「は〜…次の授業くそだりぃ…」
学校は憂鬱だ。意味の無い勉強をし、テストをし。オレはサボり魔。みんな勉強しろだの言ってくるが、こんな意味の無い事をやってる方が凄いと思う。勉強なんかしなくても。ある程度の知識があれば世の中生きて行けるだろう。そう思いながら、オレのサボり場所。保健室の扉を開ける。
今日は、風の強い日だった。ガラガラと開けた扉から爽やかな風がふわっと吹き抜けた。はらはらと白いカーテンが視界の中心を遮る。微透明なカーテンから、誰か、人を捉えた。さらさらと髪を風に任せ揺らし、保健室の一番奥の窓辺のベッドの上で、上掛けを腰まで掛け、外を見つめ座っていた。
風が止むと、ベッドに座る人の姿をオレの目ははっきりと捉えた。窓の方を向いていて、顔は見えなかったが。白い部屋に咲いた百合の花の様で、酷く美しく。触れたら消えてしまいそうな程、儚かった
見惚れてしまった。誰かをこんなにも美しいと思ったのは初めてだろう。ドアの前で立ち尽くしていると、その人は此方に気付き視線をオレに向けた。また、風が強く吹いた。カーテンがはらはらと舞い、純白のヴェールの様にその人の顔を隠す。ヴェールを被ったその人は、確かに笑っていた。その微笑みは、オレが今まで見た誰よりも綺麗だった。
「…こんにちは。どうしたんですか?」
その人が、喋ったのか。高くて、澄んだ天使の唄声の様だった。綺麗な声に、耳を奪われてしまった様だ。
「…あ、いや…」
サボりに来た。なんて言える筈もなく。オレは顔を桜色に染めた。オレの姿が可笑しかったのか。その人は鈴を転がす様に笑い、オレの表情も緩まる。眼を、心を奪われてしまったのだろうか。もう、その人しか眼に入らなかった。
「…ちょっ、と。頭が痛くて」
嘘を吐いた。白く、怖いくらいに綺麗なその人に、サボる、なんて言葉は似合わない。頭が痛い素振りなんて微塵も見せていないから、怪しまれただろうか。その人は細く靭やかな指を口元へ持って行き、クスクスと小さく笑った。笑った顔は、天使の様で。落ち着いて居て、静かだけれど楽しそうな気持ちが伝わって来る。
「頭痛、大丈夫ですか?ベッド、空いてるので無理せず横になって下さい」
きっと、嘘だってバレてる。なのに、言わない。優しくて、綺麗で。なんて、完璧な人なんだろう。その人は、自分の隣のベッドを指差した。俺はそこにぎこち無く座った。すると、その人はまた、天使の様な笑顔を見せた近くて見れば見る程、綺麗だ。怖いくらい細く白い腕、大きくて丸い瞳には長いまつげ。薄くほんのり桜色の唇に、今すぐにでも近づきたかった。
「…あの、名前。なんて言うんですか?」
「…名前、ですか?」
急かつ失礼な問い掛けに、その人は嫌な顔せず、寧ろ笑って、答えてくれた。クスクス笑うその顔は天使の様。口元を覆うその仕草が俺の心を刺激する。
「…莉犬って、言います。貴方は?」
儚いその人は、莉犬と言う名前らしい。「莉」と言う漢字にはジャスミンの意味を持っていると、何処かで聴いたことがある。彼に、ピッタリだ。
「…オレ、さとみって、言います。」
「…さとみさん、」
彼は名前を呼んでくれた。さん、って。なんだかムズムズするが、その鈴の様な声でオレの名前を呼ぶのが酷く愛おしくて。彼はオレの眼をじっと見た。長いまつげを揺らし潤んだ瞳が視界を埋める。オレは手を伸ばした。莉犬の頬に、触れたかった。
そっと、白く柔らかい頬に触れた。刹那、すぅっと優しい風が吹き、また、カーテンが宙を舞った途端、
彼の姿が消えた。
様に、見えた。ひと目見た時に思った、触れたら消えてしまいそう、と言うのは本当だったみたいだ。触れてる手は彼の頬から体温を吸取っている様だった。段々、彼の頬が冷たくなる。
彼は、突然のオレの行動に首を傾げた。
「…さとみさん?」
はっと、自分のした事に気付いた。会って、三十分も経っていないのに、何をしたんだオレは。
「ごめ、っ、莉犬さん、つい」
彼は目を細めると優しく笑った。また、オレの顔を見てクスクス笑う。段々、彼の笑い声が大きくなり、やがてあはは、と彼は大きく笑った。釣られて、オレの広角も緩む。二人で、声を上げ笑ってしまった。
「…ふふ、さとみさん、面白い。オレ、さとみさんみたいな人だいすき」
大好き、と言う言葉に時間が遅くなる。涙が溜まった瞳を指先で撫でる彼を見て、オレの顔は紅葉の様に紅く染まっていった。この時間が、ずっと続けばいいのに。強く願った。
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End
コメント
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え…てんさいですかにゃん…!? ふぉろーしつれいしますにゃん!
めちゃめちゃ好きです💞フォローさせて頂きます!
ええええめっちゃこの話好きですうううううう ハートめっちゃおしますうううう