ー兵助ー
そう言ったはっちゃんの顔は、心底どうでもいいという言葉がピッタリの顔だった。
本人は気づいてないだろうが、はっちゃんは起きてから一度も表情が変わってない。
五年前、彼の過去を知ったと言ったときの顔と全く同じ無表情。
「……はっちゃんは、卒業と同時に連絡が取れなくなって、あの城跡で見つけるまで行方不明だったんだ。」
「……まぁ、そうだろうな。お前らの顔を見てればわかる。おそらく就職した先でこうなったんだろうな。」
また無表情。
「…おそらくだが、この火傷は過去を変えたことへの代償だろう。左手は動かせるし物も握れるけど、何も感じない。感覚がなくなった。という感じだな。左目も完全に見えない。」
「………。」
なんとも言えない空気が部屋中を包む。
「そんな顔するなよ。俺としてはお前らが生きてればそれで良いし。今日中には出てくからお前らは気にすんな。」
「…おい、今日中にでてくってなんだ。」
三郎の怒りを押し殺した声が空気をピリつかせる。
「だってお前らにはお前らのすることがあるだろ。毒は解毒薬飲んだし1週間もあれば元通り。左目は完全に見えないけど、今までも殆ど見えてない状態だったから忍びとしてはまだやってける。食事も干し肉一切れあれば3日は保つし何の問題もな」
「問題大アリだから!」
はっちゃんの声にかぶせて雷蔵が叫んだ。
「いい、八。僕らは4人でフリーとして動いてるから八のお世話何て全然できる。そして重症のお前をほっとくほど冷酷じゃない!むしろほっといたほうが仕事に影響が出る!八が強いのはよく分かってるけど、もう一人じゃないんだからもっと頼ってよ!」
「……。」
「左の字?」
雷蔵を見たまま何も言わないはっちゃんの顔を勘右衛門が覗き込もうとする。
「…頼るってなんだよ。」
「え?」
「この五年間、頼れる人なんていなかったし、頼ろうなんて考えたこともない。」
本当にわからない。そう言うはっちゃんは迷子のような目をした。
「じゃぁこれから知ればいい。」
「三郎、」
「…おかえり。八左ヱ門。」
「フッ、らしくないな三郎。…ただいま。」
はっちゃんはやっと笑った。
おかえり。
八左ヱ門。
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