高天中学校、転校1週間後。
秋野蓮斗は、複雑な状況に直面していた。
というのも、席替えで転校初日に告白し、あっさり断られた子の隣になってしまったのだ。
普通に気まずいし、諦めようとしても、どうしても惹かれてしまう。隣の席なんてもってのほかだ。
ガラガラ、と、1年3組の扉が開く。
「お、おはようございます」
「秋野おはよー」
「部活はもう決めたか!?バスケ部か!?」
「うん、おはよう…えっと部活は、き、今日にでも見学するよ。」
挨拶を返してくれたのは、席替え前、隣の席だった近藤くんと、ほぼ 毎日熱烈にバスケ部に勧誘してくる阿部くん。
バスケは未経験なのだが…部員不足らしい。
そんな彼らと少し話し、自分の席に着く。
「おはよう…本山さん。」
「おはよう、秋野くん。」
そう返してくれた彼女こそ、僕の一目惚れした初恋の人、本山ここね。
僕の挨拶に返事をしてくれた時、耳にかかっていた髪の毛が落ちて乱れ、少しだけ艶っぽく見えた。
あぁ、やっぱり可愛いな。制服姿以外見たことないけど、プライベートではどんな服を着ているんだろう。
もっと楽そうな、ポニーテールとかしてるのかな。
__あぁ、ダメだ。やはり本山さんと目を合わせると、こんな事ばかり考えてしまう。どうしたものか。
「秋野くん、秋野くん。」
「あっ、仲山さんと…中山くん。だよね。」
文面だけ見ればよく分からないだろうが、僕に話しかけてきたのは、女子の学級委員の仲山さんだ。後ろにいる、男子の学級委員の中山くんも。
「うん、そうだよ。仲山と、中山。」
「どうしたの?」
尋ねると、中山くんが答えてくれた。
「えーっと、今更っちゃ今更なんだけど、学校の中とか、クラスメイトの事とか、紹介しようかなって。」
「うん、ここ一週間、後期が始まったばかりで忙しかったんだけど。やっと時間が出来たから。」
仲山さんも補足として答えてくれる。
「あ、そうなんだ。じゃあ…頼もうかな。今日の中休みにでも。」
「そうだね、理科室とかはもう知ってるだろうけど。」
「じゃあ、2時間目が終わったらすぐ行こうか。詳しく説明したら、時間足りるか分からないし。」
「うん。ありがとう」
よかった。未だに迷うのが怖いから、教室から出る時はほぼ誰かに付きっきりだったんだよな。
本山さんの事に気が取られていたが、これも普通に困っていた。
そういえば10月。後期が始まったばかりだったか。それに転校が被るなんて、担任の佐々木先生含め教職は大変なんだな。
まぁ、それは置いといて。今日の中休みはあけておこう。
「では2時間目は終わり。チャイムがなる前までには席に付いておけよー」
「あー、やっと数学終わったー」
「柿Tまじウザいんだけどー」
「待ってノート提出明日じゃん!終わったわ」
中休みが始まり、クラスは騒がしくなる。
「じゃ、秋野くん。行こっか。」
仲山さんと中山くんが話しかけてきた。学校探検、割と楽しみだ。
「1年生は3階、2年生は2階、3年生は1階だよ。」
「理科室とか家庭科室とか移動教室系は1階に集まってるかな。職員室もね。」
「図書室とか、行かなくてもいいけどーって所は2階かな。その他は3階。」
「体育館は校舎とは離れてるから気を付けてね。」
「うん。分かった。ありがとう。」
学級委員の2人は、2人がかりで優しく丁寧に説明してくれる。途中で授業終わり、部活見学にも付き合ってくれる事になった。
「あ、1階のトイレは使わない方がいいよ。こう言ったらあれだけど、不良の人達とか、いるし…」
「あと、その怖い先輩に「1年が3年のトイレ使うな!」…って叱られる事があるの。1年のトイレとか3年のトイレとか無いけど。私もそう言われたんだ。」
「えぇっそうなの!?大丈夫だったの!?」
恐ろしい事実が投下された。そうか、問題児のたまり場となっているのか…気をつけよう。
それよりも仲山さんは怪我とかしなかったのだろうか。
「うん、大丈夫。中山くんが助けてくれたの。」
「ちょっ、あんまり言うなよっ」
中山くん、頬を赤くしています。
というか、まさかこの2人って……
「あの…2人ってもしかして、付き合ってたりする?」
「えぇっ!?なんで知ってるの?」
当たったようだ。
「いや、あの、2人ともいつも一緒に帰ってるでしょ?盗み聞きした訳じゃないんだけど、その時、「ゆうくん」とか「かなちゃん」とか、名前で呼んでたから」
「えーっ、聞かれてたの?やだぁ、恥ずかしいなぁ…」
仲山さん、赤面してしぼんでいます。
「あぁ…秋野くんだけには隠し通そうと思ったんだけどなぁ…」
口ぶりからして、2人が付き合っているのはクラスのみんなも知っているようだ。
「うぅ〜…ま、まぁ、その事はもういいから、学校紹介に戻ろう!」
「う、うん。」
「あ、なんか、ごめんね?」
中休みもそろそろ終わりそうな頃。
「よし、大体終わったかな」
「うん、あ、でも微妙に時間残ってるな。」
確かに。あと五分もない。これから何かをするのは無理だが、授業まで少し暇だ。
「あ、じゃあ他クラス見に行ってみる?外から覗いてみようよ。ちょっとだけなら、だれがどの部活か、分かるし。」
「確かに。それでいい?秋野くん」
「うん。」
確かに丁度いいな。……それに、本山さんが好きな、「藤沢澪」さんとやらも見れるかもしれないし。
「じゃあ、早速_」
仲山さんが、そう言った直後
「__じゃあ、今日も校門前で。 それじゃ、澪。また放課後でね。」
そんな低めで、でも可愛らしい穏やかな声が、僕の耳に飛び込んできた。
本山さんだ。本山さんの声。それに、「澪」と言わなかったか、彼女は。
「うん。分かった。じゃあね、ここ!」
今度は高い声。本山さんとは正反対のような声だ。まさか、この声の主が。
僕は必死に本山さんを探し、見つけた。本山さんの隣にいる、彼女がきっと。
「秋野くん?」
学級委員の2人の声は、もはや僕の耳には入ってこない。
「藤沢澪、さん…」
「_ん?見ない顔だけど、私の事呼びました?」
やはりそうだ。
藤沢澪。身長は低い。小学生と言われても通用する。145あたりか。
金髪にウェーブがかかった2つ結び。少し大きめの、ピンクのカーディガンを着た、幼い顔。それでいて美少女と呼べるだろう、可愛らしい顔の少女だ。
きっと、内面も素敵なんだろうな。
僕の目線を釘付けにした子は、内面すら良い方向に想像できてしまう程、本当に可愛らしい女の子だった。本山さんが惚れるのもうなずける。
本山さんのこと、諦めたい。諦められない。諦めたくない!
__でも、勝てるだろうか。こんな子に。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!