『 不器用なあなた 』
「甲斐田ぁ、明日2人で出かけね?」
カシャン
「え?」
2人で僕が作った夕食を食べていると、そんな一言が静寂を貫いた。
あまりにも予想外の言葉が出てきたもので、思わず持っていた箸を落としてしまった。
「え、ってなんだよ。なんかおかしい?」
…いや、だって。不破さん、最近忙しくてずっとイライラしてたよね。
確かに今日は帰ってきてから一度も叱られなかったけど、2人で外出なんて数ヶ月ぶりじゃないか?
「で、甲斐田。どこ行きたい?」
「え、…あ、じゃあ最近オープンした駅前のカフェとかどうですか?
この間、弦月と行ったんですけど雰囲気もすごく良くて!」
久しぶりに一緒に出かけられることが嬉しくて、つい声も弾んでしまう。
「……は?」
冷たい声色に背筋を凍らす。
「へぇ。俺が仕事に行って稼いできてやってる間に、甲斐田は男と遊びに行ってるわけね」
なんの感情も見えない、平坦な声。
だが、その奥に激しい怒りや苛立ちを孕んでいることは、僕が一番知っているではないか。
「ちっ、違うんです!!そんなつもりじゃ、全然なくてっ」
「違うってなに?どう違うん?ほら、言うてみ」
言葉が、喉の奥につっかえて出てこない。口の中から水分が消え、カラカラに乾いている。
「言えないやん。やっぱり俺の言った通りやったんちゃう?なぁ?」
答えなければ。早く、謝らなければ。そう思うのに、口からは空気が出ていくばかり。
どうしよう、苦しい。息って、どうするんだっけ。
「甲斐田?聞いとる?……おい、言えよ。早く。なぁ、おい。…言えって言ってんだろうが…ッ!!!」
スローモーションで、拳が迫ってくる。
……あ、やばい。そう思った頃には、もう遅かった。
「ッぐは _____ …ッ」
拳は、容赦なく腹を抉った。
苦しい、息が吸えない。
「なぁ、晴。…晴って、俺のなに?」
「こいびと…ッです」
「…そう、分かってんなら良いんだよ。分かってんなら」
「…晴、俺のこと好き?」
「…はい、ッ好きです、大好きです、愛してます」
「だよな?
…晴は俺のこと大好きやから。お前は、裏切ったりしないもんな?」
僕を数秒間見つめてから、
「俺、もう寝るわ」
不破さんはフラフラとした足取りで寝室へ向かった。
ッ痛い、殴られた下腹部がズキズキと痛む。
「…晩ごはん、片付けなきゃ」
もったいないけど、今食べたら確実に吐く。
…いつから、こうなってしまったのだろう。
付き合い始めたとき?
初めて体を合わせたとき?
同棲し始めたとき?
「…」
でも、これは不破さんなりの愛情表現だから。
…彼は不器用なだけだから。
僕しか、受け止めてあげられないんだから
コメント
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ぐぅ……😇😇😇😇 なんだこの…なんとも言えない 気持ちは…😭😭😭 依存し合うのほんと好き😆