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「ちゃんと避妊しろと言ったよな」

「意図的じゃなくて、つい失敗してしまったんだ」

「動画は? 意図的に撮影したんじゃなくて、ついうっかり撮影してしまったとでも?」

動画は持っているだけで、撮影したのは退学した生徒会役員の三人だ!――と言えるわけもなく、僕は沈黙するしかなかった。

「昼休みに話がある」

「すぐ終わる?」

「おまえ次第」

これは一発殴られるくらいでは済まないやつだ。

やっぱり彼女とは一度距離を置いた方がよさそうだ。彼女の過去の性遍歴は許せたとしても、中絶経験はそれとはまったく別物だ。生まれてくる命を摘み取ったという現実を簡単に受け入れられるほど、僕はドライな人間じゃない。だから産めばよかったのかといえば、そういうわけでもないのだけれど――

「ちょっと待って。悪い話ばかりでなくて、いい話もあるんだよ」

「どんな?」

「まだ彼氏にも言ってないから、そのあとで教えてあげる」

ということで、昼休み、リョータに呼ばれる前に別室で彼女の話を聞くことになった。彼女の話を聞いたあとで、しばらく距離を置きたいと僕から告げるつもりで。

「僕からも話がある。先に君の話を聞くよ」

「これを見てくれ」

彼女が取り出したのは妊娠検査薬。縦に二本ラインが浮き出ていたら陽性だっけ? で、縦に二本のラインが浮き出ている……

「妊娠したようなんだ。産んでいいか?」

金を出すから堕ろせと言ったら、陸と同類になってしまう。

「も、もちろん……」

「夏梅、ありがとう! で、夏梅の話ってのは?」

「いや、なんでもない。もうその話をする必要もなくなった」

「そうなのか」

彼女のようなビッチでない人と交際し結婚する人生もあっていいはずだ、彼女の父親の逆鱗に触れるならやつらのようにブラジル送りにされてもかまわない!

そこまで意気込んでこの場に来たけど、きっとこうなる運命だったのだろう。僕はクラゲ。波風立てず漂うように生きていくしかないのだ。

不思議と悲しくはなかった。フフフと笑ってしまったら、妊娠を喜んでいると誤解されて彼女にも喜ばれた。いや、喜ぶべきなんだ。彼女にはもう母親としての自覚があるのに、僕にはまだ父親としての自覚がない。夏休みは終わったのに、いきなり大きすぎる宿題を抱えさせられて、僕は途方に暮れていた。

【完】

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