テラーノベル
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『はい、チーズ!』
ノイズ混じりの声。
画面の中では、真夏の海が眩しく光っていた。
白い砂浜を駆け回る子どもたち。
『チョモ、変な顔ー!』
『うるせぇって!』
『あははっ!』
カメラが揺れる。
その向こうで、凛子が声を上げて笑っていた。
風に揺れる髪。
日に焼けた頬。
その隣では、小さなルージュが得意げにピースをしている。
誰も、自分たちの未来なんて知らなかった頃の、 画面の中だけに残った、もう帰れない夏だった。
⸻
深夜。
鈴木は一人、パソコンの前に座っていた。
暗い部屋を照らすのは、モニターの光だけ。
動画のタイトルには、
『ふるはうすでいず 傑作集』
再生回数は何千万回を超えていた。
コメント欄には、今も新しい書き込みが増えている。
《懐かしい》
《凛子ちゃん、本当にかわいかった》
《チョモ、今どうしてるんだろう》
鈴木は静かにスクロールする。
少しだけ笑ってしまうようなコメントもあった。
何も知らない人たちの言葉だった。
だからこそ、少しだけ救われる。
誰も知らない。
あの夏の終わりを。
崖で何があったのかを。
鈴木はゆっくりと動画を閉じた。
削除しようとは思わなかった。
消したところで、過去まで消えるわけじゃない。
思い出は、残っていていい。
机の上には、一枚の写真が置かれている。
笑う凛子。
少しむすっとした顔のチョモ。
その端で、背伸びをするように笑うルージュ。
鈴木は写真を手に取った。
しばらく眺める。
それから、小さく息を吐いた。
「……終わったよ」
返事はない。
けれど、その沈黙はもう苦しくなかった。
写真をそっと机へ戻す。
もう振り返るためではなく。
忘れないために。
その時だった。
コンコン、と扉が鳴る。
「鈴木クーン。」
気の抜けた声。
霧矢だった。
片手にはアイスを持ち、ジャージ姿のまま立っている。
「冬橋サンが呼んでる。」
「何。」
「花火。」
鈴木は時計を見る。
夜十一時を少し回っていた。
「こんな時間に?」
「夏だからねぇ」
霧矢が肩をすくめる。
その向こうから子どもたちの声が飛んできた。
「鈴木ー!」
「早くー!」
「なおとー! 火ぃ消えたー!」
「今行く今行く!」
霧矢が慌てて階段を駆け下りていく。
その姿を見て、鈴木は思わず笑った。
「……騒がしいな。」
パソコンの画面は暗い。
写真は机の上。
鈴木は一度だけ振り返る。
「またな。」
誰に向けた言葉なのか、自分でもわからなかった。
凛子へ。
ルージュへ。
それとも、チョモだった自分へ。
答えはなくてもよかった。
鈴木は部屋の灯りを消し、扉を閉めた。
⸻
庭へ出ると、夜風が頬を撫でた。
子どもたちが花火を持って走り回っている。
「走るな!」
冬橋の低い声が飛ぶ。
「火ぃ持ってんだから危ねぇぞー」
「はーい!」
話を聞いているのかはわからないけど、返事は元気だった。
霧矢は子どもに囲まれながら笑っている。
「なおとー!」
「線香花火勝負!」
「おぉ!負けないッスよぉ!」
鈴木はその光景を眺めていた。
「ほら。」
冬橋が一本、線香花火を差し出す。
鈴木は黙って受け取った。
火を移す。
小さな光が、静かに揺れる。
ぱち。
ぱち。
柔らかな音だけが、夜に溶けていく。
ふと、昔の夏を思い出した。
海の匂いと 笑い声。
凛子。
ルージュ。
チョモだった自分。
あの夏は、もう戻らない。
戻れなくていい。
鈴木は線香花火の最後の火を見届ける。
光は静かに消えた。
その代わりに、
庭の向こうから子どもたちの笑い声が聞こえてくる。
鈴木は顔を上げた。
「鈴木ー!」
「何ぼーっとしてんの!」
「早く来いよ!」
その声に、小さく笑う。
「……今行く。」
鈴木は歩き出した。
夏の夜風が吹く。
過去は消えない。
失ったものも、戻らない。
それでも人は、生きていく。
笑い声のするほうへ。
帰りたいと思える場所へ。
#御本人様とは一切関係ありません
@Somi. 👻🍼
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コメント
8件
エピローグまで22話、本当にお疲れ様でした!!鈴木が失ったものを抱えながらも帰る場所を見つけて「よかった」と思う反面、完結に「終わっちゃったなぁ」と寂しく感じます。全話「次はどうなっちゃうの!?」という終わり方と、その期待に十二分に応えてくれるクオリティ。
ああ……読み終えました。最終話、とても沁みました。 「誰に向けた言葉なのか、自分でもわからなかった」っていう鈴木の“またな”が胸に来ましたね。あの夏は戻らないし、失ったものは大きいけれど、それでも今の庭で花火をする音や子どもたちの声が、ちゃんと“日常”として息づいている感じがして。静かで、それでいて温かい終わり方でした。お疲れさまです、unknownさん。いいラストでした。