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「ガキがっ……!知ったような口を聞くな!さっきも言ったがお前には関係ない。分かったらそいつをこちらに渡せ!話はまだ終わってないんだ!」
「断る!」
「このっ!」
これ以上はいけない……会長に怪我をさせてしまう。
そんなことは起こってほしくない。
私は会長の袖をゆっくりと掴み、何か言おうとした会長を止めた。
「もう、いいんです……ありがとう、ご、ざぃます」
「何もいいことなんてないだろう……!」
「いいんですよ……」
初めてだったのだ。私のためにそこまで言ってくれた人は……だから、もう嬉しすぎて胸がいっぱいなんだ。
会長に寄りかかっていたお陰でマシになった身体を起こし、ゆっくりと立ち上がった。
「父さん……この方は関係ないんですよね?でしたらもうお帰り頂いてよろしいでしょうか?お話の続きはお部屋で伺います」
「澪……!」
「わかってるじゃないか。早く帰ってもらえ」
そう言い残し父さんは部屋へと戻って言った。去り際にちゃんと部屋に来るように言い残して。
とりあえず後ろで凄まじいオーラを出してる人を帰さなければ……
「……会長。明日は休みではないのですから早く帰ってゆっくりお休み下さい。今日は本当にありがとうございました……」
「なんでお前は……!」
「いいんです!これで……慣れましたから」
心配させないように笑ってみたがちゃんと笑えていただろうか……
まだ何か言おうとしてる会長をさえぎるように、使用人を呼んで家から出てもらった。
心の中でたくさんの謝罪とお礼を述べて、私は父さんの部屋へと向かった。
~会長(大輝)side~
「まだ話は終わっていないんだが?」
「申し訳ございませんが、本日はお引き取りください」
俺は半ば無理矢理、追い出された家の使用人の方を見て言った。
澪が車に遊園地で買ったお土産を忘れていたので、渡そうと訪ねたら最悪の事態に遭遇してしまった。
想像はしていたが思っていたより状況は悪いらしい……
「で?お前たちは澪があんなことになってるのに何も言わないのか?」
「たかが使用人の分際で発言できることではないのです。私たちも職を失うわけにいかないので……」
「……ちっ、お前たちにあたっても仕方ないな。悪かった……日を改める」
ここで何を言っても仕方ない。俺は踵を返し車に戻ろうと歩き出した。
「お待ちしておりました。お忘れ物は渡せましたか?」
「いや……別の問題ができた。とりあえず帰って親父に相談する」
「かしこまりました。宗治(そうじ)様でしたら既にお戻りになってるとのことです」
「……分かった」
伽々里家を一瞥し、車に乗り込もうとした時、後ろから呼ばれているのに気が付いた。
「はぁはぁ……お、お待ちください!あ、あの……あなた様なら澪様を助けていただけますか!?」
声をかけてきたのは先程、対応していた使用人とは別の人だった。走ってきたのか息が上がりそれでも話そうとしていることから必死なことが伝わった。
「とりあえず落ち着け」
「も、申し訳ございません」
息を整え、服装を正すと改めて俺に視線を向けてきた。
「お見苦しいところをお見せしました。私、伽々里家にお仕えしております乾(いぬい)と申します。先程、あなた様が澪様のために旦那様に怒っていたことを見ておりまして……お願いします!どうか澪様をあそこからお救いしてほしいのです」
「それは同情か?いい人に見られたいからか?」
「確かに同情かも知れません。それでも私は澪様に幸せになってほしいのです。笑っていてほしいのです……」
「なぜそこまで思う?」
「私にとって澪様は恩人です。澪様は覚えていらっしゃらないと思いますけど……」
乾と名乗った使用人はとても嬉しそうに話してくれた。それは澪が小さい時の話できっとあいつが知らない話……
澪は気づいているのだろうか?あの家でもお前を思ってくれている人がいることに……
「話してくれてありがとう。それと……失礼なことを言って申し訳ない。俺にできる最善を尽くすとあなたに誓う……」
「あ、ありがとうございます!よろしくお願い致します!」
何度も頭を下げてお礼を言う乾。誓ってしまったからには何がなんでも澪を助けなくてはいけない……
親父に言われた『やるなら徹底的に』。そのためには俺にあるコネを最大限に使っていく。もちろん親父にも協力をしてもらって……家に帰ったら直談判だな……
「長々と話し込んでしまって悪かったな。そろそろ帰る。乾には申し訳ないができる限りでいいから澪のことを見ててくれないか?」
「もちろんです!お任せください!」
「ふっ、ありがとう……そうだ。俺の連絡先を渡しておく。何かあったら連絡してきてくれ」
乾にメモを渡すと車に乗りこみ家へと帰った。遠ざかっていく後ろを振り返ると乾はずっと頭を下げ続けていた。
きっとあの家で誰にも相談できず、密かに澪のことを思っていてくれたんだろう。
その気持ちに報いるため、俺は携帯を取り出すと各社へ連絡を取り始めた。
明日、澪とゆっくりと話をしよう。俺の考えと乾の思いとそれから……
けれどその後1ヶ月間、澪が学園に来ることはなかった……