テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
*.꒰ঌ𝕐𝕦𝕚𝕜𝕒໒꒱.*
235
フルーツ飴(旧スイカ🍉)
882
春の終わり。
やわらかな風が桜の花びらを運び、街路樹の若葉が太陽の光を浴びて揺れていた。
郊外にある小さな孤児院。
子どもたちの笑い声が庭に響く中、一人だけ輪へ入らず、木陰で膝を抱えて座っている男の子がいた。
黒く柔らかな髪。
少し長めの前髪から覗く黒い瞳。
年は五歳ほどだろうか。
周りの子どもたちが鬼ごっこをしていても、その子だけは静かに空を見上げていた。
「朔水。」
保育士が優しく声を掛ける。
「お客様が来てるよ。」
朔水は小さく頷き、ゆっくり立ち上がった。
誰かが来る。
それは珍しいことではない。
新しい家族を探している人たちが、時々この孤児院へ来る。
でも、自分が選ばれることはない。
そう思っていた。
応接室へ入ると、一人の男性が立ち上がる。
白いシャツに紺色のカーディガン。
眼鏡を掛けた穏やかな顔立ち。
「こんにちは。」
優しい声だった。
「初めまして。」
「狗久保恒一です。」
朔水は小さく頭を下げる。
「……朔水。」
「よろしく。」
恒一は微笑みながら同じ目線までしゃがんだ。
「いい名前だね。」
「ありがとう。」
朔水は何と返していいか分からず、小さく「うん」とだけ答えた。
無理に笑わせようとも、質問攻めにもしない。
ただ静かに隣へ座ってくれる。
そんな大人は初めてだった。
しばらく沈黙が続いたあと、恒一が庭を見ながら言う。
「外、暖かそうだね。」
「うん。」
「散歩、好き?」
「……好き。」
「じゃあ、一緒に歩いてみようか。」
朔水は少し迷ってから頷いた。
二人は庭へ出る。
子どもたちが元気に走り回る横を、ゆっくり歩いた。
「虫、好き?」
「好き。」
「花は?」
「好き。」
「動物は?」
その質問だけ、朔水の表情が少し変わった。
「……好き。」
「犬。」
「猫。」
「鳥。」
「みんな好き。」
恒一は嬉しそうに笑う。
「実はね。」
「うちにも犬がいるんだ。」
「ほんと?」
初めて朔水の声が少し弾んだ。
「柴犬。」
「もうおじいちゃんだけど。」
「会いたい。」
思わず出た言葉に、朔水は慌てて口を押さえる。
「……ごめんなさい。」
「謝らなくていい。」
恒一は優しく頭を撫でた。
「会えるかもしれないよ。」
その温かな手に、朔水は少しだけ目を細めた。
父親に頭を撫でられた記憶はない。
けれど、不思議と安心した。
一時間後。
応接室。
施設長が静かに書類を机へ置く。
「狗久保さん。」
「本当に朔水くんでよろしいのですか?」
恒一は迷わず頷く。
「はい。」
「この子を家族として迎えたいと思っています。」
朔水は意味が分からなかった。
家族。
その言葉だけが頭の中で何度も繰り返される。
施設長が優しく微笑む。
「朔水。」
「今日から、狗久保さんのお家で暮らすんだよ。」
「……え?」
「家族になるんだ。」
朔水は何も言えなかった。
本当に。
自分が?
誰かの家族になれるの?
恒一はゆっくり手を差し出した。
「帰ろう。」
「朔水。」
その一言で、張り詰めていたものが少しだけほどけた。
朔水は恐る恐る、その大きな手を握る。
温かかった。
その温もりを感じながら、小さく頷く。
「……うん。」
こうして、孤児だった一人の少年は、新しい家族への第一歩を踏み出した。
車の窓から見える景色が、少しずつ変わっていく。
孤児院の周りにあった古い建物はなくなり、住宅街が広がっていた。
朔水は助手席に座り、小さなリュックを抱きしめている。
その中には、孤児院で使っていた絵本と、少し色あせたぬいぐるみだけが入っていた。
「疲れたか?」
運転席の恒一が優しく尋ねる。
朔水は首を横に振った。
「だいじょうぶ。」
「そうか。」
会話はそれだけだった。
けれど、不思議と気まずさはない。
静かな空気が、朔水には心地よかった。
赤信号で車が止まる。
恒一はふと朔水の方を見る。
「そうだ。」
「家にはもう一人いるんだ。」
「……?」
「朔水のお姉ちゃんになる子。」
「お姉ちゃん?」
「うん。」
「美月っていうんだ。」
「三つ年上でね。」
「少しおせっかいだけど、とても優しい子だよ。」
朔水は少しだけ考えた。
「……ぼくにも。」
「お姉ちゃん、できるの?」
「もちろん。」
「今日から家族だからね。」
その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなった。
家族。
まだ実感は湧かない。
それでも、「お姉ちゃん」という響きは、なんだかくすぐったかった。
十分ほど走ると、車は住宅街の一角で止まった。
二階建ての木造住宅。
庭には色とりどりの花が植えられ、小さな畑もある。
玄関の横には犬小屋。
中では茶色い柴犬が気持ちよさそうに昼寝をしていた。
「わぁ……。」
思わず声が漏れる。
「かわいい。」
柴犬は物音に気付いて顔を上げると、「わふっ」と一声鳴き、ゆっくり尻尾を振った。
「この子は、ポン。」
「もう十二歳だから、おじいちゃん犬なんだ。」
「ぽん。」
朔水はしゃがみ込み、恐る恐る手を差し出す。
ポンはくんくんと匂いを嗅ぐと、そのまま朔水の手をぺろりと舐めた。
「……!」
朔水の目が丸くなる。
「ぼく、気に入ってもらえたかな。」
恒一は嬉しそうに笑った。
「きっとそうだ。」
「ポンは人を見る目があるから。」
朔水はそっとポンの頭を撫でる。
ふわふわした毛並みが気持ちいい。
自然と口元が緩んだ。
その小さな笑顔を見て、恒一は安心したように息を吐いた。
「ただいま。」
玄関を開けると、家の奥から元気な声が聞こえてきた。
「おかえり、お父さん!」
パタパタと階段を駆け下りてきたのは、小学二年生くらいの女の子だった。
肩まで伸びた黒髪を揺らし、大きな瞳を輝かせている。
「あ!」
朔水を見るなり、目をぱっと丸くした。
「この子が朔水くん?」
恒一は頷く。
「そうだよ。」
「今日から一緒に暮らす家族だ。」
女の子は勢いよく朔水の前まで来る。
「初めまして!」
「狗久保美月です!」
「今日からお姉ちゃんだからね!」
元気いっぱいに右手を差し出す。
あまりの勢いに朔水は少し驚いてしまった。
「……。」
握っていいのだろうか。
戸惑っていると、美月は「あっ、ごめん!」と笑った。
「びっくりしたよね。」
「ゆっくりでいいよ。」
その笑顔があまりにも優しくて、朔水は恐る恐る手を重ねる。
小さな手と、小さな手。
「……朔水。」
「よろしく。」
「うん!」
「よろしくね!」
ぎゅっと握られた手は、とても温かかった。
「さぁ、ご飯にしよう。」
恒一がキッチンへ向かう。
「今日はね。」
「朔水が来るから頑張って作ったんだ。」
食卓に並んだのは、ハンバーグにポテトサラダ、コーンスープ。
そして、色鮮やかなサラダ。
美月は嬉しそうに席へ座る。
「いただきます!」
朔水はその様子を見つめる。
孤児院では大勢で食べていた。
でも、こうして誰かと向かい合って「家族」として食べるのは初めてだった。
恒一が微笑む。
「朔水も。」
「いただきます。」
少し照れながら、朔水も手を合わせる。
「……いただきます。」
一口、ハンバーグを食べる。
肉汁がじゅわっと広がる。
「……!」
思わず目を見開いた。
「おいしい?」
美月が身を乗り出す。
朔水は何度も頷いた。
「すごく。」
「おいしい。」
「ほんと?」
「やったぁ!」
まるで自分が褒められたように、美月は大喜びする。
「お父さんのハンバーグ、世界一なんだよ!」
「そんなに持ち上げるな。」
恒一は少し照れくさそうに笑った。
そのやり取りを見ていた朔水は、小さく笑う。
「ふふっ。」
その笑い声に、美月と恒一は同時に顔を見合わせた。
朔水が笑った。
今日会ったばかりなのに、もう笑ってくれた。
それだけで二人は胸がいっぱいになった。
食後。
恒一は二階へ案内する。
「ここが朔水の部屋。」
扉を開けると、小さな机とベッド、本棚が置かれた明るい部屋だった。
窓からは庭が見え、夕日が部屋を優しく照らしている。
「……ぼくの。」
「部屋?」
「そう。」
「今日から、ここがお前の部屋だ。」
朔水はゆっくり部屋を見渡した。
誰にも取られない机。
誰にも使われないベッド。
自分だけの場所。
胸の奥がじんわり温かくなる。
「ありがとう。」
その言葉を聞いた恒一は、優しく頭を撫でた。
「こちらこそ。」
「狗久保家へようこそ。」
その時、勢いよく扉が開く。
「朔水ー!」
美月だった。
「歯ブラシ買うの忘れてた!」
「明日、一緒に選びに行こう!」
「コップも!」
「パジャマも!」
「ぬいぐるみも増やそう!」
次々と話し始める美月に、朔水は少し困ったように笑う。
「……うん。」
「一緒に行く。」
「約束!」
「約束。」
美月は満足そうに笑うと、元気よく部屋を飛び出していった。
その後ろ姿を見送りながら、朔水は静かに窓の外を見る。
夕焼け空が、とても綺麗だった。
(ここが……。)
(ぼくの、おうち。)
その日、朔水は生まれて初めて、「帰る場所」ができたのだった。
朝日がカーテンの隙間から差し込み、小鳥のさえずりが静かな部屋に響く。
朔水はゆっくりと目を開けた。
見慣れない天井。
柔らかな布団。
木の香りがする部屋。
「……あ。」
昨日、狗久保家へ来たことを思い出す。
ベッドから降りると、窓を開けてみた。
朝の少しひんやりした風が頬を撫でる。
庭では柴犬のポンが気持ちよさそうに伸びをしていた。
「わふっ。」
朔水に気付くと、尻尾をゆっくり振る。
「おはよう。」
小さく手を振ると、ポンは嬉しそうにもう一度鳴いた。
その様子を見て、自然と笑みが浮かぶ。
その時だった。
「朔水ー!」
勢いよく扉が開く。
「おはよう!」
美月だった。
寝癖で少し跳ねた髪のまま、満面の笑みを浮かべている。
「よく眠れた?」
「……うん。」
「そっか!」
「じゃあ一緒に顔洗お!」
返事を待たずに朔水の手を引く。
「わっ……!」
慌ててついていく朔水を見て、美月は楽しそうに笑った。
「ふふっ、弟ができると毎日楽しい!」
洗面所では、恒一が朝食の準備をしていた。
フライパンからは香ばしい匂いが漂ってくる。
「おはよう、二人とも。」
「おはよう、お父さん!」
「……おはよう。」
「よく眠れたか?」
朔水は小さく頷く。
「うん。」
「それならよかった。」
食卓には焼きたてのトースト、スクランブルエッグ、サラダ、それに温かいコーンスープが並んでいた。
「いただきます!」
美月の元気な声につられ、朔水も手を合わせる。
「……いただきます。」
食事の途中、美月がふと思い出したように言った。
「そうだ!」
「今日は朔水のお買い物の日だよ!」
「お買い物?」
「うん!」
「歯ブラシもコップも、お洋服も選びに行くの!」
朔水は恒一を見る。
「……いいの?」
恒一は優しく微笑んだ。
「もちろん。」
「朔水が使うものだから、自分で選ぼう。」
「ぼくが?」
「そう。」
「遠慮しなくていい。」
その言葉に、朔水は少しだけ戸惑った。
今まで自分で何かを選ぶことなんて、ほとんどなかった。
孤児院では皆で同じものを使い、服も決められたものを着ていた。
「好きな色はあるか?」
恒一が尋ねる。
朔水は少し考えて答えた。
「……青。」
「じゃあ青いコップを探そう!」
美月が嬉しそうに笑う。
朝食を終えると、三人は近くのショッピングモールへ向かった。
休日ということもあり、館内は家族連れで賑わっている。
「まずは生活用品!」
美月が先頭を歩き、朔水はその後ろをついていく。
「これどう?」
青い歯ブラシ。
「こっちは?」
水色のコップ。
「タオルは?」
白地に小さな犬の刺繍が入ったもの。
朔水は一つひとつ手に取りながら、少し照れくさそうに笑う。
「……これ。」
犬の刺繍があるタオルを指差した。
「かわいい!」
美月も気に入ったようだ。
「じゃあ決まり!」
恒一は買い物かごへ入れながら言う。
「朔水が選んだものだから、大切に使おうな。」
「うん。」
その帰り道。
おもちゃ売り場の前で朔水の足が止まった。
棚の一番上。
そこには、小さな柴犬のぬいぐるみが並んでいた。
ポンによく似た顔。
優しそうな目。
「……。」
じっと見つめるだけで、手は伸ばさない。
美月はその視線に気付いた。
「欲しいの?」
朔水は慌てて首を横に振る。
「だ、大丈夫。」
「見てただけ。」
その言葉を聞いても、美月は何も言わなかった。
代わりに恒一の方を見る。
二人は小さく目を合わせた。
帰宅後。
「ただいまー!」
「わふっ!」
ポンが玄関まで出迎えてくれる。
買った荷物を片付けていると、美月が一つの紙袋を朔水へ差し出した。
「これ。」
「……?」
中を開ける。
そこには、さっき見ていた柴犬のぬいぐるみが入っていた。
朔水は目を大きく見開く。
「どうして……。」
「お父さんと相談したの。」
美月が少し照れくさそうに笑う。
「朔水、すごく見てたから。」
「今日から家族になった記念。」
「家族からのプレゼント!」
朔水はぬいぐるみをそっと抱きしめる。
胸が熱くなる。
こんなふうに誰かから贈り物をもらったのは、初めてだった。
「ありがとう……。」
声が少し震える。
恒一は優しく朔水の頭を撫でた。
「嬉しい時は、泣いてもいいんだ。」
その言葉を聞いた瞬間、朔水の目から涙がこぼれた。
ぽろぽろと止まらない涙。
「ご、ごめんなさい……。」
「謝らなくていい。」
恒一は穏やかに微笑む。
「家族なんだから。」
その言葉を聞き、美月も朔水をぎゅっと抱きしめた。
「いっぱい泣いて。」
「そのあといっぱい笑おう。」
朔水は二人の温もりを感じながら、小さく頷く。
「……うん。」
「ありがとう。」
その日の夜。
新しい青いコップ。
新しい歯ブラシ。
そして、枕元には柴犬のぬいぐるみ。
朔水はそれを抱きしめながら眠りにつく。
「おやすみ。」
誰に向けた言葉だったのか、自分でも分からなかった。
けれど、部屋の外から聞こえてきた二人の声が、その言葉に優しく応えてくれた。
「おやすみ、朔水。」
狗久保家で迎える、初めての夜は穏やかに更けていった。
チュン、チュン――。
窓の外から小鳥のさえずりが聞こえてくる。
狗久保家で迎える二日目の朝。
朔水は抱きしめた柴犬のぬいぐるみを見つめながら、小さく微笑んだ。
「……おはよう。」
昨日までなら、目を覚ましても「今日も一人だ」と思っていた。
でも今は違う。
階下から聞こえてくる食器の音。
誰かが歩く足音。
優しく響く笑い声。
それだけで胸が少し温かくなる。
コンコン。
「朔水、起きてる?」
美月の声だった。
「うん。」
返事をすると、ゆっくり扉が開く。
「おはよう!」
「今日はお天気いいよ!」
カーテンを開けると、青空がどこまでも広がっていた。
「朝ごはんできてるから、一緒に食べよ!」
「うん。」
二人は並んで階段を下りる。
リビングへ入ると、恒一がエプロン姿でフライパンを振っていた。
「おはよう。」
「よく眠れたか?」
「……うん。」
「ぬいぐるみ、一緒だった。」
「そうか。」
恒一は安心したように笑う。
「気に入ってもらえてよかった。」
食卓には焼き鮭にだし巻き卵、味噌汁、ご飯が並んでいた。
「いただきます!」
三人の声が重なる。
朔水は味噌汁を一口飲み、ほっと息をついた。
「おいしい……。」
「今日は和食にしてみたんだ。」
恒一は少し照れくさそうに笑う。
「毎日違うご飯を作るのがお父さんのこだわりなんだよ!」
美月が得意げに話す。
「だから飽きないの!」
「そうなの?」
「うん!」
「昨日はハンバーグだったでしょ?」
「今日はお魚!」
「明日は何かなぁ?」
「秘密だ。」
恒一が笑うと、美月は「えー!」と頬を膨らませた。
その様子がおかしくて、朔水は思わず笑ってしまう。
「ふふっ。」
その笑顔を見た二人も自然と笑顔になった。
朝食の後、恒一はリビングの机に大きな紙袋を置いた。
「朔水。」
「これは?」
「開けてごらん。」
中には新しい洋服が入っていた。
紺色のパーカー。
白いTシャツ。
動きやすそうなズボン。
そして青いスニーカー。
「……ぼくの?」
「もちろん。」
「もう少しで幼稚園にも通うだろう?」
「その準備だよ。」
朔水は服を胸に抱える。
新品の服。
誰かのお下がりではない。
自分のためだけに用意された服だった。
「ありがとう……。」
「着てみる?」
美月が目を輝かせる。
「うん。」
数分後。
着替え終えた朔水が部屋から出てくる。
「おぉ。」
恒一が思わず声を漏らした。
「似合ってる。」
「ほんと?」
朔水は少し照れたように服の裾をつまむ。
「すごく似合う!」
美月は朔水の周りを一周すると、満足そうに頷いた。
「もう立派な狗久保家の弟だね!」
その言葉に朔水は少しだけ目を伏せる。
「……ぼく。」
「ほんとに。」
「家族なの?」
その問いに、美月はきょとんとした。
「もちろんだよ?」
「でも……。」
「ぼく。」
「血、つながってない。」
リビングが静かになる。
恒一は朔水の前まで歩いてくると、ゆっくり膝をついた。
「朔水。」
「家族ってね。」
「血が繋がっていることだけじゃない。」
「一緒に笑って。」
「一緒に泣いて。」
「お互いを大切に思う。」
「それが家族なんだ。」
朔水はじっと恒一を見つめる。
「だから。」
「お前は今日から、私の息子だ。」
「美月の大切な弟だ。」
「遠慮なんてしなくていい。」
「嬉しい時は笑って。」
「悲しい時は泣いて。」
「困ったら頼っていい。」
「全部、お父さんとお姉ちゃんが受け止める。」
その言葉を聞いた朔水の目に涙が滲む。
「……お父さん。」
初めてだった。
「父さん」でも「先生」でもなく。
自然に「お父さん」と呼べた。
恒一は少し驚いたあと、嬉しそうに笑う。
「うん。」
「なんだ?」
美月は目元をこすりながら笑う。
「もう、朝から泣かせないでよ、お父さん。」
「美月も泣いてるじゃないか。」
「これは嬉し涙!」
三人は顔を見合わせて笑った。
その笑い声は、静かだった家に優しく響いていく。
窓の外では、庭の柴犬・ポンが尻尾を振りながら「わふっ」と一声鳴いた。
まるで、新しい家族の誕生を祝福するように。
こうして朔水は、「帰る家」と「お父さん」と「お姉ちゃん」を手に入れた。
それは、これから始まるたくさんの思い出の、かけがえのない第一歩だった。
コメント
1件
もう、最初っから涙腺崩壊したんだが?!😭💕 朔水くんの「…ぼくにもお姉ちゃんできるの?」ってところ、胸がぎゅーってなったよ…。 恒一さんの「家族は血の繋がりだけじゃない」って言葉も、美月ちゃんの元気で優しいお姉ちゃんっぷりも、全部が尊すぎて反則! ぬいぐるみもらって泣くシーンでは一緒に泣いたわ…。 ポンも含めて、この家族のあったかさが画面越しに伝わってきたよ🥺✨ 続きが待ちきれない〜!!