であること等を懇切丁寧に説明したところ、後日弊社の本社ビルにお越しくださいと伝えられた。 ―3日後、約束の時間の30分前に到着した俺は、HPで見たビルの実際の大きさに圧倒された。写真でイメージしてたサイズの5倍はあるな。うちと同じ”事務所”とはとても思えない……、それにしても着くのがちと、早すぎたかもしれないな。どこかで時間を潰すか?そんなことを考えているとビルの中から恰幅のいい男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。男は俺の存在に気づいてにんまりと表情を緩める。「あの、栢山様ですか?」「はい」「お待ちしておりました。玲奈のマネージメントを担当していた鏑木(かぶらぎ)と申します」鏑木さんは丸々とした顔に笑い皺が刻まれたいかにもいい人そうな顔立ちだった。「中へどうぞ」彼の後ろについていくと、ビル内は角、角、角。曲がって進んでまた曲がりエレベーターで上に向かって降りた先でもまたまた曲がり……、いや迷路かよ!!都会に翻弄される上京したての若者のような気持ちだ。案内をする鏑木さんの後ろ姿はどこか見慣れた人物のような安心感があった。「僕もね、今でもたまに分からなくなってしまうんですよ、それで一月程前にも玲奈に教えてもらいましてね……ハハ」そうして満を持して部屋に到着した。移動だけで一体、何分かかるんだ……。「どうぞ、お座りください」ふぅ、腰を下ろしてやっとこさ落ち着けた。「そちらの茶菓子、宜しければつまんでください」見れば長机の右端に洒落た饅頭が用意してある。ん?月を象ってあるのか、綺麗だな。「ありがとうございます!」「いえいえ、こちらこそ。遠方から足を運んでくださったんでしょう?」「鏑木さん、本当にいい人ですね」「ははは、よく言われますよ」―!よし、『場が和んだ瞬間を見極めて本題を切り出せ』師匠に教わった基本のキの字だ。「ところで電話でお話した篠宮さんの行方についてなんですが……」「は”‘い”……う”ううん!」鏑木さんは強く咳払いをした。「すみませんねぇ、声ガラガラで、どうも最近は喉の調子がよくない」「いえ、全然気にしないでください。それで、篠宮さん、いえ、”士能”さんのことですが……」「驚いた!そこまで知っているんですか。……実は僕たちも困っているんですよ、急に連絡がとれなくなったものですから」彼は天井を見つめて思案し、ぽつりぽつりと語り始めた。「僕は……デビュー当時から玲奈の専属マネージャーで、、うちの会社がここまで大きくなれたのも玲奈の!あの子のおかげなんです!1ヶ月前、玲奈はすごく悲しい顔をしていて、あの時は正直、とても人気のアイドルとは思えなかった……」鏑木さんはすすり泣きをしながら続ける。「本当なら僕が寄り添ってあげなければいけなかったんですけど―」”しのれな”は何かに怯えるかのように長年マネージャーを勤めた鏑木さんとも話さなくなり……失踪した。そして大事にしたくない事務所側は警察には相談せず、親族のいない彼女の行方を把握することは叶わず、半ば強引に引退発表をして今に至る―。「栢山さん、玲奈を見つけてください!お願いします。僕は心配なんです、あの子は家族みたいなものだから。」「勿論です。”偵”い、”探”すプロ……それが”探偵”ですから」俺は”しのれな”の元住所などの情報と鏑木さんからの”依頼”を引き受けて、新たな事件を追う。事件の名前は――<士能麗奈失踪事件> 次回 第5話「Death-Show」