今日は四月一日…まぁ、世間で云う四月莫迦だ。詰まる処、どんな嘘を吐いても佳い日。是迄、僕にぴったりな日は在ると思う?答えはひとつ、無いよねえ。よし、早速中也を仕掛けに行こうっと。
「中也。」
「ンだよ、疾っとと書類終わらせろ。」
何で書類仕事残ってる事知ってるの?ストーカー?
まぁ、そんな事は構わずに。
「あのね。僕、中也が大好きだよ。」
「おう、そうだな。俺も……あ?…今手前何つった?」
「だぁから、中也が好き。一回で聞き取ってよね。」
なぁんだ、共感しかけたと思っちゃった。…あ、でも今は嘘になるのか。
「………あぁ、俺も最ッ高に手前が好きだぜ。」
一瞬固まっていたが、気付いたのか、同じ様に返して来た。気持ち悪いとか嫌いとか云ってくれたら揶揄えたのに。
「ふぅん…でも、僕は世界で一番好きだよ。」
「………俺は宇宙一嫌い…じゃねえ、好きだ!」
笑顔で甘い声を出してそう云えば、顔を歪ませて云い返して来た。
今嫌いって云いかけたよね。掛かったな、と云いた気な表情をしたら、中也は悔しそうに睨んでくる。
「…ッ、手前なんか、誰よりも大好きだよ!」
「………ふふ、素敵な告白をありがとうね?」
「……は、?何、云って…。今日は四月莫迦だろ、?」
ニヤリと嗤って音声録音機を見せると、中也は 困った様な、怒った様な、それでいて羞恥を感じている様な、色々と混ざった表情を見せた。
『…ッ、手前なんか、誰よりも大好きだよ!』
音声録音機の釦を押すと、先程の情熱的な告白の言葉が流れる。
執務室に置いてある時計を指差すと、正午を上回った処だった。
「四月莫迦は午前迄。君が先程告白の言葉を綴った時、既に午後を上回っていた。……もう、解るよね?」
見事な解説をしてみせると、中也は既に紅かった顔を、更に紅くしてしまった。
「ッ、ンなの無しだ!!」
「おや、そう云う訳にはいかないなぁ。此処に証拠も残っている訳だし?」
音声録音機に記録した音声を再生しようとすると、うわあああ!と中也が大声を上げて此方へ寄って来た。
其の儘此方へ飛び込んで来、咄嗟の事で、中也を受け止め切れずに 後ろへ倒れ込んでしまう。
衝撃で瞑った目を開いて遣れば、天井を背景に 戸惑った表情の中也がの顔が映る。
「わぁ。今日はいつもに増して、随分と積極的だねえ。」
「否、これは…違、くて……。」
「違う?…何が違うの?」
「ッ、?………ッ手前、真逆とは思うが、未だ勤務中だぞ!」
中也が私を押し倒されている様な体制から、私が中也を押し倒す様な体制になる。
中也は少し固まった様子を見せたが、理解が追い付いた様で、拒絶の言葉を吐き出す。
「勤務中?厭だなぁ。其方が誘って来たんじゃあないか。……それ相応の覚悟はあるよねえ?」
「は、?おい、待──」
「それじゃあ、頂きます♡」
その日は、執務室から悲鳴が聴こえ、後に太宰と中原が執務室から出て来る事は無かった。