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10
Ⅲ
昨日は、なんとか上峰さんを見つけられたそうだ。
というより、
帰ってきたそうだ。
上峰さんも苦しんでいるのだろう。
今日は休むとのことで、
今日も如月さんと島田さんと岡野さんと5人で見回りをすることになった。
今日は、剣士署周りの見回りか…
すぐ近くだ。
とにかく、見てまわろう。
『これからはこのみんなで、あと上峰くんと6人で見回りをすることになるのかな。』
島田さんが言った。
『そうなるかもしれないけど、前より1隊分足りてない状態だろ?それって大丈夫なのか?』
そうだ、
今は人手不足だった。
怪我人が戻ってきても、3人も足りないことになる。
あ、そうだった。
『あの、そのことなんですけど。』
皆が、僕の方を見た。
まだ新人である僕に、こんなことを提案する資格があるだろうか?
『あの、じょ…』
『アンタたち剣士か?』
と、
誰かに声をかけられた。
声のした方を見ると、女性が1人立っていた。
『はい、私たちは剣士です。何かお困りごとでもありましたか?』
島田さんが優しく、そう言った。
『そうね、困ってるわ。アンタたちにね!』
だが、
なぜか、僕たちに怒っているようだった。
特に何も迷惑をかけた覚えはない。
じゃあ、なぜ?
『えぇと、私たちに困っているのですか?』
島田さんも、わかっていないみたいだ。
きっと、皆がわかっていないだろう。
『アンタたちが、剣を持ってうろうろと歩き回っているのが迷惑なのよ!』
剣を持っていることが迷惑ということだろうか。
嫌な予感がする。
-『犯罪を犯しておいて助けたと?それを、周りの人が見た時、どう思われるのかを考えたことはあるか?』
『もし、お前の近くで誰かが武器を持ち、戦っていたら、お前はどう思う?お前は人狼だからわかりにくいかもしれない。だが、普通の人は怖いと思うんだ。お前が、誰かを守るために戦っていると、誰がわかる?お前を信用できると、誰が思う?』-
鬼塚さんの言葉を思い出す。
剣士だけ武器を持ち、歩き回る。
それは、周りからしたら怖いことなのかもしれない。
『アンタたちがいると安心できないわ!剣士なんてなくなればいいのよ!』
信用されてないんだろう。
『私たちは皆様を守るために、この剣を持って戦うのです。平和であり続け…』
『平和であり続けるため?そんなものを持っていて?ありえない。そんなものを持って平和のためだなんてよく言えたわね!他がどうやって平和を守っているのかわかってる?剣を持っているのなんてここくらいしかないわよ!』
警察は剣を持ってはいないんだろう。
なら、その通りかもしれない。
でも、
『人を助けるためなら仕方ないことだろ?ここは治安があまりよくないんだ。それなのに、剣を使わずに戦うのは危険すぎると…』
『そんなのはただの言い訳よ!警察として、剣を使わずに守りなさいよ!他の都道府県、どこを見てもそんな武器を振り回す警察なんて見たことないわ!剣なんて必要ないでしょ!』
・・・
剣士の皆が黙ってしまった。
僕もそうだ。
何も言えなかった。
なぜ、剣士という職業ができたのかもわからない。
『昔、多くの警察官が人狼により殺された。それに対抗するためには剣が必要だったため、剣士となり、剣を持つことが義務となった。多くの人を守るためなら、この島で、剣士が剣を持つことは許されている。』
『そんなのは勝手ね!私たちは認めてないわ!それに、なぜその人狼が剣士としてそこにいるの?意味がわからないわ!こんな人たちを信用できるわけないでしょ!』
警察が剣士になったのは、人狼のせい?
なら、僕たちは…
なぜ、剣士に入れてくれた?
『人狼ってだけで人を傷つけると決まったわけじゃない!俺も銅2人も、皆を守りたぃ…』
『アンタの言葉なんて信用できないのよ!人狼なんて、存在するだけで危険なのよ!私たちはアンタたちのせいで怖い思いをしているのよ!』
なら、どうすればいい?
存在するだけで怖がられるなら、どうしろと?
『人狼は皆刑務所にでも入れて、残りは警察として剣を持たずに見回りでもしてなさい!』
聞き捨てならない言葉。
もう、いやだ。
『人狼を皆悪者扱いしないでください!僕たちだって、人を助けたいと思うことはあります。人狼にしかできないことだってあると思います。人狼を怖いと思う気持ちは少しくらいならわかります。でも…』
『何も知らないくせに、勝手なことを言わないで!アンタたちも剣を持っているのはなんでなの?どうせ、どんな時でも剣を持って脅して傷つけて、そんなことをしてるんでしょ?そんなのは悪者よ!』
『そんな簡単に人を傷つけるようなことはしていません。皆を守るための盾として使うことがほとんどです。どうしようもない時くらいしか傷はつけないようにしています。』
最近は特に、意識していることだ。
昨日だって、傷つけることは避けたんだ。
『そうだ!みんなは守りたいから戦うんだ!それなのに、簡単に傷つけるわけない!それは、勝手に決めつけているだけだ。』
如月さんも言う。
『どうせ嘘でしょ?人狼は嘘ばかり言うのね。やっぱり名前の通り嘘つきなんだね!』
だけど、届かない。
その時、
僕の中で、何かが切れた気がした。
いつまでも、悪者扱いされるのはごめんだ。
苦しみ続けるのはもう、嫌だ!
『傷をつけたのは人狼だけじゃない。僕も、この子も、ずっと!人狼だと言われていじめられたんだよ!僕たちは悪いことをしてないのに、この子が死にたくなるほど苦しんだよ!この子は人が怖くなったんだよ!なのになんなんだよ!勝手に悪者扱いしないでくれよ‼︎』
琥珀さんはたくさん苦しんだんだよ。
君たち以上に辛いんだよ。
僕からしたら、君たち普通の人間の方が怖いと思うよ。
『つまらない冗談ね。傷つくのは全てアンタたちのせいなのよ。自業自得じゃない。それなのに人のせいにして、最低ね。』
女は、僕を見下すように言った。
『それはいくらなんでも酷いと思いますよ。人狼だって悪い人ばかりではないし、普通の人間だって、悪い人はいる。なのに、人狼だけ悪者扱いするのは良くないと思いますよ。』
島田さんも庇ってくれた。
『そ、そうですよ。みんなで仲良くした方がいいと思いますよ。』
岡野さんまで、
『皆、そっちの味方なのね。やっぱり、剣士って人の心なんかないんだわ!』
女の手に、
ナイフ!
『アンタたちは剣があるでしょ?これで平等よ!いや、剣の方が大きいわね、人数も多いし。』
『なら、武器は使わない!』
ここで証明してやる!
簡単に人を傷つけないと!
女がナイフを振り回す。
僕は一歩前に出る。
ナイフがこちらに向かってくる。
っ!
グサリ、
僕はナイフの刃を持ち、止める。
手から血が出てくる。
『うっ!』
押し返す。
女は少し離れたが、また向かってくる。
『それがあなたの答えか?』
スッ!
ナイフが首元で止まった。
『これが、私が感じた恐怖よ!』
『あなたに、剣を向けたことはない。傷をつけた覚えもない。』
『っ!』
『そうだろ?』
僕の首元から、ナイフが離れる。
『怖がらせたのならすまない。でも僕は、剣士を続ける。剣を持って、戦う。全ては、平和のために。』
僕は決めたんだ。
強くなって、みんなを守ると。
『悪かったわね、やりすぎたわ…』
まだ、納得はしていないんだろう。
仕方ない。
剣を持っていることも、人狼の力も、皆が待てるわけではない。
特別な力は、怖いだろう。
だからせめて、
良いことのために使おう。
皆のために使おう。
11
午前の見回りは終わった。
『いたああい!』
手の傷に消毒液をかけられる。
かなーりしみる。
『まーたむちゃしたんだって?』
傷の処置をしてくれている、花咲.春奈[ハナサキ.ハルナ]さんが言った。
防衛剣士隊の中で、唯一の女性だ。
花咲さんは、怪我をした剣士の傷の手当てをする剣士事務治療隊の1人だ。
『こうするしか良い方法が思いつかなかったんできゃあああ!』
痛いよ!
包帯を雑に巻かれた。
『全く。事務仕事が大変だと言うのに、アタシの仕事が増えるじゃん。』
これも仕事じゃん。
『気がついたらナイフの刃を掴んでて…』
苦笑いするしかできない。
『はぁー、なんでそこで掴むかなぁそこでぇー。人狼って頭がいいんじゃないの?バカなの?』
ひどい。
『でも、昨日も今日も甘太郎の手柄じゃん。新人なのに、結構やるねー。』
『あ、あはははは…』
甘太郎って誰だよ。
はぁ、
『へーい、終わったぞー。』
雑だと思ってたけど、綺麗に包帯が巻かれていた。
『ありがとうございました。』
そう言って、花咲さんと別れる。
昼食を食べて、午後の時間まで休む。
『銅、怪我は大丈夫なのか?』
如月さんが声をかけてきた。
『はい、もう大丈夫です。』
包帯が巻かれた手を見せて言った。
『まったく、無茶するなー。』
『あはは、花咲さんにも言われました…』
『だろうな。』
如月さんが笑った。
『今日、なんか怒ってたな。』
『まあね。あんなこと言われたから、怒っちゃってね、あははは…』
『まあ、俺もキレそうだったしな。銅2人組も辛いことがあったんだな。まぁ、人狼ってそんなもんか…』
如月さんは窓越しに空を見ていた。
どこか寂しそうだ。
『そういえば、如月さんと初めて会ったのはここでしたね。』
『あぁ、そうだったな!まさかここで会えると思ってなくて興奮してたなぁー。あん時、剣を向けてすまんかったな。』
あの時はびっくりしたな。
危険な人かと思ったくらいだ。
でも、
『大丈夫ですよ。』
僕はそれだけを言った。
『あ、今日の朝さ、なんか言おうとしてなかったか?』
『え?』
何のことだろう?
思い出せない。
『今、1隊分足りてないって話で…』
あ、
あのことか、
思い出した。
『えっと、今の剣士って、女性はいないですよね?』
『ああ、治療隊として花咲さんがいるくらいだな。あとはお隣の琥珀くらいか。まぁ、まず女性は剣士にはなれないからな。』
やっぱりか。
『それがどうかしたのか?』
『女性でも、剣士になれるようにはならないかなって。今、人手不足なら女性でもなれるようにすればいいんじゃないかなって思ったんです。』
『ほぉ〜、琥珀がいるというのに、まだ女性に囲まれたいのかぁ?』
如月さんがイタズラっぽい顔で言った。
『ち、違うよ!ただ、剣士になりたいっていう女性がいて、その…』
『なるほどな、なんとなくわかったぜ。その人を剣士に入れたいのか。鬼塚様に相談してみればいいんじゃないか?すでに、18歳以下の銅が入れたんだからなんとかなるんじゃないか?』
うーん、
『ありがとうございます、訊いてみます。』
今からは間に合わないか。
午後が終わってからかな。
でも、今日は早く行かないとな。
12
午後が無事終わった。
さて、
行くか…
なんか怖いな。
新人がでしゃばっていいのだろうか?
事務所に向かう。
ここにいらっしゃるかな、
扉をノックする。
中から声が聞こえてきた。
『あ、申し訳ございません。鬼塚さんはいらっしゃいます…』
鬼塚さんがいた。
『どうした、スマホのことか?』
鬼塚さんがこちらにくる。
『あぁ、えっと。今回は別の要件です…』
『そうか、何かあったのか?』
緊張するな…
がんばれ僕!
僕は自分の頬を叩く。
よし!
『あの、ええと。今の剣士って人手不足だったりしますか?』
『まぁ、この前の騒動で3人が死んで、3人が大怪我をしたからな。その3人も、あと上峰も剣士を辞めるかもしれない。そうなれば、かなり人手不足だな。』
え、
3人と上峰さんが辞めるかもしれない?
思っていたより、深刻な状態みたいだ。
『それで?』
あ、あぁ…
言わないと、
『その、新人である僕が言うことではないと思いますが…女性を剣士として入れることはで、できませんか?』
頭の中がほぼ真っ白になっている。
『女性が剣士か、まぁ認めてもいいぞ。』
あれ?
あっさりと認めてくれたみたいだ。
『昔から決められた謎なルールだからな、今の状況じゃ仕方ないだろう。あと、琥珀もいるしな。』
『ありがとうございます。』
僕は頭を下げた。
『もうすでに、いくつかのルールを破ってるからな。人狼を入れたり、18歳以下の人を入れたり、』
・・・
人狼も、認められていなかったんだ…
『すみません…ぅぅっ〜』
剣士には如月さんと琥珀さんと僕の3人しか人狼がいないのも、そういうことか…
『以上か?』
『はい。』
『なら、これ。』
?
鬼塚さんから、一枚の封筒を渡された。
『これは…』
なんだろう。
『給料だ。』
『え?』
き、ききき、給料‼︎
『あ、ああありがとうございますっ‼︎』
僕は頭を下げた。
鬼塚さんはそれだけ渡した後、戻っていった。
初めての給料…
なんか怖い。
あ、そうだ。
早く行かなきゃな。
13
そして、
『やほー甘師匠!』
桜乃さんが待っていた。
『お待たせしました。』
今日は、
攻撃された時の守り方を教える。
『目を閉じたらダメですよ。しっかり、相手の動きを見てくださいね。』
少しずつ、防御の方も上手くなってきた。
これはどうだ?
『やぁ!』
こうなら?
『はあ!』
僕の攻撃をほとんど防いだ。
まだ、ゆっくりではあるけど。
前より、確実に防げている。
『銅師匠!銅師匠はどうやってそんなに強くなったんですか?』
僕は強いのだろうか?
僕は、
『痛いのは嫌だからこそ、自分を守ろうとしてるって感じかな。とにかく相手の動きを見てどう動いてくるか、どう動けばいいかを予想しながら動くようにしてますね。』
もちろん、僕だって怖いとは思う。
だけど、怖がっていたらダメだ。
『なるほど〜』
桜乃さんがメモを取っていた。
『もう暗くなってきたから、今日はこれくらいにしようか。』
『はい!甘師匠!ありがとうございました!』
桜乃さんは最後まで元気そうだった。
そうだ、
『桜乃さん、』
『どーしたんですか!甘師匠!』
『女性でも剣士になれるようお願いしたら、認めると言ってましたよ。桜乃さん、剣士に…』
『ええ‼︎ほんとですか‼︎なりますなります‼︎』
今までで一番元気だった。
良かった。
言った甲斐があった。
『ありがとうございます!甘師匠!』
ははは、
『明日…は休みか。だから、明後日から行きます?』
『行く‼︎』
とのことで、
明後日、桜乃さんを連れて行くことになった。
桜乃さんと別れ、家に向かって歩く。
また、レインはいるのだろうか。
でも、今日は現れなかった。
家に帰る。
はぁ〜
まだ、手が痛い。
桜乃さんのところでちょっと無理したからなぁ。
琥珀さんと夕食を食べる。
今日は、生姜焼きだ。
うん、美味しい。
初めて会った時は張り切りすぎてしまったみたいだけど、琥珀さんの作る料理はどれも美味しかった。
『いてぇー』
だけど、ちょっと食べづらい。
怪我は左手、利き手ではないけど皿を持つのが難しいな。
『甘ちゃん、あーん、』
琥珀さんにあーんをされる。
恥ずかしいけど琥珀さんしか見てないし、ありがたい。
今日は仕方ないな。
琥珀さんに、少し食べさせてもらった…
問題はお風呂だなぁ、
大丈夫かな。
肩の傷はだいぶ治ってきた。
そう喜んでたのに…
『う〜‼︎』
痛い。
あの時、ちょっと力を入れて握り締めすぎたなと後悔したのだった。
お風呂を出て、あとは眠るだけ。
『甘ちゃん、お風呂ですごく痛そうだったけど、おてて大丈夫?』
琥珀さんに心配かけてしまった。
『大丈夫だよ。』
まぁ、肩を痛めた時よりは全然マシだ。
だけど、
今は包帯を外している。
風呂に入ったあとだし、あの時はまだ出血してたし。
今はもう止まった。
『絆創膏いる?』
あぁ、どうしようかな。
夜中にまた出血したら嫌だしなぁ。
『あぁぁ、お願いしてもいいかな?』
琥珀さんが絆創膏を持ってきた。
わあ!
ピンク色の絆創膏だ!
え?
『はい甘ちゃん、貼るね?』
ぺたり、
なんとも可愛らしい絆創膏が4枚も貼られた。
『えへへ、かわいい♡』
琥珀さんは嬉しそうだった。
まあ、いいか?
さて、明日はどうしようかな。
まぁ、明日のことは明日考えよう。
寝よう。
電気を消して、ベッドに寝転がる。
琥珀さんが隣に。
『今日もぎゅってしてねよ?』
琥珀さんが甘い声で言った。
琥珀さんが抱きしめてくる。
なぜか、安心した。
14
Ⅳ
『今日は何する?』
琥珀さんが訊いてくる。
『うーん、』
今日は何をしよう。
行ったことのない場所とかあるかな、
あ、
スマホで調べてみよう。
僕はスマホを取り出して、島内で楽しめそうな場所がないかを調べてみる。
『そうだなぁ、』
島だし、移動方法も限られるので行く場所も限られる。
島だから、楽しめそうな場所は少ないな。
なら、
『ここはどうかな?』
島らしく、綺麗な自然を見て見るのはどうだろうか。
『わぁ、きれい!』
琥珀さんが目を輝かせる。
どうやら気に入ってくれたみたいだ。
バスを降りて歩いて、そして着いたのは、
滝だ。
島で最も大きくて、自然に囲まれている滝。 綺麗だった。
崖の上から落ちてくる水の音、鳥の鳴き声、葉っぱの擦れる音。
どれも美しい。
まだ3月だからということもあってか、周りには人がいない。
スマホを取り出す。
そして、写真を撮る。
本当に綺麗だなぁ。
琥珀さんも、写真を撮っていた。
あ、そうだ。
スマホなら、
『琥珀さん、一緒に写真撮ってもいいかな?』
『うん、』
琥珀さんが頷く。
僕は、琥珀さんの隣に立つ。
えっと確か、こうすれば…
内カメになる。
よし、
滝も映るように、
『撮るよ〜』
カシャッ!
初めて、琥珀さんと僕のツーショット写真が撮れた。
『琥珀も撮っていい?』
『うん、いいよ。』
琥珀さんも、自分のスマホで写真を撮る。
カシャッ!
『ありがと、甘ちゃん』
琥珀さんは笑顔だった。
嬉しそうだ。
次は、
あそこ…
あそこを通れば、滝の裏側に行けるかも。
『あっちに行ってみない?』
琥珀さんは頷く。
行ってみよう。
近づくと、かなり迫力ある。
水飛沫が上がっており、涼しい。
というより、
寒い。
夏ならいいんだろうけど…
元々、ここは木に囲まれているので影になっている。
だけど、
すごいな。
滝を裏から見れる。
なかなか体験できないだろう。
でも、やっぱり寒い。
戻ろう。
15
次は、
エメラルドグリーンの海、
真っ白な砂浜。
と、まではいかない。
でも、綺麗だ。
こっち側は特に綺麗な気がする。
とは言っても、
まだ春だからな。
海に入るのはまだ早い。
見るだけ。
でもいい。
綺麗なものを見るだけで、気分が落ち着く。
琥珀さんが、身体を寄せてくる。
『写真、撮る?』
『うん、撮る。』
何枚か、写真を撮って、
『あ、ヤドカリさんだ、』
琥珀さんが、何かを見つけたようだ。
ヤドカリか、
見たことあったかな…
滝もそうだけど、見たことがないものがまだたくさんある。
琥珀さんが、綺麗な貝殻を見せてくる。
と、
中から何かが出てきた。
『な、なんだこれ!』
『ヤドカリさんだよ?』
これがヤドカリか…
よく見れば、かわいいけど…
びっくりした。
貝殻の中にいるのか?
砂浜を見てみると、
綺麗な貝殻がたくさんあった。
下を見ながら、歩いてみる。
琥珀さんも、着いてくる。
?
コレは?
青透明な何かが落ちていた。
なんだろう?
普通の石ではなさそう。
平べったい。
スマホで、調べてみよう。
なんて調べたらいいんだ?
なんとなくで調べてみる。
うーん、
出てこな…
ふと、それらしきものが出てきた。
『シーグラス?』
シーグラスと調べてみると、
間違いなくこれだ。
どうやら、割れたビンなどのガラス片が波によって削れて丸っこくなったものらしい。
つまり、削れたガラス片。
でも、
アートやアクセサリーなどで使われることもあるようだ。
こんな使い方があるのか、
周りを見てみる。
緑色のシーグラスも見つけた。
ちょこちょこ落ちていた。
見つけたものを全て取っていく。
琥珀さんも見つけてくれたみたいで、両手でも持ちきれないくらい拾った。
うーん、
どうしよう…
両手が塞がってしまった。
あ、
あそこにコンビニがある。
『琥珀さん、コンビニにで袋をもらおう。』
あそこで何かを買って、袋をもらってこよう。
集めたシーグラスをわかりやすいところに置いて、コンビニへ行く。
そして、飲み物を買う。
なんとか袋を手に入れた。
先ほどのシーグラスを、袋に入れる。
青色や緑色の他に、茶色や透明のシーグラスもあった。
『この貝殻、きれいだなぁ、』
一部、綺麗な貝殻も入れていく。
『もう、これくらいあればいいかな。』
コレで、何かオシャレな何かを作れるかな?
どうだろうか。
16
もうお昼か、
お昼ご飯はどこで食べようかな。
こっちの方は、お店が少ない。
さっきのコンビニか、
スマホで調べてみると、
近くに、ファミレスがある。
『お昼は近くにファミレスがあるけど、そこでいいかな?』
琥珀さんに訊いてみる。
『うん、大丈夫だよ、』
琥珀さんは笑顔で言った。
琥珀さんと手を繋いで少し歩くと、
そのファミレスが見えてきた。
琥珀さんと、ファミレスに入る。
何を食べようかな、
僕はハンバーグステーキにしよう。
注文して、届いたハンバーグを食べる。
午後は何をしようかな、
そうだ、
もう少し先へ進めば、水族館の近くに行けるはず。
あそこら辺は、おしゃれなお店がたくさんあった。
琥珀さんも行ってみたいと言ってくれたので、試しに言ってみよう。
1つのお店に入ってみる。
そこは、アクセサリーショップだった。
シーグラスを使ったアクセサリーも売っていた。
色々見ていく。
と、
綺麗なネックレスがあった。
琥珀さんに似合いそう。
でも、
琥珀さんは今も、ネックレスをつけていた。
綺麗な銅色のネックレス。
そういえば琥珀さん、寝る時もつけていたような…
そんなに大事なんだろうか。
『どうしたの?琥珀の胸に何かある?』
『いや、なんでもないです。』
『もしかして…』
『違います!』
見ているのをバレてしまった。
いや、胸は見てないけど、
『このネックレス?』
琥珀さんが、僕の前にあるネックレスを見て言う。
琥珀さんに似合うかなと思っていたものだ。
『でも今、このネックレスがあるから…』
まぁ、そうだよね。
チラッ
失礼ではあるけど、一部塗装が剥げており古そうだった。
『琥珀さんはそのネックレス、大切にしてるみたいだね。』
『うん。ずっと大切にしてるの。』
琥珀さんが、ネックレスを見せてくる。
やっぱり、大事なんだろうな。
なら、ダメか。
でも昨日、給料をもらったし、
琥珀さんにはたくさんお世話になったからな…
だとしたら、
このイヤリングは?
琥珀さんは髪が長いから見えないか、
これは…
指輪?
手に取って、見てみる。
銅色のリングに白い花の模様が入っている。
これならいいかも。
『えぇ!ゆ、ゆ、ゆびわぁ!あ、ああ甘ちゃん、結婚するの?』
『えと、琥珀さんに似合うかなと思って…』
え?
結婚⁉︎
指輪=結婚なのか⁉︎
『琥珀に?甘ちゃんなら嬉しい!』
琥珀さんは嬉しそうだけど…
調べてみる。
‼︎
まじか!
や、やめとこう…
なら、
このヘアピンならどうだろう。
白い花がついたヘアピン。
この白い花は、この島で有名らしい。
これならいいかも。
大丈夫だよね?
『こ、このヘアピンはドウカナ?』
ちょっと心配になってきた。
『ゆ、指輪がいいな…』
琥珀さんがボソリと言った。
『ゑ?』
琥珀さんは指輪を持っていた。
『〜っ!』
やらかした。
盛大にやらかした。
もう、ダメかもしれない…
17
『まいどあり〜』
購入した。
ヘアピンを。
丸いヘアピンを。
指につけるタイプのヘアピンを。
琥珀さんはかなーり嬉しそうだった。
『指輪、つけて?』
琥珀さんが、薬指を僕に向けて言う。
その指は…
『・・・』
もういいや、
琥珀さんの薬指にはめる。
恥ずかし〜
こんなところではめるなんて、
恥ずかし〜
ああ〜
今にも逃げ出したい。
でも、
琥珀さんは、はめられた指輪を見て嬉しそうだった。
『甘ちゃんの分も買わないとだね。』
やめてぇ!
それはまじでやめてぇ!
近くのスーパーマーケットで、食料などを買う。
水曜日は安い!と言う張り紙がたくさん貼られていた。
そうか、今日は水曜日か。
色々買っておこう。
指輪が、思っていた以上に高かったからなぁ。
安い時に買っておかないといけない気がしてしまうな。
必要なものをカゴに入れていく。
?
あそこにいる人は…
人狼か?
銀色の髪…
行ってしまった。
『えへへ。ありがとね、甘ちゃん、』
家に帰っても、琥珀さんは嬉しそうだった。
ずっと指輪を見ている。
僕は、琥珀さんに似合うと思っていたヘアピンをつけられていた。
自分用に買ったのかと思ってだけど、僕用に買ったみたい…
ネックレスやイヤリングならまだ男性でもなんとかなりそうなデザインだったけど…
よりによって白い花のついたヘアピンかよ…
『甘ちゃん、そのヘアピン似合ってるよ、』
嘘つけ!
似合ってるわけないだろうがぁ!
カシャカシャッ!
琥珀さんに、写真を撮られた。
『…………………』
なんという屈辱感…
琥珀さんはものすごく満足気だった。
18
Ⅴ
今日は、
まず、桜乃さんの家に向かう。
『おはよー、待ってたよ…』
桜乃さんがいた。
あれ、
元気がない?
桜乃さんは大きなあくびをして、目を擦っていた。
眠いのかな、
『さぁて、行きましょ〜、』
ちょっと、ふらふらしながら歩く。
そっちは逆だけど…
このままじゃダメだろう。
なら、
僕は、銃に手を重ねる。
『う、うわアァァァァァァア‼︎』
桜乃さんが大声をあげた。
『おはようございます、桜乃さん。』
僕はにっこりと笑って言った。
『こここ、こわあぁ‼︎やめてぇえ‼︎』
『眠そうだったので、眠気覚ましにと…』
『死ぬかと思ったから!お願いやめてぇ!もう目、覚めたから!』
桜乃さんにとっては初めての剣士。
そういえば、
『桜乃さんは、今まで仕事とかしてたんですか?』
気になったので訊いてみる。
『えっと、ついこのあいだまでウチの親が働いているとこで働いてたけど、剣士の方がやりたかったからやめたの。』
『え!大丈夫なんですか?』
『うん。人手はたくさんあるみたいだからね。』
そうか…
そっちのことも、もっと考えておけば良かったな。
申し訳ないな。
そんなことを話しているうちに、
剣士署についた。
『ここが、剣士の!』
『はい。』
桜乃さんはワクワクしているみたいだ。
中に入ると、
『銅が言ってた人ってその人か?』
如月さんがいた。
『はい、桜乃さんと言います。』
『初めまして!桜乃美亜と言います!よろしくお願いします!』
桜乃さんが如月さんに自己紹介をする。
『おう!よろしくな!俺は、如月蓮夜だ!』
如月さんも自己紹介をした。
『俺たちと同じ隊になれるかなぁ、』
如月さんが言う。
『どうでしょう、』
それは、わからない。
『んじゃ、まずは鬼塚さんのとこに連れてった方がいいだろうな。』
ということで、鬼塚さんのところに行く。
どちらにいらっしゃるのだろう。
歩いていると、鬼塚さんを見つけた。
『おはようございます!鬼塚様!』
『おはようございます、鬼塚さん。おととい言った方を連れて来ました。』
『おはようございます…』
桜乃さんの声の勢いがなくなっていった。
鬼塚さんは桜乃さんを見る。
『あぁ、今日からよろしくな。』
『あ、えと…桜乃美亜と言います…よろしくお願いします…』
『あとはお前たちに任せたぞ。』
鬼塚さんはそれだけ言って、どこかへ言ってしまった。
また、朝礼の時に言うだろうか。
『さて、事務所に行こうぜ。』
皆で、事務所へ向かう。
『さっきの人、怖かったよぉ〜』
桜乃さんが身体を震わせながら言った。
『わかるわ〜、マジで怖いよな!』
『ちょっと圧が強いと言うか!』
2人が話している。
この2人、結構気が合いそう。
そんなことを考えた。
19
『最後に、今日から新人が入る。』
『え、えと!桜乃美亜です!よろしくお願いしみゃす!』
盛大に噛んだな。
僕が噛んだ時、爆笑してたのに。
とりあえず、拍手する。
『今日から、剣士に女性が入ることを認める。入れたいやつがいれば伝えてくれ。』
そう言って、鬼塚さんは去る。
桜乃さんは専用の服と、剣を受け取る。
『うわぁすごぉい!本物の剣だぁ!』
桜乃さんは嬉しそうだ。
『初めて剣を持った時のワクワク感、わかるぜぇ!』
如月さんも嬉しそうに言った。
さて、見回りに行こう。
今日は第1隊と最近の2人に、桜乃さんが入った6人で見回りに行く。
上峰さんはまだきていないそうだった。
心配だ。
『そういえば銅、手は大丈夫か?』
如月さんが僕の手を心配してくれた。
『もう大丈夫です…』
その手に、ピンク色の絆創膏が貼ってある…
『アッハハハハ‼︎銅、かわいいなそれ‼︎ブハハ‼︎』
如月さんに笑われてしまった。
『もう、痛くはないのか?』
島田さんも心配してくれた。
『もう、ほとんど痛まないですよ。』
だいぶ良くなってはきている。
手を曲げたり伸ばしてみる。
痛みはほぼない。
岡野さんも、心配そうに見ていた。
『心配してくれてありがとうございます。』
皆に向けて言った。
今日はその後、特に問題は起きなかった。
『いいことなんだけどさぁ、なんか起きて欲しかったな〜』
桜乃さんが残念そうに言った。
『まあまあ。これから先、いくらでも起きるだろうからさ。』
そうだろうな。
何も起きなかったと言う方が珍しいくらいだったし、
と、
鬼塚さんがきた。
『お前ら、報告がある。上峰と怪我をしていた3人が、剣士を辞めた。』
え、
そうか…
そうなる気が、どこかでしていた。
今日も、姿を見せることはなかった。
たった半日にも満たない時間しか一緒にいられなかったけど、寂しいものだ。
でも、一番辛いのは…
『そうですか…』
岡野さんだ。
今日も、ぎこちない雰囲気があった。
仲間として共に戦った人を、今日だけで一気に5人なくしたのだ。
それは岡野さん以外の、第2隊の全員だった。
かなり辛いはずだ。
『明日、第1隊は休みだ。ゆっくり休めよ。』
鬼塚さんはそれだけ言った。
暗い雰囲気。
あの時どうすることもできなかったから、後悔していた。
『僕が、弱くて…逃げてばかりで…助けられなかったから……僕のせいだ…』
岡野さんが泣いていた。
悔しそうに。
『あの場にいなかったけど、助けられなかったのは岡野さんのせいじゃないと思うぞ。』
『そうだ、命をかけて戦うんだ。怖くなるのは当たり前なんだ。』
島田さんと如月さんが言う。
『そうだよ!私は防御が下手で、あまし…銅さんに教えてもらって、まだ少しだけだけどやっと守れるようになったくらいなんだから!』
桜乃さんも、続けて言う。
『岡野さんは逃げてなんかいませんでしたよ。ちゃんと戦えてたし、ちゃんと誰かを助けられたはずですよ。』
僕も、言う。
『皆さん、ありがとうございます。僕は、これで失礼します。』
岡野さんはそう言って、帰ってしまった。
『岡野さんまで、辞めることにならないといいのですが…』
それが、心配だった。
20
僕たちも、帰ろう。
皆と別れて、琥珀さんと家に帰る。
と、
『甘師匠!一緒に帰りましょー!』
桜乃さんが走ってきた。
『はい、帰りましょうか。』
3人で帰る。
『今日はどうでした?』
訊いてみる。
『みんなで一緒にいられて楽しかったよ。特に、如月さん?て人と色々話したんだけど、面白い人だね!』
『如月さんとよく話してましたね。なんとなく気が合いそうだとは思ってましたよ。』
笑顔で、楽しそうに話していた。
僕はあまり人と話すことが得意ではないので、羨ましかった。
『岡野さん、辞めたりしないよね?』
『・・・』
わからない。
だけど、
辞めさせたくはない。
『辞めないように、しないとな…』
桜乃さんの家に着く。
『またね〜!』
桜乃さんは笑顔でそう言った。
元気づけようとしてくれているのかもしれない。
僕は、自分の家に向かう。
と、
?
前に、人影がある。
レインか?
人影が動く。
違う、
レインではない。
女性?
長い、髪らしき影が揺れている。
そして、消えた。
『え…』
なんだったんだろう。