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#ロマンスファンタジー
Jasmine
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「本当に行っちゃうんですか!? 殿下は、お嬢様のことを心から大事にしてますよっ!」
荷造りをしていた手が、ぴたりと止まった。
「……アンナ、よく聞いて」
私はゆっくりと振り返った。
「私は……あなたの知っている“ソフィア”じゃないのよ」
「…………え?」
私はすべてを話した。自分が別の世界から来たこと。気がつけば、生前プレイしていた乙女ゲームの世界に転生していたこと。そして――本来のソフィアには、処刑される運命が待っていること。
「未来を変えるために、ずっとシナリオに抗ってきたわ。でも今日……ゲームとまったく同じ光景を見たのよ」
カイル殿下の腕に寄り添う、聖女シェリー。思い出すだけで、心がざわついた。
「このままだと、私は死ぬかもしれない」
そっとお腹へ手を添える。
「でも――この子だけは、絶対に守りたいの」
机の上には、逃亡のために少しずつ用意してきた資金がある。エメラルドが宝物庫へ戻されてから、手持ちのドレスや宝飾品を少しずつ換金していた。その中から、アンナのために用意していた金貨の袋を差し出す。
「これはあなたの分」
「……え?」
「あなたまで危険なことに巻き込みたくないのよ」
アンナは袋を見つめ――。
バシッ!
私の手を勢いよく払いのけた。
ガチャンッ!
金貨の袋が床へ落ちる。
「ちょっと、アンナ!?」
「放っておけるわけないじゃないですかっ!!」
大きな瞳いっぱいに、涙が溜まっている。
「どこへだってついていきますよ! 世界の果てまでだって!」
「で、でも……」
思わず言葉に詰まった。
「私は、中身の違う偽物なのよ……?」
「中身が誰かなんて関係ないです!」
「……え?」
「それに――」
アンナは袖で乱暴に涙を拭い、真っ直ぐ私を見つめた。
「前のお嬢様だって、みんなが噂するような“悪女”なんかじゃありませんでしたよっ!」
「……どういうこと?」
「十年前のことですよ」
静かな声で、語り始めた。
「街で倒れていたお嬢様が、私の暮らしていた孤児院へやってきたんです。ところがある日、公爵家の兵士たちが押し入ってきて――」
『聖国の生き残りはどこだ!』
泣き叫ぶ子どもたちへ、剣先が向けられた。
「そのとき――お嬢様が、みんなの前に立ちはだかったんです」
私の耳元を指さす。
「その白いピアスを外した途端、髪が銀色に変わって……」
『連れて行きなさい。その代わり、この子たちには指一本触れさせないわ!』
「そう言って……連れていかれちゃったんです」
(……そんな過去があったなんて)
「数年後、公爵邸で再会した私を、専属侍女にしてくださったじゃないですか!」
鼻をすすりながら、話を続ける。
「社交界じゃ『贅沢好き』なんて噂されてましたけど……失礼しちゃいます! 高価なドレスを一度だけ着て、『気に入らないから処分した』って私に売らせて――」
得意げに胸を張った。
「そのお金、ぜーんぶ孤児院へ寄付してたんですよ!」
言葉を失った。
(……そうだったのね)
自分がどう思われても、大切なものだけは守ろうとする。
(似てるじゃない)
(私たち、思ってたよりもずっと)
アンナが、私の両手をぎゅっと握った。
「昔のお嬢様も、今のお嬢様も――私にとっては、世界一かっこいいお嬢様なんですから!」
「アンナ……」
「だから、地の果てまでついていっちゃいますよっ!」
「……もう」
思わず、ふっと笑みがこぼれた。
「本当に、物好きなんだから」
「今さらですよ!」
***
しばらくして――。
荷造りを終えた私は、書類へペンを走らせていた。アンナが横から、不安そうに覗き込む。
「……お嬢様。本当に、離婚書類を書くんですか?」
「ええ」
「殿下が知ったら……絶対、しょんぼりしちゃいますよ?」
「……そうね。でも、シェリーならきっと大事にしてくれるでしょうし」
ペン先が、止まった。
(……本当は、誰にも譲りたくない)
「可愛がっていたワンちゃんを、泣く泣く里親に出すような気持ちかしら……」
冗談めかした言葉とは裏腹に、胸の奥がちくりと痛んだ。
(もし、この世界がシナリオ通りに戻ろうとしているなら……)
いずれカイル殿下は、シェリーと結ばれる。私は――この子と一緒に、新しい場所で生きていく。そう思い込もうとした。
***
閉会の儀が終わるなり、カイルはシェリーへの最低限の挨拶だけを済ませ、ソフィアの私室へ急いだ。昼間の茶会で聞いた言葉が、ずっと頭から離れなかった。
『――その前に、こちらから願い下げですわ』
(……あれは、本心なのか?)
扉へ手を伸ばした、そのとき――。
『……お嬢様。本当に、離婚書類を書くんですか?』
聞こえてきた言葉に、手が止まった。
『……シェリーならきっと大事にしてくれるでしょうし』
『可愛がっていたワンちゃんを、泣く泣く里親に出すような気持ちかしら……』
(離婚?)
(シェリー?)
(ワンちゃん?)
(里親……だと……!?)
こめかみが、ぴくりと引きつった。
シェリーの慈悲深い姿を、尊いと思ったことはある。病人を癒やし、飢えた者へパンを配る。それは確かに、美しい行いだった。
だが――ソフィアに惹かれた理由は、それとは違う。ただ施すだけではなく、明日から自分の力で生きていける仕組みを作った。
口は悪いし、人使いも荒い。皇太子である自分を平然と振り回し、騎士団まで貧民街の工事現場へ放り込む。それでも――。誰より現実を見据え、本気で国と民を救おうとする彼女から、いつの間にか目を離せなくなっていた。
(それなのに……離婚するつもりなのか?)
ふざけるな。
(俺の気持ちまで、勝手に決めつけるな!)
バンッ!!
勢いよく扉を開けた。
「きゃあっ!?」
ソフィアが目を見開く。
「殿下……!? 一体何のご用――」
「……俺を――里親に出すつもりか?」
コメント
3件
50話おめでとうございます㊗️
うわああ、今回めっちゃ良かった……!アンナが明かしたソフィアの過去、胸にきたよ。高級ドレスを売って孤児院に寄付してたってエピソード、ソフィアがただの悪役じゃなかった証明だよね。昔も今も、誰かを守るために強くあろうとしてるのが伝わってきてグッときた。最後のカイル殿下の『俺を、里親に出すつもりか』で笑いそうになったけど、それだけ本気なんだなって思わせる熱量がいいわ🔥