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「あー…疲れたー…」
そう言ってパソコンを閉じた。約一週間に渡るストリーマーサーバーへの参加。毎日、ほぼフル参加をしていたかざねは、酷使した手を解すべく反対の手で揉んだ。
敵の討伐に最も必須なのが連打。故にこの一週間、とんでもない数の連打をすることになった。お陰で腕はパンパンだし、肩まで痛くなる始末。しかしそれでも、大型サーバーへの参加は楽しかった。今迄交流することのなかった人達と共に戦ったのもいい思い出だ。話し掛けに行くのは中々と勇気が必要だったが、相手から声を掛けてくれたのがありがたかった。
何はともあれ、夏の大きなイベントは終了した。仕事はあるが、通常通りの業務へと戻るだろう。
「とりあえず飯食って寝るか」
日曜日の夕方から始まったサーバー最後の日は、日付を越えて予め決められていた時間に終了した。深夜に差し掛かったこの時刻は、昼夜逆転している時ならば活動するにはうってつけ。しかし流石に疲労困憊の為、何かしら作業をする気は起きない。
配信途中からの空腹を満たす為に、予め用意してあったカップスープに湯を注ぐ。軽く腹を満たせばそれで満足。と、なれば次に満たしたくなるのは睡眠欲。しかし寝る前に此の身体の疲労を癒すべく、湯舟にゆっくり浸かってからベッドに潜り込むのだった。
「……流石に寝すぎたか?」
ベッドに潜り込んだのは早朝に近い時刻。そして起床したのは時計がぐるりと一周した辺り。確かにかなり疲れてはいたのだが、中途覚醒もせずに此の時間まで寝こけるとは思っていなかった。そしてまだ少し寝ぼけた中でスマホを確認すると、しゅうとからメッセージが届いていることに気付く。
『着くの、二十二時くらいになるから』
「………そうだった!」
それを見て一気に記憶が蘇る。
数日前にしゅうとがかざねの元へと送ったメッセージ。誕生日を祝いたいから、休みが取れれば会いに行くというもの。直前にはなってしまったが無事に休みが確保できたと、そういえば言っていた。そして行ける時間は前日か当日に伝えると、そうも言っていたではないか。
時計を再度確認すれば、まだ時間はある。此処一週間程、配信に一日の大半を費やしていた為、来客を迎えるのならば急いで片付けをしなくてはならない。慌てて動き始めるかざねなのだった。
『後少しで着くよ』
そんなメッセージが届く。確認をしたかざねは、車の鍵を持って家を出る。
かざねの家から駅までは、歩けないことはないが多少距離がある。時間も時間ということもあり、車で迎えに行く。車社会の地域では当然のことだ。
「あ、かざね」
駅のロータリーに着くと、ベンチに腰を下ろしてしゅうとが待っていた。荷物で膨らんだリュックを手にしていたしゅうとは、かざねの姿を見ると嬉しそうに立ち上がる。
「お待たせ」
荷物を後部座席へと押し込み、しゅうとは助手席に座る。シートベルトをしっかりとしたことを確認した後に車を発車させた。
途中、コンビニに寄って少しばかりの買い物を済ませると家へと向かう。
「かざねの家に来るの、久し振りかも」
靴を脱ぎ、リビングへと足を運んだしゅうとはそう嬉しそうに言う。何時もはかざねがメンバーに会いに都内まで来る方で、こうして逆になるのは珍しい。しかし今回はかざねの誕生日だからと、足を運びたいとしゅうとの願いに応えた結果となる。
「わざわざ来てくれなくても、って思ったけど嬉しいもんだな」
ソファに隣同士で座り、そう言うかざねにしゅうとは嬉しそうに笑う。こうして来たことが迷惑でないか心配をしたが、杞憂に終わったようだった。
「とりあえず風呂入ろ。仕事終わってすぐに新幹線乗って来てくれたんだろ?」
「ありがと」
寛ぐにしろ、風呂には入った方がいい。勧められるが侭にしゅうとは風呂へと消える。その後ろを追ってかざねも風呂場へと向かった。
「…二人きりっていいね」
湯舟に沈みながらしゅうとが言う。特別な何かをする訳ではなく、日常の一幕を共有する。毎日入っている風呂なのに、二人一緒というだけで特別に感じられた。
「そうだな」
抱き抱えるようにして密着する。腹に手を回し、首筋に額をぐりぐりと押し当てる。水に濡れた髪が当たってしゅうとはくすぐったそうにするものの、無碍にしたりはしない。何時もは遠く離れて暮らす者同士、共にいれる時にはこうして体温を分かち合う。
風呂から出て互いに髪を乾かし合い、ソファで肩を触れ合わせながら近況を話す。一緒のグループで活動している為、週に何度も通話を繋ぐことはある。それとは別に、特別な関係を築いている者同士、二人だけで通話をすることもあった。しかし遠距離恋愛をしている為、温度を感じれる機会は少ない。故にこうした時間はとても貴重なのだ。
「ねえ、かざね」
「ん?」
不意にしゅうとが彼の名を呼ぶ。優しく返事を返せば、隣にいたしゅうとがごそごそと動いた。彼の好きにさせていればソファに座るかざねの脚の上に、向かい合うようにして跨る。
「可愛いことしてくれんじゃん」
「だってそれは…そろそろ時間だしね」
ちらりと時計に視線を落とす。そしてその秒針が、てっぺんを捉えた。
「かざね、誕生日おめでとう」
目を見て、真っすぐに。そう伝えれば、彼は目を細めて嬉しそうに、愛おしそうに言った。
「ありがとう」
誰よりも先に祝ってくれた愛しい人。この言葉を直接届ける為に、わざわざ此処まで足を運んでくれた。その事実が嬉しくて、嬉しくて。
柔らかく笑みを浮かべたしゅうとが首に腕を回す。唇に触れた温度。
「……俺からするのって、なんか照れくさいな」
「レアなもんもらっちまったな」
「そうだね」
机の上に置いたかざねのスマホからは、ひっきりなしに通知が鳴っている。家族に友人にとたくさんの人達からの祝いの言葉だろう。今頃、ファン達からもたくさんの祝いの言葉がタグ付けされて溢れている筈だ。
「SNSの方、アップした方がいいんじゃない?」
「そうだな、やっとくか」
渡されたスマホ。操作をしてアップをすると、すかさずしゅうとがコメントを付ける。
「はやっ」
「そりゃあ一番は俺の特権だもの」
くすくすと笑いながら、自分にしかない権利を主張するしゅうと。しゅうとがコメントを付けてすぐ、今度はりもこんからも祝いの言葉が付けられる。きっとどこかでふうはやも書いてくれるだろう。
ついでとばかりに軽くタイムラインを見てみるとトレンドニュースに上がっていたり、タグ付けされたたくさんのファンからの祝いの言葉が並んでいた。
「いっぱい祝福されてるね」
「そうだな。いやー、本当にありがたい」
「そうだね。でも、さ」
一緒に覗き込んでいたスマホをそっと取り、しゅうとは机の上へと戻す。かざねの膝の上に座っている態勢はそのままに、再び彼に抱き着く。
「今は、俺からの祝福だけを受け取ってほしい」
「ふふ、いいぜ。そんな可愛いこと言われたらさ、叶えてあげることしか出来ないじゃん」
再び降りてきた唇を享受する。それは幸せで溢れた、優しい優しいもの。
「……なあ、そろそろベッド行かない?」
「いいよ」
愛しい人を抱き抱え、二人でベッドに沈む。離さないとばかりに強く抱きしめ合い、そして互いだけの世界を構築する。深く、深く沈み込んで互いの愛の重さと大きさを確認し合うのだった。
「……おはよ」
目が醒めたのは、朝の時間もとうに過ぎた時刻。昨夜は何時に寝たのかもわからない程に、互いに溺れて沈んでいった。しゅうとが目を開けると、隣には愛しそうに見つめているかざねがいた。
「おはよ。可愛い寝顔だった」
「何でそんな眺めてたのさ。起こしてよ」
「幸せそうに寝てるのを起こすなんて俺には出来ないよ」
「もー…」
二人してもそもそと起き上がり、リビングへと移動する。これからどうしようか、とかざねが尋ねると行きたい店があるから連れて行ってほしいとしゅうとが言う。その店は此処から少し離れた場所にある為、車を出してほしいと。
そのお願いを了承し、出かける為に身支度を整える。こんな昼間に外出するなど、かざねにとっては珍しいこと。常は寝ているかまだ作業をしているか。社会人を営むしゅうとは規則正しい生活を送っているが、時間の使い方に猶予のある配信者などこんなものだ。
「外が眩しい…」
「どんだけ昼間に外出てないの」
まるで夜行性の動物のようなことを言うかざねに思わず笑ってしまった。少しばかりむすっとした彼をなだめすかし、しゅうとは助手席へと乗り込む。スマホを片手にナビゲートをし、目的の場所へと誘導した。そして走ること暫し。目的の店に到着する。
「予約していた者ですが…」
入店するとしゅうとが予約していた旨を店員に伝える。通された場所は隅の方にある席で。しゅうとによると、平日でも満席になるくらい人気のカフェだとのこと。
「かざね、あんまりご飯食べないじゃん。だから、ってのもあるけど一緒に美味しいねって言いたくて」
メニュー表を見ながら、互いに注文するものを決める。時刻は昼よりほんの少し前。
しゅうとによると、この店は基本的にコース料理しかないとのこと。その中でアラカルトとメイン料理、デザートを数種類の中から選ぶらしい。
何やらおしゃれな名前の料理からそれぞれ選び、注文する。少ししてきたアラカルト。そしてメイン料理。余り重たくないものを選んだが、結構な量のものが出てきた。
「食いきれない分、頼んだ」
「分かった。でも、流石にもう少し食べたら?」
相変わらず少食なかざねと、たくさん食べるしゅうと。何時もの光景。しかし何時もと違うお洒落な店。なんだかそれが特別で、少しばかりくすぐったかった。
「さて、これは夜のお楽しみです」
料理に舌鼓を打ち、お会計を済ませようとした際に店員が店の奥から何やら箱を持ってくる。手を伸ばしてしゅうとが受け取ったことから、彼が用意したのだと知る。形状とサイズ的に中身が何かすぐに分かる。
にこにことしながら受け取るしゅうと。彼のお楽しみ、という言葉に思わずかざねも柔らかく笑っていた。
「はー…いい一日だった」
「そう言ってもらえて俺は嬉しいよ」
ランチ後は買い物へと赴き、誕生日プレゼントを買ってもらった。そして夜にしゅうとが注文してあった箱を開ける。中身は予想の通り、バースデーケーキだった。そしてそのタイミングでふうはやから着信が入る。カメラを起動させると、写り込んだのはふうはやとりもこん。直接祝いには行けなかったが、全員で誕生日を祝う為に来たとのことだった。
二人にも祝福され、今は再びしゅうとと二人の時間を過ごす。非常に充実した一日だったことを言えば、しゅうとは嬉しそうに笑った。
「かざね、産まれてきてくれてありがとう」
再び、重ねられた唇。互いの身体に腕を回し、ぎゅっと抱き着く。感じる体温に、心臓の鼓動。それに共にいることを実感する。
「俺こそ、祝ってくれてありがとな」
目を真っすぐに見て感謝の言葉を告げる。
「俺、今すごく幸せだよ」
「ねえ」
「なあ」
「「愛してる」」
コメント
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お疲れさま、かざね。しゅうとがわざわざ誕生日を祝うために遠距離から来てくれるって、めちゃくちゃ愛されてるなあって思ったよ。二人きりの風呂で「いいね」って言うとことか、0時ちょうどに目を見て「おめでとう」って伝えるシーンがすごく温かくて、こっちまでほっこりした。TL作品だけど、日常の大事な一瞬を切り取ったような優しい空気が好きだな。「産まれてきてくれてありがとう」って言葉、すごく響いた。