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#主人公最強
伊織
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「本当に行っちゃうんですか!? 殿下は……不器用ですけど、お嬢様のことを心から愛してますよっ!」
「アンナ」
「それなのに置いて逃げるなんて……殿下を愛してないんですか!?」
荷造りをしていた手が、ぴたりと止まった。
「……アンナ、よく聞いて。私は……あなたの知っている“ソフィア”じゃないのよ」
「…………え?」
自分が別の世界から来たこと。気がつけばこの身体にいて、この世界が生前プレイしていた乙女ゲームであること。ソフィアはシナリオ通り処刑される運命にあること。未来を変えるためにシナリオに抗って生きてきたけれど、建国祭の庭園で……ゲームのシナリオとまったく同じ光景を見たこと。
「このままだと、私は死ぬかもしれない。でも、この子だけは絶対に守りたいの」
机の上には、逃亡のために用意した資金がある。エメラルドが宝物庫へ戻されてしまった後──私は、元々持っていたドレスや宝飾品を少しずつ換金していた。
約200万ルクのうち50万ルクは、すぐに使えるよう現金で。残り150万ルクは、帝国内の銀行ならどこでも換金できる無記名小切手にしてあった。アンナのために分けておいた金貨の袋を差し出す。
「これはあなたの分よ。あなたまで危険なことに巻き込みたくないのよ」
アンナはその袋を、激しく払いのけた。
ガチャンッ!
袋が、床に落ちる。
「ちょっと、アンナ!?」
「放っておけるわけないじゃないですかっ!!」
大きな瞳いっぱいに、涙が溜まっている。
「どこへだってついていきますよ! 世界の果てまでだって!」
「で、でも、私は中身の違う偽物なのよ……?」
「中身が誰かなんて関係ないです! それに――」
アンナは袖で乱暴に涙を拭い、真っ直ぐに私を見つめた。
「前のお嬢様だって、世間が言うような“悪役令嬢”なんかじゃありませんでしたよっ!」
「……え?」
「十年前のことですよ。街で倒れていた八歳の女の子が、私のいた孤児院にやってきました。それがソフィアお嬢様でした」
最初は、名前すら名乗ってくれなかったという。けれど少しずつ孤児院の子どもたちに心を開き始めた、ある日――。公爵家の兵士たちが、門を蹴破った。
『聖国の生き残りはどこだ!』
『緑の瞳に銀髪のガキを引きずり出せ!』
泣き叫ぶ子どもたちへ、剣先が向けられた。
「そのとき――お嬢様が、みんなの前にスッと立ちはだかったんです」
アンナが、私の耳元へ手を近づける。
「耳につけていたその白いピアスを外した途端、金髪が銀色に変わって……」
『連れて行きなさい。その代わり、この子たちには指一本触れさせないわ!』
「そう言って……公爵家へ連れていかれちゃったんです」
「…………」
「それから数年後。働きに出た公爵邸で再会した私を、専属侍女にしてくださったじゃないですか!?」
アンナは鼻をすすった。
「世間では『贅沢好きの悪女』なんて言われてましたけど……失礼しちゃいます!高価なドレスを一度だけ着て、周りには『気に入らないから処分した』って私に売らせて――」
アンナは胸を張った。
「そのお金は、ぜーんぶあの孤児院へ寄付してたんですよ!」
言葉を失った。
(……そうだったのね)
誰にも理解されなくても。悪女と罵られても。ソフィアもずっと、大切なものを守ろうとしていた。
(似てるじゃない。私たち、思ってたよりもずっと)
アンナが、私の両手をぎゅっと握った。
「昔のお嬢様も、今のお嬢様も――私にとっては、世界一かっこいいお嬢様なんですから!」
「アンナ……」
「だから、地の果てまでついていっちゃいますよっ!」
「……もう」
思わずふっと笑みがこぼれた。
「本当に、物好きなんだから」
「今さらですよ!」
***
それから、しばらくして――。荷造りを終えた私は、一枚の書類へペンを走らせていた。その横から、アンナが不安そうに覗き込む。
「……お嬢様。本当に、離婚書類を書くんですか?」
「ええ」
「殿下が知ったら……絶対、しょんぼりしちゃいますよ?」
「……そうね。でも、シェリーなら……きっと大事にしてくれるでしょうし」
ペン先が、一瞬だけ止まった。
「可愛がっていたワンちゃんを、泣く泣く里親に出すような気持ちかしら……」
冗談めかして答えながらも、胸の奥がちくりと痛んだ。
(もし世界が、シナリオ通りに戻ろうとしているなら……)
いずれカイル殿下は、シェリーと結ばれる。
(私は……この子と一緒に、新しい場所で生きていくだけ)
――そう思い込もうとした。
***
閉会の儀が終わるなり、カイルはシェリーへの最低限の挨拶だけを済ませ、ソフィアの私室へ急いだ。
昼間の茶会で聞いた言葉が、ずっと頭から離れなかった。
『――その前に、こちらから願い下げですわ』
(……あれは、本心なのか?)
(俺は、それほど信用されていないのか?)
扉へ手を伸ばした、そのとき――。
『……お嬢様。本当に、離婚書類を書くんですか?』
手が止まった。
『可愛がっていたワンちゃんを、泣く泣く里親に出すような気持ちかしら……』
(離婚?)
(シェリー?)
(ワンちゃん?)
(里親……だと……!?)
こめかみが引きつった。
シェリーの慈悲深い姿を、尊いと思ったことはある。病人を癒やし、飢えた者へパンを配る。それは確かに、美しい行いだった。
だが、ソフィアに惹かれた理由は、それとは違った。ただ施すだけでなく、明日からも自分の力で生きていける仕組みを作った。
口は悪いし、人使いも荒い。皇太子である自分を平然と振り回し、騎士団まで貧民街の工事現場へ放り込む。それでも――誰より現実を見据え、本気で国と民を救おうとする彼女から、いつの間にか目を離せなくなっていた。
(それなのに……離婚するつもりなのか?)
ふざけるな。
(俺の気持ちまで、勝手に決めるな)
バンッ!!
勢いよく扉を開けた。
「きゃあっ!?」
ソフィアが目を見開く。
「殿下……!? 一体何のご用――」
「……俺を、里親に出すつもりか?」
コメント
3件
50話おめでとうございます㊗️
うわああ、今回めっちゃ良かった……!アンナが明かしたソフィアの過去、胸にきたよ。高級ドレスを売って孤児院に寄付してたってエピソード、ソフィアがただの悪役じゃなかった証明だよね。昔も今も、誰かを守るために強くあろうとしてるのが伝わってきてグッときた。最後のカイル殿下の『俺を、里親に出すつもりか』で笑いそうになったけど、それだけ本気なんだなって思わせる熱量がいいわ🔥