周防町4ブロック地区の中央にある、北斗の選挙事務所では、屋根に大きな看板で~淡路の風成宮北斗~と書かれた、笑顔の北斗が映っている看板が掲げられていた
すっかり「淡路の風」のキャッチコピーが板についている
その選挙事務所で今アリスは自分のデスクに座り、世論調査の分析に首まで浸かっていた、仕事に邁進中の彼女の首には、赤い紐のIDカードがぶらさがり
明るい水色のポロシャツの右胸には「成宮北斗選挙委員会」
そして背中には「~淡路の風~成宮北斗」とプリントされている、この選挙事務所に出入りしているスタッフの制服だ
入口カウンターに一番近いアリスのデスクの横には、うぐいす嬢用の真っ白い手袋が山積みにされ、横には後でまとめて捨てるために飲み干した、セブンイレブンのアイスカフェオレの、空のカップがずらりと並んでいる
選挙事務所にいる間は、世論調査やめまぐるしく変化していく、大きなホワイトボードから目が離せない
朝からそのセクションで信夫が、ホワイトボードとデスクを行ったり来たりしている、格SNSの調査アンケートやフォロワー数の、グラフを機会のように次々書き込んでいく
この選挙事務所でインターネットに、強いという意味では、信夫の右に出る者はいない
選挙活動の世界では能力が人気につながると、言うことを信夫は証明して見せた
ちょうど12時の昼休憩の知らせが有線から流れた
同じ水色のポロシャツを着た、貞子が雇った学生アルバイトの男の子達も、コーヒーメーカーの所でどこの店の、ランチに行くか楽しく話しこんでいる
アリスも椅子から立ち上が大きく伸びをし、くるりと後ろを向いて、一番奥のデスク2つ分のスペースを、陣取って仕事をしている、信夫の所へ行って話しかけた
「信夫君・・・私お昼を食べに一旦家に帰るけど・・・これ・・・お福さんが作ってくれたおにぎりなんだけど、食べない?」
「中身は?」
アリスはランチバックの中身を空けて、ラップにくるまれた三角おにぎりを、信夫に見せようとするが、彼は一向に画面から目を離さない
「うめぼし」とお福さんの手書きのシール、が貼ってあるおにぎりをほらほらと見せる
「シャケとうめぼしと・・・昆布だよ」
「ありがとう・・・3つ全部、そこにおいといてもらえる?、これから48時間は両手がふさがってるから」
信夫は指令基地のように円形に囲まれた、モニターの真ん中に座り、まるで機械の降霊会でも開いているみたいだ
信夫の左側には選挙活動に使っている、7インチタブレッドがスタンドに設置されていて、その横では13インチのノートパソコンが、これまた斜めにスタンドで立掛けられており、アリスが解読不能なデータと棒グラフを表示している
正面にあるデスクトップ画面には選挙ニュースサイトと、地方テレビのニュースまとめサイトが表示され、プログラムが作動すると「#成宮北斗」のキーワードで延々エゴサーチがかかり、北斗関連の情報がどんどん抜かれて行って別の、プロファイルに保存されて行っている
その右上画面には何かのグループチャットの、画面が開かれていて川のようにコメントが、下から上へダーッと流れて行っている、まるで生き物の様だ
さらに右のスタンドに立て掛けているノートPCには、動画編集アプリがエンコード中と表示され、各SNSのアプリが開きっぱなしになっている
信夫の手の中にはiPhoneがあって、そのスマホからグループチャットに、メッセ―ジを送信する「シュッ」という、小さな音がする
PC周辺の壁一面におびただしいほどの、付箋がべたべた貼られ、どれも信夫が書いた走り書きのメモばかりだ
「〇月〇日支持率40パーセント」
「一日三度SNSで情報発信」
「朝7時、(通勤時)昼12時(昼食時)21時(帰宅時)」
「〇月〇日支持率35%」
「一日に最も人はこの時間帯にSNSを見る」
「モーニング淡路ラジオインタビュー台本に従うこと」
「〇月〇日支持率予想45%」
「本日のトレンドワード~淡路の風~」
「討論会顔合わせ」
「非公開の慈善活動」
「有権者との接触動画大量投稿」
「〇月〇日支持率47%」
信夫の背中を見ながらアリスは心が熱くなる、ここまでしてくれている、みんなが本当にありがたい
北斗さんはこの周防町を愛している、でも周防町が北斗さんを愛してくれているかどうかは、まだ自信がない・・・相思相愛になりたい
でももし・・・・負けたら・・・
なのでついついこの言葉が口から出た
「・・・勝つと思う?」
ピタリと信夫は一時停止し、そしてくるりと椅子ごと向きを変え、アリスをじっと見た
二人はしばらく見つめ合った、思わず握る手に力が入る
「・・・思うんじゃなくて勝つんだよ 」
アリスは信夫の真剣な言葉に、改めて気を引き締め、二度と泣き言は言わないと心に誓った
そして信夫はこう言った
「問題は鬼龍院の政策案が、どう出てくるかだな・・・・」
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