100年後の彼女に会うために
リリーベルちゃんが最期に希望を見出したのがただの平凡な人間だったらいいなって思った
処刑前日の牢獄のでの話。
リリーベルの過去編+実質バチくそに濃厚なリリーベル夢小説です!!!注意!!!
牢番というのは損な役回りだと思う。基本叱責を受けるのはこっちなのに、歴史に名を刻むようなことは出来やしない。無名の脇役で一生を終えるのが牢番だ。
だけど、今この時だけ、私は歴史に関わっているのかもしれない。
「夜は嫌い、暗くて陰気臭くて嫌になる。」
渇望の魔女、リリーベル・バーミリオン。女王陛下によれば大罪を働いた魔女だと言う。私よりも細くて小さい体が、それを働いたとは思えなかった。だがそれだけで侮ることは出来ないのだ。魔法を使える者は只者ではないのが定石だ。油断したら、こちらが死ぬ。
「ねぇ、牢番さん。あなたはなんで話してくれないの?」
「……規則ですので。」
少し迷ってこう答えた。この会話とも言えないような、 単語の押し付け合いも会話に入ってしまうのだろうか。だとしたら、随分迷惑な規則だ。少しだけ考え込んだ後リリーベルは「そっか」とだけ答えて、少し悲しそうな顔をして俯いてしまった。少女の姿なのは外見だけだとわかっている。だが、自分より小さな子が悲しんでるのは見るに堪えないものだ。
「……いいですよ、相手になっても。」
「!でも今規則って……」
「何を言ってるんですか、今から話すことは全部「独り言」ですよ。会話じゃありません。」
「全く、勝手なんだから。」
花が咲くように笑う彼女に「魔女達にだけは言われたくない」という言葉を呑んだのは、一生の秘密だ。リリーベルはぽつぽつと話し出した。自分の従者のこと。レリアという少女がどれ程お気に入りかということ。教会の人間が嫌いだということ。話しているうちに少しづつ元気が戻ってきたようで、どんどんと声色は明るくなっていた。その姿に少しだけ安心した。
「……君になら、話してもいいかもね。 」
リリーベルは何か重苦しいものを包んだような笑顔を私にみせた。その疑問を持った次に彼女が話し出したことは、実に何百年も前の話だった。
400年ぐらい前、ワタシは「願望の魔女」になった。自称した訳じゃないよ。みんながそう言っただけ。でも、私にぴったりだと思った。
当時のワタシは人間が哀れで仕方なかった。願っても叶わないものは叶わない。それが可哀想だと本気で思っていた。ある日、とある少年にあった。少年は大勢の大人に囲まれながら、苦しそうにしていた。周りの人に話を聞くと、どうやら少年には持病があるらしく、その発作が起きてしまったらしい。このまま死んでしまうのはあまりに惨いと思った。だからワタシは、魔法を使った。ワタシが祈りと願望の言葉を紡ぐだけで、その少年はみるみる顔色が良くなり、呼吸が落ち着いた。キョトンとした顔をしている少年の顔は、多分忘れることは無い。周りの大人たちは歓喜した、これぞ奇跡だと。そこからワタシは「聖女」と呼ばれ出した。
そのうちワタシには沢山の人が訪れた。もう沢山来すぎて整理できないぐらい。だから受付を作った。それが今の「聖女リリーベル教会」。「聖女様に願いを捧げれば叶えてくださる」、そんな迷信から出来た教会。その教会の中心の座って、ワタシは謁見と捧げられる願いの選定を続けた。選定って言っても、ほとんど叶えてたよ。「一人息子を学校に行かせてやりたい」だとか「飼い猫との距離を縮めたい」だとかね。ワタシも馬鹿正直で純粋だったから、願い事を叶え続けた。最初こそ楽しかった。ワタシが出来る当たり前のことをするだけで、人々は幸せになって、笑顔を見せてくれる。それで充分だった。充分だったはずなのに。
人々の願いはエスカレートした。「顔も声も聞きたくない、顔をぐちゃぐちゃにして」「信頼が失墜して欲しい」「不慮の事故で酷い目に合わせたい」「情けない姿がみたい」「殺してやりたい」「地獄を見せてやりたい」。そんな願いばかりが届くようになった。もちろんこんな極端なものは少なかった。だから他の願い事を叶えながら保留にしていた。だけど、最終的にはこんな願いしか届かなくなった。ワタシは「願いの聖女」としていい様に使われていたと気づいたのはこの頃だった。もう何もかも、全て遅かった。あぁ、ちょうどその時期だったね。魔女狩りが起きたのも。
願望の魔女だと公言しているワタシの元にももちろん、魔女狩りの手はやってきた。だけど、ワタシの首元に刃が向けられることは一度もなかった。ワタシの信者が、狩人達に抵抗したのだ。ここだけ聞けば美談に聞こえるかもね。でもワタシにはどうしても、「ワタシを生かして利用する為に戦っている」様にしか見えなかった。ちゃんと信仰心で戦ってくれた人はいるかもしれない。でも、どうしても願い事の数々と、あの時の精神状態では、全員がそうにしか見えなかった。
『あ、もうダメだ。コレ』
そう思って血で血を洗う争いを見てたのを覚えてる。何もかも諦めて、ワタシは手を胸の前で組んだ。座り込み、顔を俯いて目を閉じた。初めてまともに神に祈った。願いの聖女が神に祈るだなんて笑えるけど、でも必死に祈った 。
「神様、お願いです。どんな代償もわたしが払います。だから、お願いです。この地獄の始まりを、どうか終わらせてください。どうか、どうか。」
結局その願いが叶ったのか、その後すぐ狩人達は退き、二度とワタシの住む街に来ることはなかった。人々は喜んで杯を交わしていた。ワタシも誘われたけど、どうも入る気になれなくて。断りを入れた。
その日、教会を抜け出した。教会を聖女のいない空っぽの教会にする事に気は引けたけど、あそこで聖女になり続ければ、いつしか私は狂ってしまうと感じた。すぐ近くの、ワタシの為に造られた塔に荷物を全部入れて、篭城した。聖女様と悲しそうな声が聞こえても無視をした。聞き入れてしまえば戻ってしまうから。
こうしてワタシは、『「渇望の魔女」リリーベル・バーミリオン』となった。
途中から唇を噛んでいた。身勝手な人々への怒りによるものだろうか、一人で苦しみを抱えたリリーベルへの慈愛によるものだろうか。それは何も分からない。でもただ、淡々と語る彼女の顔が寂しくて。つい少しだけ涙を流した。
「……悲しいの?君が体験した訳じゃないのに?」
「……どうなんでしょうか。でも、あなたの話を聞いて何も思わなかったわけじゃない。この涙がその証です。」
彼女がハッとしたような顔をして、切なそうな、それでいて嬉しそうな、ほんの少し口角を上げた表情になった。月光に照らされた彼女が、酷く人間離れして見えた。
「そっか、そうなんだ。まだ人間の心は死んでなんかないんだね。」
「あぁ、やだなぁ。死にたくないな。」
「あなた達人間の行く末を、見届けたいな。」
震えた声で言っていた。
その日、彼女の処刑が行われた。私は彼女を牢獄から出し、処刑台までの案内を務めた。
かちゃん、と無機質な音を立てて、扉を開ける。リリーベルは平然そうな顔をしていたが、その目元はよく見ると赤くなっていた。
「平気ですか。」
「うん、大丈夫。用意はできてる。」
私の手を取って、彼女は立ち上がった。そのまま手をつないで処刑台へと向かう。本来この手離すべきものなのだろう。だけど、どうにも離す気が起きなくて、そのまま手を引っ張り続けた。逃げられたら困るから、なのかもしれない。
「……なんか、この手の引き方エスコートみたいだね。」
「冗談はやめてください。いいものではありませんよ。このエスコートで、私はあなたを間接的に殺すんですから。」
そうだ、私はこの人を死へと案内してるのだ。褒められたものじゃない。許されざる行為だ。それでも呪いの言葉を吐かない彼女は、とても強くて美しい。
「やっぱり惜しいな、あなたみたいな人をまだ眺め続けてたい。」
「でも無理、ワタシは天国には行けない。」
その言葉に何を思ったか分からないが、私は話題を切り出した。
「……100年」
「え?100年?」
「人間の寿命です。大体100年ぐらい。」
「うん、そうだね。……どうしたの?」
「リリーベルさん、天国に行けないのは私も同じです。」
「え?どうして?……ワタシを殺すと思っているから?」
「それもあります。ですがそれは私の一番の罪ではないと思ってます。」
「私は今「あなたともう少しだけ居たい」と思ってしまった。それは醜い強欲で、渇望だ。」
「だから100年後、きっと私は地獄に行く。
その時は……」
「__その時は、私のことを見てくださいますか?」
私にかけれる、最後の言葉。
「……うん、いいよ。見ててあげる。
それまでワタシは……うん、踊ってでもいようかな。」
「じゃあまた、100年後に会おうね。」
処刑台に登る前、彼女はそう言って誓ってくれた。
最期の言葉で、誓ってくれた。
終わった、終わっちゃった。
書いてたらいつの間にか涙腺決壊してました、なぜ。
最初はリリーベルの過去編だけを書くつもりでした。だけどなんか牢番さんとの会話書いてたら思ったより悲しくなっちゃって。リリーベルは居なくなっちゃったけどせめてあっちで幸せになれる保険をかけて少しだけ夢小説になりました。
私がリリーベルちゃんにかなりのバカデカ感情で夢女してるのがバレましたね。
コメント
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あー!!!あ!!クソデカ感情を感じました!!!!!ありがとう!!!!!!
あ…(霧散) 絶対2人幸せになって…(泣) 過去重くないっすか????
今回もめちゃくちゃ良かったよ!!!! わぁ…むちゃくちゃ良い…!!! この苦しい過去が終わりを待ちながらも 見守っているリリーベルちゃんを… きっとリリーベルちゃんには 希望なんてなかったんだろうけど あの時はきっと嬉しかったんだろうなぁ… 本当にマジで最高の夢だよ…!!! 次回も楽しみに待ってるね!!!!