藤澤SIDE
「やっぱり冷たいね」
徐に取り上げられた左手が若井の両手に包み込まれる。
「若井、冷え性だって言ってたのにね」
ライブ前にはカイロを愛用する程の冷え性だったはずなのに、その両手は冷えた指先にじんわりと熱を分け与えてくれている。心地好いけれどなんだか気恥ずかしい。平静を装いつつ捕らえられたままの左手をどうやって取り戻そうか考えていると、逆に若井の方から左手を差し出された。
「なに?」
「右手も」
「え、いいよ」
「よくない。ほら、温めてあげるから」
そんな短い押し問答の末、結局俺は右手も預けざるを得なくなった。俺の両手は微かな抵抗ごと若井の両手に包み込まれる。
「涼ちゃんの手が冷たくてよかった」
「え?」
「涼ちゃんに触る口実ができたから」
別に口実なんてなくても触れていいのに。今までだって散々じゃれあってきたし、ライブ前にはハグもする。怪我をすれば手当をするし、綺麗なネイルはお互いに手を取って眺めてきた。でも、そんな言葉は真っすぐに向けられた視線に絡めとられて音にはならなかった。
「若井?」
「嫌なら逃げていいよ」
「……っ」
確かに若井の手に力はこもっておらず、振り払おうとすればすぐにできるだろう。それなのに俺の身体は逃げるどころか瞬きさえも忘れてしまったかのように動かない。頭では、この先どうなるかわかっているのに。
「わか、い……」
寄せられた唇がゆっくりと動くのが見えた。
「涼ちゃん、好きだよ」
吐息のような囁きが耳に届くのと同時に、ようやく動いた瞼が視界を覆い隠した。
コメント
1件
手を握る、一つ取っても素敵な物語になるとは…✨